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B:商店倉庫※必ず4話までを読んでからお読み下さい※

この第6部は第4部を受けて、読者様が《B》を選択した場合のお話です。必ず第4部までを読んで、それからお読み下さい。よろしくお願いします。

「済まない、ちょっとあっちのテントに用事があるんだ。そっちに行ってからでいいかな?」


 半ば強引に腕を振り払いながら、僕はもう一つの方のテントを指さして少年を見た。


「あのテント……確かあそこはどこかの商店の倉庫だったはずだけど、あんちゃんはそこの関係者かい?」


「…………いや、直接関係はないんだけど、ついさっき物を取ってくるように頼まれていて」


 咄嗟に出た嘘が青年の表情を強ばらせるが、やがて僕の焦る顔を早く頼まれごとを終わらせたいという感情の表れだと勘違いしたのか


「そうだったのか。それじゃあその頼まれごととやらを終えたら是非来てくれよ。手厚くもてなすからさ。そんな満身創痍な表情のあんちゃん放っておけないからな」


 そう言って、青年は笑顔で去って行った。僕も応じて手を振る。


「…………焦った」


 どっと噴き出た汗に自分がどれだけ緊迫した状況を乗り越えたのかを知る。しかし、そんな状況を越えて尚、僕は未だによく分からない状況に立たされている。



《アッテイルヨ》


 

 そう呼応するように頭の中で響く声。その声が気になり、先ほどの仮面と相まって、この言葉に反する行為を取ったらただでは済まないんじゃないか、そう思ってしまい僕は咄嗟に少年の手を拒んでいた。歩数計には《チガウヨ》と表示されいている。もしこの頭の中の声に従うのなら、歩数計の文字には背くこととなってしまう。


 だが、あの仮面はついさっきまであのテントに張り付いており、そのテントに行かないと頭の声は違うと囁くのに対し、歩数計の文字は背いたところで何も起こらないような気がする。起こるとすれば歩数が減らされるとかそういうことだろうが、果たしてそんなことはあるのだろうか。


 歩数計の数字なんて、この歩数計が作為的に用いられてるのだとすれば好き放題外部から変えられてもおかしくはないだろう。あんな魔法のようなものだって使えているのだから、問題にはならない。本当に僕が今向かおうとしているテントに行くことを止めたいのなら、違うなんて弱い言葉ではなく、こっちに行かないと歩数が減ると、そう断言して良い気がする。


 即ち、歩数計が意味なく付けられているのなら問題外だし、意味あって付けられているのなら僕を歩かせるか、この歩数計の残り歩数を減らすという行為に意味がある訳で、僕を本当に牽制したいのなら字での牽制ではなく歩数に直接関わる形で牽制し、字でももっと直接的に警告してくるはずなのだ。


 だから、僕はあの商店の倉庫らしいテントに向かうことにする。頭に響く声に応じる形でテントの中に入っていくと、中はかなり簡素な作りだった。本当にただのテントで、地面はむき出しだし、ただテントで囲われているだけ。商店の倉庫というだけあって、木箱や樽のような物が雑多に並べられている。


 入った途端に頭の中の声は消えてしまい、歩数計にも目立った文字は何も表示されていない。入ったは良いものの、何をすれば良いのか分からなくなってしまった。流石に商店の倉庫にあるものを漁るのは気が引けるし、かといってもう青年のテントに行くのは早すぎる。


「うん?」


 そうしていると、どこもかしこも木箱や樽の茶褐色で溢れている中、ほんのりの色づく明かりのようなものが転がっているのに気が付く。それは丁度テントの隅の方で、どうやらランプが転がっているらしかった。近づいて手に取ってみると、そのランプはランプスタンドと一体化しているタイプで、そのスタンドには引き出し口が付いていた。


 何とはなしにその引き出しを開いてみると、何やら二冊の本のようなものが出てきた。いや、本と言うほどのものではない、二つの冊子だ。二つの冊子は題名もなく、数ページで終わるとても古びた簡素なものだった。僕はその内のまず一冊を手に取る。読んでみると、こんなことが書かれていた。


『きっとこの新たな生活拠点である洞窟には既に多くの者が逃げ込んでいるのだろう。外の世界はとても危険で、唯一即席で用意出来た安全な生活圏だが、我々が守らなければ直ぐに奴らがこの洞窟にも押し寄せる。洞窟は外に比べれば安全だが、裏を返せば一度敵の侵入を許せば逃げ場がない。そういう点では、我々の役目は非常に大きいと言える。だが戦力差はあれど、相手には大した知識がない。だから防衛するだけならそれほど苦労もしない。ただ一つ、憂う点があるとすればイレギュラーの存在だ。お■■の進入はまだ許していないはずだが、あのイレギュラーだけが心配だ。だが、そこはなるようになるとしか言えない、我々には何もできない。我々は、ただひたすらに防衛を続けるのみだ。次にこの手記を追記出来たときは、何か面白いことの一つや二つ、書き残しておきたいものだ』


 そして、文の末尾に《アダムス》と、そう記されていた。僕はこの文章の意味するところを図りかねて、しばらく頭の中が疑問符だらけだった。


 そうしてようやく合点が行き始めたとき、事の重大さと言えば良いか、それとも自分の勘違いというべきか、ともかく大きな驚きを隠しきれなかった。


「この洞窟が異様に不自然な点、この広場がまるで生活スペースのような点、それは本当にここが普通の洞窟ではないからだったのか?」


 この手記には最初に見た書き置きと同様、外の世界の危険性について示唆されている。そして同時に、この洞窟がその危険な外の世界から逃れるための安全な場所である事も書かれている。つまり、僕が感じていたこの洞窟への不信感は、本当にここがただの洞窟ではなく、外の世界から逃れてきた者が生活するための新拠点であるからだったのだ。


 こんな話、到底信じられた話ではないが、これまでの経緯と、そして書いた人物が相まって信じざるを得なくなってきている。


 アダムス――その名前は聞き覚えがある、なんて話ではない。言ってしまえば、僕が殺してしまった人物だ。この手記によれば、アダムスという人物はその外の世界からこの洞窟を守っていたということらしい。知能の低い敵からこの洞窟を守っていたと。


 そして、アダムスはある存在を心配していた。


「イレギュラー…………」


 その名前が指し示すのはどんな存在なのか、それは全く分からなかった。しかし、恐怖は凄まじいまでに募っていた。この洞窟を外の世界から守るアダムスがわざわざ《イレギュラー》と呼ぶということは、レギュラーではない、即ち普通の敵ではない敵のことでも指し示していると言うことなのだろうか。


 そこだけ文字がはっきり読み取れないが、アダムスはお■■という敵はまだ進入させていないが、イレギュラーが心配だという風に書き残している。この書き方からこのイレギュラーが敵を指し示す言葉である事はなんとなく想像出来る。僕はこれまで出会った敵らしい存在を思い出してみる。


 分かれ道で出会った異形の化け物。確かにあれはイレギュラーと言える存在だっただろう。およそ見たこともない悪夢をそのまま具現化したかのような化け物だった。あれがイレギュラーなのだろうか。


 いや、あの気味の悪い仮面だってイレギュラーだ。存在や出現の仕方、その特徴すらもイレギュラーであると言える。


「…………待て待て。もっとマズいことが分かっただろうに」


 僕は湧いて出た疑問の数々に逃げ、直視しないようにしていた疑問も何も無い、圧倒的なまでの絶望的事実に気が付いてしまっている。


 アダムスはこの洞窟を外の世界から守っている。だがそんなアダムスは今――。


「…………これって、外から敵が入って来放題ってことかな」


 だとしたら、相当マズい。いや、マズいのか? そもそも僕はこの状況がより一層よく分からなくなった。この洞窟が外から逃れるための新拠点だと言うことはなんとなく分かった。しかし、じゃあ一体僕は何者なんだ。敵が来る事はもちろん恐ろしいが、そもそも敵が来なくても僕は黙っていれば死に、歩けば他の誰かが死ぬのだ。


 なぜこんな意味不明な歩数計を付けられ、そしてじゅえるなんていう命の制限まで設けられているんだ。追い打ちに、僕が歩けば歩くほど、アダムスの命は削られ、現にアダムスは死んでしまっている。次はこのロンドベルという人間。心当たりはないが、彼もこの洞窟を守る一人なのだろうか。


 一瞬僕が敵に利用されているのではないかと考えもしたが、アダムスは手記で敵に知能はないと言っている。知能がない者がこんな方法を用いるだろうか。


「……ダメだ、分かんないことだらけだな。もう一つの方は何が書いてあるんだ?」


 目を通してみると、これもアダムスによって書かれたらしいものだった。


『ここでは敵についての情報を書いておこうと思う。基本的に敵は大柄で平均しても2メートル強はあると思われる。個体によって形はそれぞれで、攻撃方法もそれぞれ違う。何種かに分けられるかとも思ったが、ざっと観察しただけでもかなりになりそうだったため、細かな区分けはまた今度にしようと思う。奴らは皆知能を持っておらず、ただ一方的に侵攻してくる。よって掃討は厳しくも防衛なら可能であると判断した。しかし問題はここからで、この無鉄砲に暴れ回る化け物をこ■■と呼称しているが、この個体が成長すると面倒なことになるらしい。実際には私もよくは知らないが、仲間がそれらしい瞬間を何度か見ているらしく、詳しく話してみようと思う。イレギュラーに関しては、私はあまり詳しくなく、他のメンバーの方が詳しいためここでは割愛する』


 敵の特徴について書かれたメモのようだった。やはり知能はなく、むやみやたらに暴れ回るというのが特徴らしい。種類も豊富とのことだ。やはりその名前は文字がうまく読み取れない。


 この手記を読んで最初に思ったことは、あの分かれ道で出会った触手を伸ばして攻撃してくる化け物は、このこ■■なのではないかということ。確か、あの時点でアダムスは死んでしまっていたような気がする。あれ、どうだっただろうか。ちょっと思い出せない。


 ただ、もしアダムスが死んでしまっていたとすれば、きっとそのこ■■の侵入を許してしまうだろう。それがあの化け物との邂逅だったと考えれば、少しは話が付く。


 このこ■■以外の敵については、アダムスはまだよく分かっていなかったらしい。それ以上のことはそれほど詳しく書かれていなかった。


「……あのテントの少年。もしかしたらもう少し詳しい話を知っているかもしれないな」


 そうじゃなくとも、ここには大勢の人々がいる。誰か有力な情報を持っているかもしれない。もはや歩数計のことも隠していられないかもしれないだろう。だが、自分の命どうこうだけでは済まない事になっているのは、もう明らかだった。


「いったん整理するためにも、あの青年に話を聞こう」


 僕は、テントを出た。ワイワイ賑わう人並みを抜けて、休憩所と書かれた一際大きなテントに向かう。

次は第7部へお進み下さい。Aを選んだ方も第7部で合流です。

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