淀子の記憶喪失 その二
病院の先生からの話を聞いたが、今の所淀子の記憶を戻す方法はないらしい。
ただ、初や江代、そして両親から本来の自分の事を教えられた。
自分が怪力だったこと、三人のリーダーだったこと。
自分がそんな人間だったなど、にわかに信じがたいが、もう過去は思い出せない。
自分は、過去に囚われずに、自分の生き方で生きるんだ。
退院して二日後、学校。
自分のクラスは二年一組、らしい。自分の席に座り、授業を受け、友人らしき人物に不信にも思われたが、江代が話したら納得してくれた。
そして、後輩である藍田桃代も自分の事を話し、取りあえず納得してもらった。
あと初の友人である、琴柄凪とスタ子にも。
皆と話をしたが、何も思い出せなかった。
その後、初や江代とこの街の色々な場所を回った。
だけど。
「ごめんなさい、本当に何も思い出せません」
淀子は肩を落とし、顔を下に向けた。
初が学校の皆に会わせてくれたり、自分達の思い出の場所に行かせてくれたりしたのは多分、喪失した記憶を蘇らせる為だろう。
フィクションでもよくある話だ。喪失した記憶に関係するもので、脳を刺激すれば、そこから記憶が蘇ると。
事実、医者もその提案をしてきた。だけどこういう話もしていた。
例え喪失した記憶の内容と関係のあるものでも、喪失後の人格に悪影響を与える刺激を行えば、喪失前の記憶がトラウマとなって、人格を破綻して心を閉ざす可能性があるとも。
「大丈夫だ姉さん、ゆっくり思い出していけばいいんだ」
初が背中から言葉を掛ける。
「ですけど、思い出せる確証もありませんし、最悪の場合心を閉ざす可能性も
「思い出せない確証も、心を閉ざすって確証もないだろ?
お前はバカみたいに前向きで、そんでバカみたいに笑ってたんだぜ?
だったら、記憶失ってもよ、バカでいなきゃ私達が困るんだ。
それが、私達の姉さんなんだからさ」
初の言葉は、どこか暖かかった。
その言葉は、何度も脳内で再生された。
寝る前まで。
布団に入って、隣で二人が寝ても、淀子は目を開けて月を見ていた。
その次の日。
授業を受け、また皆と話し、また姉妹三人で帰る。
「じゃあ、帰ろうか姉さん」
「そう、ですね」
その時だった。
「ふおあッ!」
江代が叫び声を漏らして俯せに倒れた。その後ろから、スタンガンを持つ黒いスーツの男。
こ、この男は。
その男を見た瞬間。脳の奥で、何かが蘇りそうな気がしていた。
だがその記憶は、心が裂けるような嫌な記憶。
「うっ、ぐっ、ぁぁっ」
「淀子姉さん!
お前は誰だ!?」
少年は口を開く。
「上杉、読心です。浅井江代さん、そして浅井初さん、貴女も回収されてもらいます」
「何の事だ?」
初はスカートのポケットから、エアガンを取り出す。
そして間髪入れずにトリガーを引く。
「遅いですね」
少年はそう言ってから、初の首にスタンガンを当てる。
「うわああああああああああッ!」
ガクリと俯せに倒れる妹。
「あなたは、何が目的なんですか?
なんで、私の妹をッ!」
「ただの、興味です。
貴女は多分、並みの人間では適わない力を持っています。
だから、倒してみたい。その為なら、私は手段を選びません。
別に貴女を倒すことに、意味などありません。
しばし眠りなさい」
携帯端末から、謎の映像。
その映像を見た瞬間、淀子の意識が途切れた。




