淀子の記憶喪失 その一
「行ってくるよ」
「喝上げとかすんなよ?」
「しないよー?」
「怪しいなあ」
自分が一人で出かけるとき、妹――初とほぼ毎回こんな話をしている。
三栄との約束以降、淀子は自分から不良を襲うことはせず、三栄と共に弱き人間を助けることが多くなった。
まあたまに、金をいただくこともあるが。
淀子は初といつものおきまりの会話を終えてから、本屋に立ち寄り漫画を購入。
そしてそのまま、いつものように帰ろうとした。
だが。
「浅井淀子さん、ですね?」
淀子とすれ違った少年が、自分に声を掛けた。
後ろに飛んで、距離を取る。
見覚えの無い少年だった。少し長めの金髪に、人間離れした美貌。瞳の色は青。どこの学校か分からないブラックスーツめいたブレザーにネクタイ、そしてスラックス。
「あんたは?」
「上杉読心、それが私の名前です」
上杉、と名乗る少年は携帯端末を取り出し、謎の映像を再生させて淀子に見せた。
その映像を見て数秒後には意識が朦朧としだし。
そして、意識が途切れた。
◇◇◇
黒い、空間。
最初は音も景色も、まして人などいなかったが。
まず、父親と母親が現れる。
何故か二人の顔が見えないが、話しかけた。
「母さん! 父さん!」
声が届くことはなく、二人はどこかへ消える。
次いで、私の友人。磯野、遠藤、藤堂の三人。
同じく顔は見えない。
「あんたたち!!」
三人も、どこかへ消えた。
そして、江代。私の妹で、相棒。
「江代!!」
触れようと、手を伸ばして突撃するが、消える。
最後の人物だけは、登場に時間が掛かった。
いつも口うるさくて、男かと疑われる程のまな板で、処女の極みで、清楚なフリして本性はビッチで。でも江代と同じくらい――いや、江代以上の相棒で、一番大切な人。
「初!!」
初だけは消えずに、自分に振り向いた。
だが初の口にした言葉は、自分の心を壊しかねない程の思い言葉。
「お前は、誰なんだ?」
誰? 私は、私は?
「私は、私は、私は、私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は――――」
誰、なんだ?
◇◇◇
目を開ける。
映るのは、見知らぬ天井。
だったのだが、それを遮るように一人の少女が自分に向かって叫んできた。
「淀子姉さん! 聞こえるか!?」
淀子? それが、自分の名前?
ならば、目の前にで必死に自分の名――と思われる名前を叫ぶ少女は誰だ?
友達? 家族? 自分を知っているだけの他人?
いや、姉さんと呼んでいるから、この人は私の妹か、私を姉と慕っている妹分のどちらかだろう。
淀子は、その人物に問いかけてみた。
「貴方は誰ですか? 淀子は、私の名前なのですか?」
少女は、動揺した顔で自分を見た。
「お前、覚えてないのか!?」
「そう、みたいです」
奥から、もう一人の少女。
「忘れたのか? 赤き姫よ」
「なんか、また始まった・・・・・・」
「貴様は私の敵国の姫。私はそこのまな板の従者と協力して貴様を誘拐し、そしてここで目覚めたのだ」
「記憶をねつ造すんなッ!」
白いブラウスの少女が、奥に居る緑のベストを着用した少女にツッコミを入れてから、真剣な顔で自分を見る。
「淀子姉さん、お前は道で倒れていたところを救急車で運ばれ、この病院に連れてこられたんだ」
「ちょっと待って下さい! 私の事を姉さんと呼びましたよね?
ということは、貴方は私の妹ですか?」
「ああ。私浅井初も、そこにいる江代も、お前の妹だ」
「そう、ですか・・・・・・」
自分の脳内のメモリーから、二人の顔を探るが、どこにも二人の顔は見当たらない。
言語能力に支障がないことから、知識面は無事のようだが、自分の思い出を探ろうとしても、そこにある古い記憶はここで目覚め、初や江代という名の自分の妹らしき人物と会話した――ということになっている。
「ごめんなさい。何も思い出せなくて・・・・・・」
「こ、こんなに礼儀正しくて穏やかな姉さんはレアだな」
松野心夜です。初めての淀子視点の小説です。
これはシリアスメインの長編です。そして、上杉さんが浅井三姉妹にも登場しましたね。
果たして淀子は、記憶を取り戻し、初達のことを思い出すことが出来るのか!?
今回から、淀子の記憶喪失編、スタート!!




