暖かい春風に乗って
今年の冬は例年に比べ、雪が少なかったような気がする。
温暖化の影響なのか、異常気象なのか、いずれにしろ雪が少ないことはオイラ達にとっては好都合だった。
雪が降って辺り一面真っ白になると、確かにきれいではあるが、食料も覆い隠されてしまい探し出すのが一苦労である。
もっとも、オイラ達都会のカラスにとっては、食料はニンゲンの出すゴミが主流なので雪の影響は少ない。
ゴミ置き場は、場所も時間も決まっているので食いっぱぐれることがまずないのだ。
カラスにとっては、天国のような場所である。
したがって、最近は、仲間の数が増えニンゲン社会の中で問題になっているらしい。このまま増え続けニンゲンとの関係が悪化していくと、もしかしたら天国から一気に地獄になるかもしれない。
なんたってニンゲンは仲間同士さえ殺しあう恐ろしい大型動物なのだから。
さて、今年の冬もなんとか乗り越えられたオイラは、数が増えた仲間に別れを告げ、あの鉄塔に向かうことにした。
暖かい春風に乗ってゆったりと飛びながら、懐かしい街並みを眺めてみる。街路樹や庭木等に春の息吹が感じられ心がウキウキしてくる。本来、春は繁殖の季節で相手を探しながら巣作りに励む時期であるが、今年のオイラは、なぜかまだそんな気がしてこない。
とりあえず、お気に入りのねぐらを決めてから、じっくり考えることにしよう。などと考えながら例の道師さまの家の上あたりにたどり着いた。
おっ、行列があるじゃないか。でもなんか人数は少ないかなぁ。
そう思いながら2階の部屋が見える電柱に、気付かれないよう十分注意して取り付いた。
部屋の中には、道師さまとラメの紫服男、それと会員らしい女性が一人の計3人がいる。
3人とも椅子に座って話をしているようだ。声が小さくて何を言っているのか聞き取れないが、会員の女性は時折手に持ったハンカチで目の辺りをぬぐっている。
その後、しばらくの間無言の状態が続き、場の雰囲気が一段落着いたような感じになった。
「では、そろそろ、壷を精錬しましょうか」
ラメの紫服男は、そう言って会員から壷を受け取ると、うやうやしく机の上に置いた。
「でぇーわ、こーぉれからぁ、あーなぁたの邪気ぃーぃを清ょーめまぁーす」
道師さまはいつもの変な発音の日本語を繰り出しながら、壷の前に立ちガラスの付いた棒を振りかざした。
おっ、また例の派手なパフォーマンスをやるのかな、オイラは意外とあの棒のひかり具合も嫌いじゃないなぁ等と考えていると、
「きぇい・・」
道師さまは、短い気合のような言葉とともに棒を一回まわし
「はい、終―ぉわりまーぁした」
とあっさり儀式を終了してしまった。
「この壷は、あなたの手助けはいたしますが、あくまであなたの気持ちの持ち方しだいですから、がんばってみてください」
ラメの紫服男は、壷を風呂敷で包んで会員に渡し、出口へ促した。




