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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第八部:遺跡と遺産
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城壁の存在


眼下の大河は、真っ平らな平野部の割にはクネクネと蛇行することも無く真っ直ぐに延びている。

アプレイスがそれに沿って北上し始めたので、まるで眼下にキラキラと光る大街道が通っているみたいだ。


「スライ、ルリオンはこの街から近いのか?」


「川沿いに馬車で数刻だな。毎日、海辺の街から獲れた魚が運ばれてくるってくらいの距離感だよ」

「そうか。ならルリオンでもブイヤベースが食えるかな?」

「どんだけブイヤベースを気に入ったんだよライノは!」

「だってアレは美味いぞ!」

「ルリオンまでメシを食いに行く訳じゃねぇんだからよ...」


スライがちょっと呆れたような目で俺を見る。


「まぁ正直、俺も久しぶりに郷土料理が食えて嬉しかったけどな。ちなみにルリオンの名物料理は残念ながらブイヤベースじゃねぇぞ? ブイヤベースはホントに海沿いの街じゃねえと厳しいんだよ。夏なんか魚を運ぶだけでも大変だからなぁ」


「氷魔法でも使えばいいじゃないか?」

「アホゥ、そんな魔法が漁師や魚屋に使えるか! つーか魚を運ぶ費用に幾ら掛ける気だよ...」

「それもそうか」

「ルリオンの名物はワイン煮込みだ。ホントはもうちょっと寒くなってからが美味いけどな」

「ワイン煮込み? 熱燗にしたホットワインの一種か?」

「それは料理じゃねぇよ。そうじゃなくって塊肉をコトコト長い時間かけてワインで煮込むんだよ。肉がホロッと柔らかくなっててな、美味いぜ?」


「ワインを煮汁に使うのか! そりゃ贅沢だなぁ...」


「ルリオンの北側にはなだらかな丘陵地帯が広がっててな、そこら一帯がワインの名産地なんだよ。秋が深まると、その年に取れたブドウで仕込んだ出来立てのワインも店に並ぶ。そこそこ安いワインも出回ってるから、料理に使うのはそういう奴だけどな」


ワインの名産地か・・・パルレアを連れてきたら飲み比べとか始めて、一気に散財しそうだ。


「じゃあ『王家の谷』って言うのも、その丘陵地帯にあるのか?」

「そうだ。別名『獅子が眠る谷』って呼ばれてるらしい」

「獅子? 獅子って南方大陸に住んでる猛獣の?」

「ああ」

「王家専用の墓所だったら、その『獅子』って言うのは王家の英雄とか、そんな意味合いかもしれないな」


「かもな。実際、ルリオンってのは古い言葉で『ル・リオン』ってのが訛った呼び名なんだよ」

「へぇ」

「で、そのリオンの意味が『獅子』だな」

「じゃあリオンってつまり『ライオン』のことか。それにしてもサラサスは南方大陸つながりが多いな」


南方大陸に住む獅子は魔獣ではなく、大きくて勇猛な肉食獣だ。


見た目が立派なこともあって、古くから何度もポルミサリアに持ち込まれているので良く知られている。

その獅子の現地での呼び名が『ライオン』。

いにしえの王達の中には、強さの象徴として城で獅子を飼っていた者もいると聞いた事があるので、ルリオンと言う名前もそういう由来なのかもしれない。


「サラサス人は先祖に南方大陸からの移入者が混じってるって言われてるくらいだからな。ま、ミレーナやポルセトの人達も似たような感じだから南岸諸国一帯の人族がって話けどね」


「へぇ、そうなのか?」


「顔立ちもミルシュラントやアルファニアより北の人たちとはチョット違う感じがするぜ。髪の毛の色も濃い人が多いし、ウチの父上やアランみたいに日焼けしやすくて色黒な人が多いのも特徴だ」

「じゃあスライやアロイス卿は、ヴァレリアン卿じゃなくって御母堂様に似たのかい?」

「その通り。上の双子の兄達と姉君は父上似だけどな。タチアナが母上の若い頃にソックリだって言われてるから、母上は、ああいう系統の顔だ」


確かにポルセトやミレーナに行った経験からも、スライの話には頷ける。

いつごろから南方大陸に渡る事が出来ていたのかは知らないけど、意外と古くから辿り着けていたのかもしれない。


いや逆か・・・古い時代にも、南方大陸から北部ポルミサリアへ渡ってきた人達がいたってコトだもんな。


「で、話を戻すけど王家の谷は丘陵地帯にあるんだろ。王宮からは近いのか?」


「ああ、王宮の後ろだな」

「ん、王宮は街の中心部じゃないのか?」

「違うね。王宮は背後に丘陵地帯を背負ってる位置で、『王家の谷』はその奥だ。市外は王宮の前っつうか南側から平野に向けて広がってんだよ」


「変わってるな! まあ『王家の谷』が丘陵側ならコッソリ入るのも簡単そうだからいいけどな」


「いや、なんつーか王宮は玄関口みたいな位置にあってな。そっから左右に馬鹿デカい城壁が伸びてるんだ。その城壁がクソ長くて、王家の谷もぐるりと中に囲い込んでる」

「ってことは、墓所が城の中にあるのか?」

「敷地の中、だな」

「その玄関が宮殿なのかよ」

「敷地全体で見れば、そういう配置になってるってコトだ。宮殿から城壁が伸びてる風に見えるからな」


「長いって、どのくらい?」


「たぶんキュリス・サングリアで言うと、『貴族街』がまるっと収まるぐらいじゃねえか?」

「おぉぅ広いな!」

「広いだけでスカスカだけどな」

「でも丘陵地帯って事はデコボコした土地だろう? そこにずっと城壁を立ててるのも凄いよな」


「高低差は激しいから城壁もそれに合わせてる。城壁の上は歩廊になってて見張りの兵も常駐してるから、普通の奴なら壁を乗り越えて進入するのは難しい。まあ俺達の場合は、アプレイス殿に内側に降りてもらえばいいだけだけどよ」


「王家の谷はその城壁の内側にある訳だろ。端っこの方ならいいんだけどな」

「お生憎様、ど真ん中だ」

「くそぅ」


でも、ちょっと不思議な感じがするな・・・


王城のある敷地がやたらダダっ広いって言うのも、その周囲を巨大って言うか長大な城壁でぐるりと囲んでるって言うのも、大戦争時代の防衛戦の名残だと考えれば、まあ納得がいく。

でも、その中心にあるのが王宮そのものじゃなくて、『王家の墓所』だって言うのはヘンだ。

普通なら、一番守りたいものを中央に置いて敵から遠ざけるだろう?

王様の御所よりも墓所を守りたいのか?


「なあスライ、『王家の墓所』が王城の敷地のど真ん中にあるって、逆に不思議じゃないかな?」


「気にした事が無かったな。昨日アランに言われるまで、王家の谷なんて存在自体を忘れてたしよ...」

「その長い城壁って、まるで墓所を中心にして囲んだみたいじゃないか? しかも王宮自体が玄関口って言うのは解せないよ」


「なるほど...言われてみりゃあそうだな...」


「もし、城壁が守ってるのが王宮じゃなくて『墓所』だとしたら、そこにそびえている黒い壁の意味が気になって仕方ないな」

「おいライノ、どう考えても気になるどころか『当たり』だろソレ?」

「だよなぁ...」

「やっぱり遺跡で、エルスカインが王家を牛耳ろうとした狙いはそれなのか?」


「そうだろうけどなアプレイス、俺としてはチョット気になる事もあるんだよ」

「なんだよライノ?」


「アラン殿が言ってた『黒い岩壁』ってのは間違いなく古代に作られた凝結壁って素材だ。だけど、敷地を囲んでる城壁が同じ時代に作られたものだったら、普通は同じように凝結壁を使ってると思うんだよ?」

「ああ、それもそうだな!」

「な、アプレイスもそう思うだろ? 城壁が普通の石組みだとすれば間尺が合わないよ。三千年前に作られたナニカを、ここ数百年くらいの人が城壁で囲って守ろうとしたって言うのか?」


「確かにヘンだな...仮にそうだったとしても、誰から守ろうとしたのかってのも謎だよな?」

「ああ、城壁で囲んで守るなんて軍隊相手の話じゃないか? 大戦争中か?」

「いやライノ、俺は戦争中じゃないと思うね」

「なんでだスライ?」

「ああいう大規模な城壁ってのは、作るのに凄まじいお金と時間、それに人手がかかるもんだぜ? そんなもん戦争の最中(さなか)に手を出してられねぇよ」


「金と時間と人か。どれも戦争中には一番先に足りなくなるモノだな!」


「そういうこった。建設に時間と手がかかれば食い物も沢山必要になる。揚げ句に兵隊と人足に手を取られて農民も足りなくなるから食い物も足りなくなる...悪循環だぜ?」

「じゃあ平和な時代...少なくとも合戦の真っ最中じゃない時に何年も掛けて石壁を組んだ訳だ。何を守ろうとしたかはともかく、どっかの国から攻めて来られるって読みがあった訳か」

「そうとも限らねぇ、かもよ?」

「じゃあスライ、攻められる訳でも無いのになんで城壁を作るんだ?」


俺がそう言うと、スライは少し眉間にしわを寄せてぼそっと言い放った。


「墓所で何やってるかを誰にも見られないようにするとか?」

「あっ!」

「有りだなスライ殿」


攻めてくる敵兵からの防衛じゃなくて、周囲からの目隠しのための障壁か。

それも有りそうな気はするけど・・・


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