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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第三部:王都への道
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<閑話:銀の梟亭にて>


夕刻になり、お店の中が段々と賑わってきました。


「こんちはー!」

「いらっしゃいませ〜」

「あと二人来るんだけど、奥の席を貰っていいかな?」

「はい、どうぞ!」


そう言って店に入ってきたのは、とてもハンサムな男性でした。

初めて見る方ですが、破邪の装いをしています。

そう言えば、一週間ほど前にも、とても愛らしいエルフの娘さんをお連れになった破邪の方が、三日ほど続けて来店されていましたね。

宿を出立されるときには前日に頼まれていたお弁当も渡したので、よく覚えています。


「皆さんがお揃いになるまで、先に何かお飲みになりますか?」

「いやあ、すぐに来るから大丈夫」

「承知しました」


その男性の仰った通り、待つほどもなく二人のお客さんが入ってきました。

「いらっしゃいま...あら? お久しぶりですね!」

なんと、店に入ってきたのは、先ほど思い出していたエルフ連れの破邪の方でした。

先日と全く同じように男性の方は破邪の装いで、エルフの娘さんの方はフォーフェンで新調したとおぼしき旅装です。

どうして分かるかというと、二日目に彼女の服装がガラッと変わったからです。


「やあこんばんは。実は今夜も泊まるんで早速食べに来ました。って言うか、ここの料理が食べたくて銀の梟亭に泊まるってのが本音ですよ」

「ありがとうございます! そう言って頂けるとホントに嬉しいです!」


「おーい、こっちだライノ」

「レビリスお待たせー!」

「おっ、しっかり奥のテーブルを確保してやがるな...」


先ほど一人で来た方のハンサムな破邪の方が声を掛けます。

このお三方の組み合わせでしたか・・・中々にインパクトのある顔ぶれですね。


道を歩いていれば女性の目を惹くだろうキラキラ系のハンサム青年・・・

もし舞台役者にでもなれば、破邪よりも騎士の役が似合いそうです。


そして群衆の中では浮いてしまいそうな絵画級の美少女・・・

こちらは囚われの王女様とか、いっそ妖精の役なんかが似合いそう。


それと、ライノと呼ばれていた破邪の男性は、なんというか渋い系?

最初に来た男性のように隙のないハンサム顔ではなくて・・・

優しそうなのに深みがあるというか、凜々しいお顔ですね。

実は歴戦の戦士とか? 

いえ、むしろ英雄のような雰囲気かも。

なーんて!


まあ破邪でいらっしゃいますから、きっと魔獣や魔物と長く闘って来られた経験が、不思議な雰囲気を醸し出しているのでしょう。


ところで、いつも一緒の美少女は明らかにエルフ族です。

耳先がちょんと尖っています。

雰囲気としては恋人同士という感じではありませんし、見た目の年齢差も合わせて、むしろ年の離れた兄妹っぽいオーラがあります。

でも、男性の方は耳先が丸いんですよね・・・

エルフ族でも、家系によっては必ずしも耳先が尖っているわけでもないことは知っていますが、このお二方が兄妹だとすれば変ですね?


・・・うん、分かりました!

きっとこの兄妹は『ハーフエルフ』、つまり人間族とエルフ族の間に生まれた兄妹なんでしょう。


それでお兄さんの方は、父か母かは分かりませんが、人間族の方の親御さんの血を濃く継いでるので耳先が丸くて顔つきも渋い。

妹さんの方は逆に、エルフ族の親御さんの血を濃く受け継いでいて、耳先が尖っていて美形であると・・・

そう考えればスッキリと納得できます!


お顔の雰囲気からして、きっとお兄様は人間族の父親似で、そして母親がエルフ族で妹様はそちらに似たとか・・・


偏見でしょうか?


実は私はこれでも、とある貴族様のお屋敷で長らく給仕の修行をさせて貰っていた身です。

詳細は秘密ですが、貴族様はもちろん、各地の騎士団の方、様々な外国からのお客様、商人や治安部隊の軍人さん、etc. etc.。

色々な立場や種族の方々に対して、同じ屋敷で働く調理人だった兄上の作る料理をサーブしてきました。


自分に『人を見る目がある』なんて欠片も思いませんが、普通に市井(しせい)の食堂で働いている方に較べると、身分の高い方々を沢山見てきたことは事実です。

と言うか、むしろ前の職場では庶民の方がお客様としてテーブルにお着きになると言うことは滅多にありませんでしたので・・・


そんな経験から見ても、このご兄妹?は不思議な雰囲気を醸し出していらっしゃいます。


いまも三人でエールをグイグイ飲みながら、楽しそうにワイワイやってらっしゃるのに、なぜかこのご兄妹には気品を感じるのです。


いえ、ハンサム青年の方だってとてもスマートと言うか、破邪なんて言う危険と背中合わせで、いつ命を落としてもおかしくない(と聞きました)仕事に就いている方とは思えませんけど。

それでも、ご兄妹のお二人が醸し出す雰囲気は上品と言うよりも、なぜか高貴にすら感じます。


まさか?・・・

ひょっとして外国の貴族様がお忍びで?

破邪と街娘の装いは身分を隠すためのカモフラージュだったり?


ここはリンスワルド領の十字路、交易都市のフォーフェンです、十分にあり得ます!


これは危険ですね。

迂闊な対応をしてしまうと、後でどこから何が飛んでくるか分かったものではありません。

言っては悪いですが、そもそも貴族とはそう言う人たちで、私の以前の職場が特殊というか恵まれ過ぎていただけ、だと言うことは良く理解していますから。


もっとも、あのご兄妹はこの『銀の梟亭』をいたく気に入って下さっているようなので、よほどのヘマをやらかさない限りは大丈夫だと思うのですが・・・

兄上、お願いしますね! 

今日に限って味付けに失敗とか、絶対に勘弁して下さいね!


そんなことを考えつつ、ご注文頂いていた『豚すね肉の塩茹で』をいそいそとテーブルに運んでいきます。


「赤いな」

「こりゃあ赤い」

「赤くておいしそー」


お三方が嬉しそうな反応をして下さいました。

途中、ハーフエルフのお兄様(私の中では、もう確定です)から、塩茹で肉の作り方を尋ねられたので、『リンスワルドの岩塩を使う』という事を強調しつつご説明しておきました。

ついでに妹さんの方には、兄上渾身の新作デザート、干しイチジクのコンポートを焼き込んだケーキをオススメしてみました。


案の定、甘い物好きの妹さんはケーキを即断です。


更に、途中でお兄様からケーキの追加オーダーも頂戴しました。

ああ、これはもちろん妹さん向けのお代わり分ですね。

このお兄様、これまでも美味しいデザートは半分残して妹さんに食べさせたりしてるんですよ。


もう、なんて妹に優しいお兄様でしょう!


うちの兄上に爪の垢・・・もとい。

すみません、ちょっと鬱憤がこぼれてしまいました。

うちの兄上も、立派だし優秀だし平均的には優しいですし、とっても尊敬してるんですけどね?

調理人のくせに朝が弱いという致命的な欠点にさえ目を瞑れば、本当に素晴らしい逸材。

家族のひいき目と言われるかもしれませんが、真剣に百年に一人の才能だと思っています。


いまも一緒に暮らしていますが、毎朝、兄上の部屋に行って叩き起こしてあげないと一日が始まりません。

兄上と一緒に暮らしている限り、私には『朝寝坊』という贅沢を体験するチャンスはあり得ないのです。


できるだけ早く、早起きに強い素敵な女性を見つけて貰えないものでしょうか?

ちなみに、空が白くなる前に目覚める人じゃないと駄目です。

市場での仕入れと仕込みに間に合いませんので。

その点では農家、特に酪農家の娘さんなんかが最適だと思うのですが、フォーフェンの街中で暮らしていると、そういう方々と出会うチャンスはあまりありませんね。


なんとかしないと・・・


このまま毎朝、兄上を叩き起こして一日が始まるという暮らしを続けていては、いつまで経っても私も連れ合いを見つけることなんか出来ません。


お願いしますよ兄上!

さっさと義姉となる方を見つけて下さいね!


可愛い妹のためにも!


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