挽回策
10個の壷に同じ行程を繰り返し、最後の一個が終わり棒を引き抜くと、その棒をうやうやしく上に掲げ、さらに大きな声で
「かあああああーーキエイィィィーーー」と叫んで頭の上で振り回した。
すると棒の先端から霧のような白煙が出て、周囲にまだ若干残っていた匂いが全く感じられなくなった。
会員たちは手を合わせ頭をたれて、自らの邪気を払ってもらうかのようにその白煙を浴び神妙にしていた。
ひととおり儀式が終了すると、ラメの紫服男が口を開いた。
「はい、道師さまありがとうございました。これで皆様がお持ちになった邪気は浄化されました。お帰りの際、スタッフが新しい壷をお渡しいたしますのでお持ちください。いつものように壷に邪気が溜まってきますと悪臭がしてきますので、頃合を見計らってお持ちくださいませ。大変お疲れ様でした。」
会員たちは、その言葉に促されるように立ち上がり、女性スタッフと一緒に出口から出て行った。
道師さまは、会員が全員いなくなったのを確認すると、振りかざしていた棒をおろし、
「ふう、あと何人位待っているのかなぁ」
と肩をもみながら言った。
「そうだな、あと50人てところか」
とラメの紫服男が机の上の壷とお布施を片付けながら答えた。
「そうか。前ほどじゃないけど、また会員達が戻ってきてくれてよかったなぁ」
道師さまは、ガラス玉のついた棒の真ん中あたりをいじりながらしみじみつぶやいている。
ラメの紫服男は壷を片付けながら
「どうだ、この匂いがきいてるだろう」
と壷の中を覗き込んだ。
「ああ、おまえの友達はすごいなぁ」
「あいつは、大学時代から化学が得意だったからなぁ。頼んだとおりの物を作ってくれた。」
「しかし、どういう薬品なんだろう。塗ったすぐにはちょっと良い香りがして、10日もすると悪臭に変わるけど、このスプレーでたちどころに無臭になるなんて」
と言いながら、道師さまは手に持った棒の先端を触っている。
「なんでも、周りの湿気と反応して臭くなるらしいが、人体には無害なんだそうだ。まあ、邪気が匂ってくるなんて思えば、リアリティがあるからな。会員も戻ってくる訳だよ」
なるほど、ライバルに取られた会員を取り返すために壷にひと工夫したらしく、それが功を奏したようだ。




