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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第二部:伯爵と魔獣の森
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ブラディウルフの痕跡


急にケネスさんに狼姿を褒められて挙動不審な感じになっているダンガたちに改めて追跡を依頼する。


「じゃあダンガ、悪いがブラディウルフがどっちから来たのか、少し辿ってみて貰えるか?」


「ライノ、匂いを追うならこの姿のままの方がいいと思う。俺たちで出来るだけ進みやすいコースを探すから、後ろを付いてきて貰えるか?」


「分かった。ただ十分に気をつけてくれ。それとブラディウルフ以外の匂いが混じり始めたら、絶対にいったん停まってくれ」

「了解だ。じゃあ行こう。アサム、レミン、匂いを追うぞ!」

「ケネスさん、行きましょう」

「おうっ」


ブラディウルフの大群は前方から押し寄せてきたと言うことなので、まずは街道沿いに進むが、馬車の隊列から少し離れたところで痕跡は木立の中に入っていった。


「この辺りから飛び出してきてるね」

「道の匂いは、この先で途切れてます」

「よし、上ってみよう」


まばらに木の生えた斜面を縫って上っていくダンガたちの後を追うが、彼らの身体が大きいので、その後ろを辿るだけならそれほど苦労は無い。


しばらく黙々と緩斜面を上がっていきながら、ふと、昔エドヴァルで探索と追跡を手伝わせるための魔犬を連れた破邪がいたことを思い出した。

可愛い魔犬だったが、当然、地面の匂いを辿るには姿勢を低くして這うように進んでいくので、茂った藪の中でもグングン進んでしまう。

後を追うのが大変だとこぼしていたっけな。


「ライノ、このあたりから人の匂いがし始めてる!」

ダンガの声で回想を中断して足を止めた。

後ろを振り返ってここからの眺めを確認してみると、遠くの街道まで見通せる位置だ。

予想通り、すぐ近くだったか。


「数は多いか?」

ケネスさんは、まず戦闘の可能性を心配しているな。


「いや、たぶん一人だけだね」

「私もそう思います。人の匂いは一種類だけですね。あの魔法薬のような匂いも無いです」

「慎重に辿ろう。まだ敵が近くに隠れている可能性もある」

「ああ」


ダンガたちは少しスピードを緩めて進み始めたので、ほとんど並んで歩くことが出来るのが安心だ。

彼らには防護結界を維持する魔力を送っているけど、イザって時にはできるだけ俺が盾になれる位置関係にいたいからな。


「匂いが強まってきたぞ」

「ライノさん、ブラディウルフの匂いも強くなってます。つまり、この辺りではまだバラけずに固まって動いてたんじゃないでしょうか?」


うーん、レミンちゃんの分析が毎度的確で有り難い。

「って事は近いかな?」

「用心しろ...」


そこから少し進んだところで、いきなり気配が変わった。

俺は咄嗟にすぐ横を歩いていたレミンちゃんの肩に手を伸ばして、それ以上進まないように押しとどめる。


「みんな止まれ!」

「何だ?」

「魔力の気配がおかしい。この先になにかあるな...もう匂いを追う必要は無いから、ダンガたちも俺より前に出るなよ」


周囲に散らばって索敵しながら進んでいたケネスさんたちにも声を掛ける。

「遊撃班も、ここに集まって下さい」

「いや敵が近いなら、固まってると却って危険じゃ無いか?」

「俺の防護結界で守りますから一カ所に集まった方が安全です」

「なに!?...まあ、お前が出来るって言うなら出来るんだろ。分かった。アンディー、ハース、ロベル、みんなこっちへ来い!」


ここで秘密保持を優先してケネスさんたちが危機に陥ったら、勇者としては本末転倒もいいところだ。

まだ魔力には十分な余裕があるから、念のためダンガたちに掛けた独立して動ける防護結界はそのままにして、全員をカバーする広範囲な防護結界を上掛けする。


更に、ケネスさんたちに分かりやすいように、少しばかり脳内の魔法陣をいじって、空中部分も結界の範囲が良く目に見えるようにした。

ガルシリス城でパルミュナが防護結界を張った時には、純粋に魔力の膨大さで魔法陣そのものが空中に現出したが、こっちはただのビジュアルだ。

『この中から出ないで下さいねー!』という以上の意味は無い。


「これ...お前がやってんのか...スパインボアもこう言うので押し込めたのか?」

「あっちは、これの逆向きって感じですね。とにかく敵の様子が分かるまで、結界の半球から出ないようにしてて下さい」

「おう、わかった」


漂う魔力の残滓がどんどん濃くなってくる方へと全員でまとまって進んでいくと、ふいに木立を抜けて開けた場所に出た。

森の真ん中に広場のような窪地があって、その中心部にはうっすらと濁った魔力が澱んでいる。


出所はここか・・・


全員にその場から動かないように手で合図をして、一人で慎重に近づいてみると、破壊された魔法陣の痕跡を見つけることが出来た。


陣自体はギッタギッタに刻まれているが、ついさっきまで動かしていたのだ。魔力の痕跡はまだ濃密で、刻まれた陣の内容もおおよそ読み取ることが出来た。

逆に言うと、精霊魔法を習得しつつあるとは言え駆け出しの俺にも読み取れるレベルの構造だな。


魔法陣は、魔法を使った術の設計図であると同時に駆動体であり、その制御盤でもある。

術者の魔力が強いほど強力な魔法を長時間駆使できるし、魔法に対する造詣が深い者ほど緻密で複雑な術式の魔法陣を構築できる。


これは・・・中級?

いや、俺が言うのはおこがましいか。


ただ、ガルシリス城にあったやつみたいに、パルミュナが読み取るのに手間取ったほどの複雑怪奇さじゃないし、かと言って、そこらの魔法使いに扱えるほど簡単なモノでも無い。


痩せても枯れても『転移魔法陣』だからな!


この転移魔法陣は一方通行で、向こう側に何かを戻すことは出来ないようだが、代わりに魔力の消費は少なさそうだ。

もちろんパルミュナが教えてくれたように、少ないと言っても『そこらの人族』に動かせるレベルでは無いから、やっぱり魔力の補充に関しては何らかの仕掛けがあるんだろう。


他に結界や罠の類いが陣の周りに張られている様子は無いかな・・・

そういうのが、ずっとパルミュナ頼りだったので、自信が無いんだけどね。

泣き言を言ってても仕方が無い。

精神を集中し、精霊の目を意識して辺りを窺う。


やっぱり、この周辺に『ちびっ子精霊』は全然いないな。

ごくわずかとは言え濁った魔力が澱んでいる転移魔法陣の中心部はもちろんだが、ここから見渡した限りでは木立の間にも姿は無い。

スパインボアの柵の周りと同じで、妙な魔法が使われたりすると、気配を嫌がって去ってしまうのだろう。


「ケネスさん、どうやらここにはもう、直接の危険は無いようです」

「おお、そうか」

「ダンガたちも、この窪地から出るんじゃないぞ」

「わかった」

遊撃班の四人は早速、窪地の中央に立っている俺の側にやってきた。


「ダンガ、さっき感じた『人の匂い』って、ここからどこか別の方向に向かってたりするか? ただし、もう匂いを追っていくなよ。物理的に逃げたかどうかさえ分かればいいんだ」


「ちょっと待ってくれ...」

三人は周囲の匂いを嗅ぐと、一斉に同じ方向に顔を向けた。


「こっちだな」

「ブラディウルフを走らせたのとは逆方向に向かったようですね」

「この窪地の周辺は匂いが強いから、たぶん長いこといたんだと思う」

「でもライノさん、ブラディウルフの匂いは周りのどこにも続いていません。まるで、いきなりここに現れたみたいで不思議です」


「そうだよ?」

「えっ?!」


「ここにあるのは転移魔法陣だよ。俺に読み取れる限りだと、一方通行でどこかから召喚するだけの仕掛けだけどね」

「おい、ライノそれってどういうことだ?」

「アレは、はるばる森の中を連れてきたんじゃ無いって事です」


「なんだと...召喚魔法って、本当に使える奴がいたんだな...」


「ただ、あれだけ大量のブラディウルフを呼び出したことを考えると、送り元の魔法陣はもっと大規模な代物でしょうね。それに、ここだって魔法使い一人の魔力じゃとても動かせなかっただろうと思うから、なにか補助的な仕掛けがあったんだと思います」


「うーん...さすがウン十匹のブラディウルフをまとめて使役する相手だ。生半可な奴じゃあないだろうとは思っていたが、ここまでとはな」


「戻りましょうケネスさん。ここを動かした術者を今から追っても、危険なだけで益は無いと思います。たぶん、この場所は襲撃拠点としては放棄されてるし、次があるとしても別動部隊でしょうから」


「でも、いまなら、この匂いを追えば捕まえられるかも知れないよ? まだそんなに離れてないと思うんだ」

そう言いながらアサムが木立の中へ入って行く。


「やめろアサム!」

俺がそう叫ぶのと、アサムの身体が空中に弾き飛ばされるのがほとんど同時だった。


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