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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第三部:王都への道
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シーベル子爵家の騎士団


その後しばらく、アルファニアの話と姫様の知っているレスティーユ家の内情を教えて貰ったりしながら昼食を終えた。


食後のデザートまで出てきてホクホク顔ではしゃぐパルミュナを愛おしそうに見つめていた姫様は、後は出発までのんびり過ごして欲しいと言った。


「それでは失礼して、わたくしも出発まで少し休ませて頂きますわ」


馬車の中に戻るのかと思ってたら、なんと姫様はそのままラグの上でごろりと横になる。

驚いている俺を横目に、エマーニュさんとシンシアさんも、それぞれ自分のラグの上で姫様と同じようにクッションを枕にして横になった。


えええぇっ?!


またしても驚いたよ、驚かされたよ。

伯爵様と子爵様と伯爵家令嬢がそんな無防備に・・・


そりゃ騎士たちは油断無く周囲の警戒を怠ってないし俺たちだっているから、物理というか戦闘的には無防備じゃないけど、大貴族の女性が大勢の他人の前で、地面にごろりと横になって目を瞑るなんて、想像の範疇外だ。


リンスワルド流の振る舞いには大概慣れたつもりだったけど、俺もまだまだだな!


++++++++++


食後に半刻ほどのんびりとした後、隊列は再び草原を離れて領境へと向かった。


「ねー、姫様と親戚って驚いたよねー」


馬車に戻ると早速パルミュナがさっきの話題を持ち出してきた。


「まあな。でも親戚って言っても俺にしてみれば遠い昔の話だし、リンスワルド家もアルファニアが出自で耳先の丸い一族って聞いてたから、意外とそんなもんかって感じで納得したけど」

「えー、あっさりー」

「そうか?」

「だって、もっとテンション上がるかと思ったのにー」

「うーん、産みの親のことは俺の中ではもう一段落しちゃってるからなあ...それに元を辿ればなんて言い出したら、世の中って親戚だらけだろ?」


「まー、そーだけどさー」

「さもツマラナイって風に言・う・な! でも飲み込めたって言うか落ち着いたのはパルミュナのお陰だけどな」

「そうなんだ?」

「そうだよ。それに父さんと母さんは死んじゃったけど、いまの俺には可愛い妹がいる。パルミュナは手で触れられるところにいる家族だ。それで十分なんだ」

「えへー、照れるー」

「よく照れてるよな、お前」

「だってお兄ちゃん、物言いがストレートだもーん」

「はいはい」


そんな他愛ない会話をした後は、窓から外の景色を眺めているほかに、馬車の中ですることもない。

やがて隊列は、『峠』と呼ばれているリンスワルド伯爵領とシーベル子爵領の領境に差し掛かった。


峠と言っても決して山を越すというほどのモノでは無くて、山と山の切れ目を通り抜けるという方がイメージに合ってる感じ。

ここまでの道のりも距離は長かったが、ほとんどの場所は上り坂と言っても徒歩や騎馬ならほとんど気にならないレベルで、自力で荷車でも引いていればキツいと思うかな? という程度の勾配だ。


それでも、いま俺たちが通り抜けている左右の山並みが、古い時代には天然の要害となって小さな王国を守っていたんだよね。

なにしろ、楽に通り抜けられる道が一本しかないとなれば守るのはたやすい。


そして、待ち伏せする側にも絶好のポイントだ・・・


事前にヴァーニル隊長からルートの大まかな説明は受けていたので、仮になんらかの襲撃があるとすれば、さっき昼食を取った草原かこの峠だろうと思っていた。


だけど、エルスカインは中途半端なことはしないと言う不思議な確信もある。

エルスカインの目的は、ただ姫様を亡き者にする事じゃなくって、一旦行方不明にしておいてから、死体を元に自分が作ったホムンクルスと入れ替えることだろう。

仮にここで姫様の隊列を皆殺しに出来たところで、あまりいい段取りが出来るとは思えないんだよな・・・


まあ、だからと言って向こうさんがノンビリしてる訳はないし、次を見据えてなんらかの仕掛けを打っては来るだろう。

なによりもパルミュナの結界で逃げ出した行商人がその証左だな。


++++++++++


その領境(りょうざかい)には、ここが境界であることを示す道案内の立て看板があるだけで関所の類いはなにも無く、変化と言えば、これまでは緩やかな上り坂だったのが、ここからは緩やかな下り坂になるというだけ、だと聞いていたのだが・・・


馬車が停まったので窓から首を突き出して前方を見ると、領境の向こう側に一団の騎士たちがずらりと勢揃いしている様子だ。

遠目にも、掲げている旗の色でシーベル子爵の騎士団らしいことが分かる。

物々しいと言えばそうなんだけど、敵対的な雰囲気じゃないな。

こっちの騎士団の先鋒と談笑しているし、そもそも先触れが走ってるのだから怪しい動きがあれば連絡が来ていただろうから、きっとこれは想定内のイベントなんだろう。


そのまま眺めていると、驚いたことに姫様が馬車から降りてシーベル子爵の騎士団に向かって自ら歩いて行く。

もちろんエマーニュさんも一緒だ。

もう、何度でも驚かされてあげるよ!

ホント姫様って、こういう貴族らしくないイレギュラーな行動が日常茶飯事だよな。


どこでも平然と馬車を降りるし、ヴァーニル隊長の心労が伺えるわ。


危険な雰囲気ではないし対人戦なら騎士団の領分だけど、様子を知りたかったので俺とパルミュナも馬車から降り、姫様から少し離れて後ろに付いた。

即座に俺とパルミュナの護衛役の騎士も馬から下りて付いてくる。

別に気にしなくていいのに・・・

と言うか護衛とか付けてくれなくてもいいのに・・・

まあ姫様のことだから考えがあってやってることなんだろう。


姫様が近づくと、馬を下りて街道の両側にずらりと並んでいるシーベル子爵の騎士団が一斉に敬礼する。

うーん、豪華絢爛。

鎧や装備がわりと質実剛健風味のリンスワルド騎士団に較べると、シーベル騎士団はビジュアル面の強化を目指してる感じか?

こういうところは公国軍と違って領主の性格が如実に出るよなあ。


すぐにシーベル騎士団から隊長クラスらしき男性が慌てて歩み出ると、姫様に向かって跪いた。

後ろの騎士たちも合わせて跪く。


「主君の命により、リンスワルド伯爵家の姫君をお迎えするべく馳せ参じました、シーベル子爵家騎士団のハルトマンと申します。姫様におかれましてはご機嫌麗しく、この場でご尊顔を拝謁できること、望外の喜びにございます」


「お久しゅうございますなハルトマン殿、お出迎え感謝致しますぞ」

ヴァーニル隊長の返礼に続いて予想通り姫様も相手に声を掛ける。


「顔をお上げくださいませハルトマン殿。精鋭として知られるシーベル子爵家騎士団の皆様にお守り頂けるとなれば、わたくしの臣下たちもここでは張り詰めた気を休めることが出来ましょう。出迎えに感謝致しますわ」


「ははっ、誠にもったいなきお言葉にございます!」


俺の想像では、いまの姫様のお言葉と笑顔でシーベル子爵家騎士団の一割くらいはリンスワルド領に移籍したくなったんじゃないかって気がするぞ。

でも普通、こういうのは同じ役職の立場にあるヴァーニル隊長が相手をするだけだと思うが?

リンスワルド家の場合は常識で言っててもキリがないけど・・・


姫様は謝意を伝えると馬車に戻り、後はヴァーニル隊長と数人の部下がハルトマン騎士と行程の確認をしているようだ。

俺とパルミュナも馬車に戻ったついでに、シルヴァンという名の護衛役の騎士に聞いてみた。


「シルヴァンさん、他の貴族の領地を通るからって、そこの騎士団が出迎えに来たり護衛に付いたりすることって、良くあるんですか?」


「クライス様、わたしめに対しての『さん付け』や敬語は不要にございます」

「あ、まあ...」

「お尋ねの件ですが、普通はありません。無論、先に通過の予定はお知らせ致しておりますし、先方様によっては夜会を開いてもてなすということをされる方もいらっしゃいますが」

「じゃあ特別扱い?」

「なんと申しますか...その...シーベル卿は姫様のファンでございまして...」

「あー、なんとなく理解しましたよ」


「誤解のないように申し上げておきますが、決して子爵様も姫様に対して色恋のお気持ちを抱いてらっしゃるわけでは無いと思います」

「すると?」

「えーっと、その、ここだけの話にして頂けると助かりますが、無礼を承知で喩えるならば、年配の男性が親戚の若い娘に対して抱くような庇護欲と申しましょうか...」


「うん、把握したかな?」


なるほどね。

まあ子爵からすれば伯爵、それも事実上の辺境伯として扱われているリンスワルド家の方が遙かに格上だ。

(よこしま)な気持ちを抱ける相手ではないだろうし、美しい姫様に少しでも気に留めて貰えれば本望ってところかな?

それに、経済的に右肩上がりのリンスワルド家と仲良くしておきたい、という気持ちがあっても不思議じゃないだろう。


決して偏見じゃなく。


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