表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第八部:遺跡と遺産
769/934

フェリクスへの違和感


悶々として待つ時間がかなり経ってから、ようやくパルレアがくるりと振り向いて笑顔を見せた。


「これでダイジョーブ! もー、完全に眠っちゃったからねー」

「時間が掛かってたみたいだから、ちょっと心配したよ」


「いきなり気絶させるとさー、後でアヤシイって思うかもしれないから、まず強い眠気を感じさせてから、ちょっと時間をおいて眠らせたのー」

「なるほど!」

「これで本人は、たんに疲れて眠り込んだって思うハズ?」

「さすが気が利くなパルレア!」

「ほめてー!」

「おう! 思ってたよりも時間が掛かってるぽくて心配したけど、そんな小技を繰り出してたとは感心したぞ。気が利くなぁパルレア!」


牢の内側を覗き込むと、フェリクスが寝台に横たわってグウスカ寝ている。

なるほど・・・自分で眠気を感じて寝台に横になったので有れば、しばらく熟睡していたことにも不審をいだかないだろう。


「では御兄様、フェリクスに探知魔法を埋め込みますね」

「その前にパルレア、フェリクスが魔道具の類いを隠して持ってないか、ちょっと調べてみてくれ。マリタンも一緒に頼む」

「はーい!」

「分かったわ兄者殿」


パルレアが元気よく返事をして横たわるフェリクスに向けて手を伸ばす。

意図的にとは言え目の届く所から離す訳だし、もしも支配の魔法に関係する魔道具でも隠し持たれてたら、後々でトラブルのタネになるかもしれないからな。


「うーん...短剣を持ってるけど、コレって魔剣の類いじゃ無いみたいだしー、仕込まれてる魔道具も無いかなぁー」

「服に魔法陣が埋め込まれてたりしてないか? いつぞやのギュンター・ラミング邸のオットーみたいにさ?」

「そーゆーのも無さそーね」

「ワタシも魔法の類いは何も感じないわね兄者殿」


「そうか...じゃあシンシア頼む」


眠りこけているフェリクスの靴を脱がせ...シンシアに触らせる前にまず足を徹底的に浄化だな。

パルレアに頼もうかとも思ったけれど、ホムンクルスに大精霊の浄化を迂闊に掛けて大丈夫かどうか心許ないので、自分でやることにする。


「よし今度こそコレでいいだろう」

「それでは御兄様、探知魔法を仕込みますね」


頑張って清潔にしたフェリクスの足裏の皮膚にシンシアが手早く探知魔法陣を埋め込んでいくが、以前にシーベル城でカルヴィノの背中に埋め込んだ時のように、あらかじめ紙に描いていてある魔法陣を転写するのでは無く、手の平に直接魔法陣を呼び出しているのが凄い。


シンシアの魔導技術の進化は留まるところを知らないな!


「これで大丈夫だと思います。後はフェリクスの着ている服...そうですね、上着の内側にも探知魔法を埋め込んで、それをフェリクス本人やこの牢獄の壁と紐付けすれば完了です。フェリクスがこの牢獄を離れたら、移動手段に関わらずに警報が飛んできます」


「よし、ソレが済んだら次は上に戻って、フェリクスに使わせる『脱獄手段』の罠をでっち上げるとするか」


このプランはジャン=ジャック氏の発案だけど、実際にはシンシアの魔導技術が無ければ実行不可能なモノだ。

上では適当に軽く話してたけど、もしもジャン=ジャック氏がシンシアの魔法なら出来ると踏んだ上で提案してきたんだったら大したモノだな・・・


「フェリクスが自分のために用意された転移門を目にしたら、直接どこかの拠点に転移すると思うハズでしょう?」

「まあそうだな」

「でも、実際にはブリュエットさんという方の屋敷で転移門の罠から転がり出ることになるかもしれないと...ひょっとしたそこが実際にエルスカインの拠点の一つだという可能性だって、無きにしも非ずですよね?」


「ブリュエットって人がジャン=ジャック氏が言うほどエルスカイン側かどうかは、まだ判断できないけどね。なにしろ本人に会ったことも無いし、ただ息子が可愛いだけの親馬鹿かも知れないからな」

「そうですね...でもブリュエットさんがこの誘いに乗ってこなければ、フェリクス王子を『逃がす』手段は改めて考え直さないとダメですね」


シンシアがそう言って考え込んだ。


フェリクスをワザと逃がして泳がせるっていうのは妙案だけど、かなり際どい手段だし、ジャン=ジャック氏の目論見通りにブリュエット嬢が動かなければ、次善の策は無いに等しいからね・・・

まあでも、ブリュエット嬢が期待通りの行動を取らなかったとしたら、その時はその時か。

フェリクスを泳がせないと反転攻勢が出来ないってワケでも無いしな。


「ところで御兄様、フェリクスが身に着けている短剣は取り上げておかないのですか?」

「そのままにしておこう。無くなってれば眠ってる間に身体検査されたと分かるからね。出来る限り油断させておきたいんだ」


「大丈夫でしょうか? 牢獄に入れられる際に身体検査されるのは当然ではないかと思いますが」

「牢屋にぶち込まれているのに武器を取り上げられてないなんて普通なら罠を疑うところだけど、コッチは本来ワイバーン襲撃でてんやわんやのハズだし、そのドタバタの渦中で見過ごされたと思うんじゃないかな」


「コイツってバカっぽいもんねー!」


「身も蓋もないな。騎士や貴族なら日頃から短剣やナイフの一本くらいは身に帯びてるものだし、フェリクス本人だって短剣一本で俺たちと戦うなんて考えて無いだろうさ...」


と、そこまで言って逆に違和感を感じた。


フェリクスは、勇者がいると分かってる状況に自ら先陣を切って攻め込むのに、イザという時の逃走手段とか反撃手段とか、そういうものを何も持たずに乗り込んできたのか・・・?


「どうしました、御兄様?」

「ん、ちょっと待ってくれ。なにか頭の中で引っ掛かってるんだ...」


緊急用の武器は、ほぼ日用品と言える短剣一本だけ?

あのワイバーンの大群さえいれば勝利は揺るぎないと、自信満々だったんだろうか?


「いやぁ...フェリクスが何も隠して持っていないって言うのが、逆に不自然に思えるんだよなあ...勇者一行が待ち構えてる敵の本拠地に先陣を切って乗り込むんだぞ? いくら勝利を確信していても、最低限の武装くらいはするもんじゃ無いかな?」

「言われてみれば、そうですね...」

「えー、不死身だって思い込んでるだけじゃないのー? バカだし」


「いつぞや話に出てた不死の部隊か? でもソレ自分が死なないって話じゃ無いだろう?」

「ええ、それにフェリクスがどれほど無鉄砲でも、エルスカインはそうじゃありませんよね...」


シンシアの言う通り、仮に頭の回らないフェリクスが自信過剰だったとしても、用意周到なハズのエルスカインがそれを放置して、手ぶらのまま送り込んで来たっていうのは腑に落ちない。

他の護身方法が隠されているのか?


それとも・・・まさか、万が一の時はフェリクスが捕まろうが死のうが構わないって言うのか?


いやいや待て待て、フェリクスは自分で自分を『主導権を持った存在』だと思っている。

それが事実か単なる彼の思い込みかはさておき、島流しされたフェリクスをエルスカインがわざわざ救い出したのは確かだし、死んでも構わないとは思っていないはずだよな。


そうなると、なんらかの護身方法が用意されているはずだけど、パルレアとマリタンの探知には何も引っ掛かってない。

二人が見落とすとも思えないから、魔道具や魔法陣の類いは隠してないだろうし、仮にホムンクルスになったフェリクスが何らかの手段で魔法使いとしての力を得ていたとしても、この結界の中では無意味だ。


うーん、最初から俺の理解が間違ってたような気がしてきたぞ・・・


「なあ、エルスカインはフェリクスを守ろうとしてるはずなのに、今回は万が一、攻撃が失敗した時には、死のうが捕まろうが構わないって感じで送り込んできてる感じがしないか?」

「そうですね御兄様。でもフェリクスはエルスカインから救助して貰えるハズだと信じてるんでしょう?」


「ソコがどうにもチグハグに思えるんだ。帳尻が合わないと言うか間尺が合わないというかさ...捕らえたフェリクスが目を覚ました時もパトリック王に向かって攻撃しようとしたり、捕らえてる側の俺たちに向かって『配下になれば命は助けてやる』みたいなフザケタことを言ったり、なんて言うか奇天烈だったろ?」


「確かに状況を全く理解してないというか、いえ、むしろ『状況を気に留めてない』という感じでしたね」


ん? 状況を気に留めてない・・・


そのシンシアの言い回しが不意に刺さった。

普通なら『気に留めない』のは、それが『どうでもいいこと』だからだ。


絶対に勝てると信じていた王宮への大規模な襲撃に失敗して捕らえられ、その場で殺されてもおかしくない状況を『どうでもいい』事だと思えるのは、本当に死を恐れていないからなのか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ