ホムンクルスの真贋
あの場でフェリクスは、自分に対して恨み骨髄のパトリック王やオブラン宰相に加え、エルスカインとの敵対者である勇者にまで囲まれていたのだ。
俺は尋問したくて地下牢へ放り込んだけど、危険な存在と判断して即刻処断するという選択肢だってあったかもしれない。
なのに、あの時のフェリクスの言動は命乞いとは真逆・・・むしろ俺たちを煽っていると言ってもいいくらいだった。
それは本当にワイバーンが戻って来て王宮とルリオンを破壊し尽くすはずだと信じていたからなのか?
すぐに形勢を逆転出来ると脳天気に構えていたからか?
いや・・・『弱い魔獣を侮った破邪から死んでいく』っていうのが師匠の教えだ。
このところフェリクスがバカだというのが定型文のようになってるけど、敵を見くびれば必ずしっぺ返しに会う。
あの態度は意図的なモノだったと考えるべきだろう。
つまりフェリクスにとっては『虜囚』となっている状態の方が不本意で、むしろ『殺された方がマシ』だと思ってたんじゃないだろうか?
そして徹底的に証拠を残すことを嫌うエルスカインも、自分の魔法に繋がるモノは何一つ、フェリクスに持たせなかったと言うワケか・・・
「パルレア、信じられないかもしれないけどな...」
「そーだねー!」
「まだ言ってないだろ...このフェリクスは『ニセモノ』のホムンクルスじゃないかな」
「へ?」
「御兄様、でも気配が違うのでは?」
「そーよ、お兄ちゃん。コイツの気配は『ホンモノ』のホムンクルスでしょー?」
「魂を持ってるって点ではそうだな。それでもコイツはニセモノのホムンクルスだと思う」
「ソレどーゆーコト?」
「なんて言うか...直感だけどさ...コイツはフェリクスの『ニセモノの魂』を埋め込まれた『ホンモノのホムンクルス』だと思うんだ」
「意味わかんなーい!」
「えぇっと御兄様、ニセモノの魂ってなんですか?」
そうだよな・・・『魂』の『ニセモノ』とか突拍子も無いことを言ってるのは自分でも分かってるんだけど・・・
「ニセモノの魂って言うか...そうだな、『魂の複製』って言った方が近いかもな。つまりフェリクスの魂を何らかの魔法で写し取って、このホムンクルスに移し替えてるように思えるんだ」
「あ!」
「うっそー...」
「そんな事が出来るなんて今まで考えたことが無かったけどさ、もしそうだったら色々なことの辻褄が合うような気がするんだよな...」
「うーん。しょーじき言ってコレまで考えたことも無かったしー...無いとは言い切れないケドさー...」
「ですが御姉様、少なくともホムンクルスの身体に魂を移し替える魔法は古代から存在している訳ですから、移し替える途中で複製することも出来るかも知れませんよ?」
「そうねシンシアさま。ワタシにも具体的な術は分からないけど、原理的には出来ると思うわ」
「マリタンが出来ると思うんなら、まぁ出来るよな。シンシアもそう思うだろ?」
「そうですね...」
複製された魂が幾つもあるのか、それらの記憶とか人格とかは同一なのか別なのか・・・とかとか、真面目に考えると分からないことだらけだけど、『フェリクスのホムンクルスが複数いる』と考えるのが、ずっと感じ続けてきた違和感を一番スッキリと説明できるように思えるのだ。
「じゃー、ソレが仮に出来るとしてお兄ちゃん...ホンモノ...本当のホンモノの...ってヤヤコシイけどっ! フェリクスのホンモノのホムンクルスは?」
「今もまだ、どこかに潜んでいると思う」
「そうなると御兄様、『このフェリクス』が死んでも消えても、エルスカインは痛くも痒くも無いと言うことになりますよね?」
「そうなるな」
「えーっ! ずっるーい!」
「挑発的な態度を取っていた理由がソレなんですね。本当に死ぬことを恐れてないという訳ですか...」
「あの場で俺に『自殺は無意味だ』と釘を刺されなかったら、本当にここで自害してたかもな。コイツとしては捕まってるよりもサッサと殺されて『死んだことになった』方が次も動きやすいってコトなんだろう」
「えっと...それならば御兄様、むしろ処刑したり放逐するよりも、ココに押し込めておいた方が良かったりしませんか? 『このフェリクス』が存在している限り『次のフェリクス』を出してこない可能性もありますよね?」
「うーん...」
「ねぇお兄ちゃん、ホントーにエルスカインに魂の複製が出来てるとしてさー、一度に一人しか作れないとか、一人ずつしか外に出せないって理由あるかなー?」
「そこは分からないな。どの道コイツが本当にホムンクルスとしての消滅を恐れてないんだったら、ココに押し込めておいても時間が経てば勝手に自害すると思うし、尋問しても意味は無いだろう」
「そっかー...」
「まあ、外に出したところですぐに死ぬかエルスカインに処分されるって可能性もあるけど、このまま置いておくよりは次の手掛かりに繋げるチャンスがありそうな気はするよ」
「そうですね御兄様...やはりジャン=ジャックさんのプラン通りに脱走させるのを試してみましょう。仮にフェリクスをここから出すことに失敗しても、ブリュエットさんというフェリクスの母親が、エルスカインの手下になっているかどうかを確認できるかもしれないですし」
「ここを誰かが訪れたり、フェリクスが不穏な動きを見せた時には、俺たちもすぐに知りたいな。シンシア、銀ジョッキをこっちに移しておかないか?」
銀ジョッキ改二号の予備機はアヴァンテュリエ号の円卓にセットしたままだから動かしたくないけど、シンシアがジェルメーヌ王女とのお茶会に持ち込んだのは、獅子の咆哮の前においてたヤツだ。
あの後また慰霊碑の上に戻しておいたはずだけど、これほど大掛かりな攻撃を受ける状況なら、あそこをコッソリ見張ってるのも意味が無さそうに思える。
「そうですね...慰霊碑の裏には弱い結界を張って、誰かが入り込もうとした時に分かるようにしておけばいいと思います。じゃあ、ちょっと行って銀ジョッキを持ってきますね」
そう言うとシンシアは即座に転移して、慰霊碑から銀ジョッキを取ってきた。
もしもブリュエット嬢とやらがエルスカインの手下だったとしても、彼女から次の手掛かりを辿れるかは心許ないけど、パトリック王やオブラン宰相たちにとっては重要なことだろう。
それに、いまも王宮に潜んでいるかもしれない『フェリクス一味』を辿れるかもしれないからな。
ま・・・ブリュエット嬢がホムンクルスだったりしたら話は別だけど。
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とりあえず眠り込んでいるフェリクスの『ホンモノのホムンクルスのニセモノ』に探知魔法を埋め込み終え、借りている客室に転移で戻った。
俺たちが地下牢に降りている間、居間ではエスメトリスとアプレイスが優雅にお茶を飲みながら話をしていたようだ。
あの北部大山脈の山の上で別れてからだいぶ経つからな・・・その間、かなり高密度に色々なことがあったし、全部話してたらとても時間が足りなかっただろう。
「首尾はどうであったかのクライスよ?」
「上々だと言いたいのが半分で、とんでもない事にぶち当たったって気分なのが半分ってとこかなエスメトリス」
「ほう?」
「アプレイス、あのフェリクスのホムンクルスはニセモノだったぞ」
「は? どういう意味だよソレ?」
俺は様々な状況を鑑みて、あのフェリクスが『ホンモノのホムンクルスのニセモノ』というヤヤコシイ存在のホムンクルスだと言う推理に至ったことを二人に説明した。
俺の話に耳を傾けているアプレイスとエスメトリスは、なんと言うか微妙な顔をしているけど、二人ともホムンクルスのことに詳しいという訳でも無いし、『魂の複製』なんて聞いたこともない魔法が存在するのかどうかもピンと来ないのだろう。
「良くわからねけど魔法で魂を複製するのか。パルレア殿も、それが有りうる話だって思うのか?」
「まーねー。しょーじき言ってコレまでそんなコト考えたことも無かったけど、聞けば有り得る話かなーって...」
「ええ御姉様。少なくともホムンクルスの身体に魂を移し替える魔法は古代から存在している訳ですものね。移し替える途中で複製することも出来るかも知れません。それにしても『ホンモノのホムンクルスのニセモノ』と言うのは色々な意味で盲点でしたけど...」
「そりゃ普通は『魂を複製する』とか考えないよな?」
「そーゆー思いつきの突飛さが、いかにもお兄ちゃんらしーケドねー!」
「褒めてる?」
「モッチローン!」
「まあいいけど。突飛だって点は否定できないし」
「ですが、これまで色々と不可解だったことにも説明がつきますね御兄様」
「だろ?」
複製した魂を持つホンモノのホムンクルスに、『肉体が滅びてもオリジナルに戻るだけ』みたいな聞こえの良い嘘を吹き込んでおけば、死を恐れず、しかも消耗可能なホムンクルスの出来上がりだからな。




