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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第二部:伯爵と魔獣の森
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意外な再会


隊列の後方で誰かが大声で叫んでいる・・・けど襲撃じゃあ無いな。


周囲の騎士たちも何事かと後方に顔を向けてはいるが、剣に手をやっている人はいない。


「えっ、ケネスさん? なんで?」


ダンガがぽつりと呟いて、その正体が分かった。

おおっと、そう来たか。

「マジで?」

「うん、マジ。あれケネスさんたちの声だ」


なぜかダンガにもパルミュナの言葉遣いがうつってるな。

いや、なぜもなにも俺のせいだけど・・・すまん。


「騎士隊長のヴァーニル殿はおられるかっ?!」

俺にもケネスさんの声が聞こえてきた。

ひょっとすると、これは俺に都合の良い展開でなんとかなるかな?


「自分は公国軍治安部隊遊撃班のケネス・テリオ騎士位である。危急のことゆえ失礼する。ヴァーニル殿にお目通りを願いたい!」


「こちらにいらして頂きたい!」

ヴァーニル隊長が大声で隊列の後ろに向けて叫んだ。

姫様の馬車の近くまで来させると言うことは、隊長もケネスさんを怪しい相手だと思っていないと言うことか。


程なく、若手の騎士に先導されてケネスさんたちがやってきた。

お、四人ともいるな。

それよりも、四人が軍用の魔馬に乗っていることに目が惹かれる。

デカいなあ・・・

さすがにフォーフェンぐらい大きな街の衛士隊詰め所となれば、あんな立派な軍馬まで用意してあるのか。


「拝謁賜り感謝する! リンスワルド伯爵家ご令嬢様への襲撃をききおよび...おわっ! ライノお前何やってんだ?!」


「あれから色々ありまして...」


「...ひょっとしてココに散らばってるブラディウルフ、全部お前がやったのか?」

「さすがに全部って事は無いですよ」

俺がそう答えると、ヴァーニル隊長が横から口を挟んだ。

「正確にはほぼ全部、ですな。我が騎士団の精鋭たちも三〜四匹は倒しておるゆえ」


それを聞いてケネスさんは魔馬の上で天を仰いだ。

「やっぱりお前は規格外だな...って、あれ? ダンガたちか?」

「ええそうです」

「ケネスさん、先日は色々とありがとうございました」

レミンちゃんの物言いが場にそぐわなくてちょっと面白い。


それに狼姿で丁寧口調、やっぱり頭を撫でたい。


「いやもうなんて言うか、慌てて駆けつけてみれば...お前らホント治安部隊に入隊してくれよ!」

「ライノなら入隊して即、班長だな」

「ダンガたちと一緒に一班組めばいいんじゃないか? 四人だしさ」

アンディーさんとハースさんが横から煽る。


「入りませんよ。軍に入ったら破邪は破邪で無くなるんですから」

「そりゃ分かってるけどよ...例外あってもいいんじゃねえの?」

「勘弁して下さい」

「まあな...あ、いかん。ヴァーニル殿失礼した。彼らは私の知己だったのでついな。申し訳ない」


「いやいや、テリオ騎士位殿の知己と分かれば、こちらもますますもって安心できる相手ですな。今回の窮地を脱することが出来たのは治安部隊の助力も大きいと思われる。是非とも追って正式な感謝をお届けしたい」


どうやら二人は面識がある、という感じか。

噂の調査に来た時に騎士団にも聞き取りしたようなことを言ってたから、その時にでも顔を合わせているのかも知れない。

ともかく、今回ケネスさんが駆けつけてきたのはどういう経緯だろう?


「それにしてもケネスさん、どうしてここに?」


「実は偶然俺たちがいる時に、フォーフェンで衛士隊の一人がコソ泥を捕まえたんだが、そいつが姫様がお泊まりになってた宿の厩舎の鍵を持ってたんだ」

ケネスさんたちが魔馬から降りながら理由を教えてくれた。

「え、厩舎の?」


「ああ、ただのコソ泥がなんでそんなモノ持ってるって尋問したら、自分は事前に鍵を盗んで、決められた時間に開けるだけの役目だったと言ってな...だけど、すでに出発されている姫様一行からは何の被害届も出てない。出発前には当然馬車の備品もしっかり確認しただろうにな」


「そうなると、ただの物盗りじゃないだろうと?」

「そういうことだ。馬車に何か仕掛けたとか、謀略の可能性が出てきたんでな、慌てて衛士隊の詰め所からこの馬を引っ張り出して夜通し追ってきたわけだ」


凄いな魔馬。

ほぼ一昼夜走り続けて平然としてるのか!

いや、それを言うなら乗ってられるケネスさんたちも凄いけど・・・遊撃班ってどんな厳しい訓練を受けてきたんだろ?


「ケネスさん、実はあの村の噂の調査で色々なことがありまして、その延長で俺たちも姫様への襲撃計画があることに気がついて、慌ててここに来たんです。ホント、ギリで間に合ったって感じでしたけど」


「間に合ってくれて良かったぜ。この数のブラディウルフが跋扈(ばっこ)してる中に飛び込んでたら、駆けつけた俺たちだって生きてねえよ」

「ケネスさんたちなら大丈夫じゃないですか?」

「そんなわけあるか!」


「ともかく...さっきヴァーニル隊長にもお伝えしかけたんですが、こいつらとは別に、今回の襲撃に利用される予定だったと思われる魔獣、スパインボアですけど、その群れをここに来る途中で見つけて、その場に押し留めてあるんです」


「何だと?...おい今度、俺にも破邪のワザを教えてくれよ!」

「普通、習得する修行に七〜八年ぐらいかかりますよ?」

「ライノですら五年掛けてんだもんなあ」

「とにかく、アレは放っておけないのでどうにかしないと」

「うん、そうか。で、ライノの案は?」

「あの村に閉じ込めておくための結界があったので、そこに戻すのが一番いいと思うんですが」

「ポリノー村にか? そんなモノが隠してあったのかよ...」


「森の奥です。それと、ポリノー村にいた犯人の一味は、いま南の森をデュソートに向けて逃げているようです」

「そうなのか!」

「そのあたりもちゃんと説明しないと駄目だと思うんで、出来ればケネスさんと、騎士団の方にもポリノー村まで一緒に来て頂ければと。その途中で状況説明も出来ますし、現地も見て頂けますから」


「うん、そうだな。まずはそのスパインボアたちをポリノー村まで連れて行って状況を検分しよう。あの村の連中は?」


「無事です。そっちも危なかったですがなんとかなりました。行商人のジーターに騙されてスパインボアの養育を行わされた上、口封じに村人全員が殺されかけたんですが、ギリギリのところで助け出せました」


「行商人?...まあ、詳しい話は腰を落ち着けて聞きたい。ヴァーニル隊長、どのようになされますか?」


「本来であれば、治安部隊直轄の案件に騎士団が首を突っ込むことは許されないが、事は姫様の安全に関わること。テリオ騎士位がお許し下さるならば、我らからも同行者を出したい」

「もちろんです、ヴァーニル隊長」

「では、そのように頼む」


「ライノ、率直なお前の意見を聞きたいんだが、第二波、第三波の襲撃はあると思うか?」

それを聞いてヴァーニル隊長がビクッとした表情をする。


「責任は持てませんが...この場所では追撃がない気がします。これだけの数のブラディウルフとスパインボアでの二段攻撃だったのが、防がれてますからね。単純に追加を送り込んでもダメだと向こうも考えるでしょう」


「この場所では、か。それもそうだな。だが敵が慎重だった場合は、この先のどこかに奥の手を隠してる可能性もある、か?」


「口封じのために皆殺しにするつもりだったのなら、万が一にも逃げ出した生存者を始末する罠は用意はしておくでしょうね。このブラディウルフをどこから送り込んできたのかによっては、その対策を考える必要もあるかも知れません」


「それもそうだよな! これ、どっから来たんだ?」


「あまりお勧めしたい方法じゃ無いですけど、ダンガたちの力を借りれば、跡を辿ってみることは出来ると思います」

「お勧めしたくない理由は?」

「もし、襲撃者の一味と鉢合わせしたら戦闘になるからです。ダンガたちは狩人ですよ。魔獣相手ならともかく、できれば対人戦闘の場に居合わさせたくありませんから」


「そりゃ、もっともな話だ...ヴァーニル隊長、隊列がここを出る予定は、どのように?」

「いま、損傷を受けた車両の応急修理と荷物の移し替えをやらせておるところですな。あと半刻か、遅くとも一刻あれば出発準備ができるかと」


「うーん...」

ケネスさんは腕を組んで黙り込んだ。


「ライノとダンガたち、すまんが、やっぱり力を貸してくれんか?」

「俺よりも、ダンガたち次第です」

「俺たち三人は何でも、ボ、ライノの指示通りに動きますよ」


『ボ』ってなに?

ひょっとしてボスって言いかけたのか?

それは違うぞ・・・面倒だから指摘しないけどさ。


「なら頼みたい。ただし戦闘は避けるように注意する」

「分かりました。手伝います」


「すまんな...ヴァーニル隊長、遊撃班はライノとダンガたちの手を借りて、ブラディウルフの痕跡を少しだけ辿ってみようと思う。ただし、ライノが言うように戦闘は避けるべきだ。深追いはせず、少し周囲を検分して戻ってこよう。それでいかがか?」


「問題ないですな。クライス殿やアンスロープの方々がここを離れるのは少々心細いが、追撃の可能性を見極める方が大切でしょう。騎士団には出発準備をさせておきます」


そう言ってヴァーニル隊長は、再び隊列の後方へと歩いて行く。


周囲の騎士に指示を出していくヴァーニル隊長の後ろ姿を見送ったケネスさんは、こちらを振り返るとダンガたちをしげしげと眺めた。


「やー、それにしても、ダンガたちってカッコいいなあ!」

「なにしろ狼だもんな! 憧れるぜ」

「ああ、全くだ。アンスロープって変身できて羨ましいよな!」


ケネスさんが急に話題を変えてダンガたちの姿を褒めると、アンディーさんやハースさんも賛同した。

デンスさんは後ろで腕を組んで、うんうん頷いている。

みんなが本心で言ってるっていうのは俺にも分かるな。


「えっ?」

「えっーと...」

「そそそそうなんでしょうか?」


ダンガもアサムもレミンちゃんも急に褒めそやされて、何が何だか分からずにきょとんとした後、続けて思いっきり狼狽している。

俺は三人を見てしたり顔で言った。


「な? だから言っただろ、俺もアンスロープが羨ましいって!」


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