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第99話 雨のハブ拠点。伯爵来訪?!

雨粒がバラバラと馬車の窓を叩きつけている。

 

カイトは窓ガラスに顔をくっつけるようにして、外に広がる平地を食い入るように見つめていた。


(よしよし、狙い通りじゃ。バルザス山脈側を頂点にしたこの台地、全体が西のボルドー側へ向かって緩やかに傾斜しておる。水溜まりができにくいこの硬い地盤なら、大きな建物を建てるのにうってつけじゃな)


カイトは、この雨が来るまで道作りの本工事をあえてストップさせていた。

理由は二つ。一つは、土砂降りの日にこの平地の「水はけ」と「どのように道を敷くか」を自分の目で確かめるため。


もう一つは、泥沼の中にある『岩のテラス(ボーナスステージ)』が、平地の出口となる王都側へどう続いているかを把握するためだ。


平地に上陸してからの数日間、工兵たちには三人一組にならせて赤い旗を立てて回らせた。


大まかなテラスの地形さえ判れば爆速で作業が進むことは、すでに全員が知っている。前回のようにうっかり泥にハマらないよう、この先行調査をする者には徹底的に安全を叩き込んだ。


もちろん、飴も忘れていない。この作業には特別に危険手当をつけるよう、アルベルト(パパ)に言って承諾をもらっていた。


そして今日、雨のため現場の作業は休みだが、カイトにとっては待ちに待った「水はけの最終確認日」である。


この台形の土地は、最初工兵たちに歩かせて距離を導き出そうとしたが、百を越える辺りから数えるのが怪しくなっていたため、家から麻縄を持ってきてそれを五メル毎に色をつけ、ピンと引っ張らせて測るようにした。


その甲斐あって、正確な広さと形はすでに頭の中に入っている。カイトの脳内には、すでに未来の都市の完成図が浮かび上がっていた。

 

ここは、穀倉地帯から送られてくる物資のハブ拠点になる。大きな倉庫をいくつも建てて穀物をストックし、ここから王都やその他の都市へ運んでいくのだ。将来を見据えて、今のうちから配置を考えておくことに越したことはないと、カイトはほくそ笑む。


(問題は道引きじゃ。湿地帯に粗朶道そだみちを真っ直ぐ作ってきたが、この平地を通すとなると、当初の予定よりかなり東側にズレてしまう)


急カーブは馬車の車軸に負担がかかるし、何より事故の元になる。


(道を緩やかに西側へカーブさせて、その道の両側に建物を並べるのがよかろう。そして平地を抜けたら、もう一度カーブさせて王都へ向かう街道と綺麗に繋ぐんじゃ)


カイトは脳内で引いた緩やかなS字カーブの道を想像し、うんうんと頷いた。


(となると、一番最初の『おもてなし』じゃな。王都側に一番近い、街の入り口に宿屋を置く。長旅で疲れた商人どもが、街に入ってすぐ宿があれば、そりゃあ泣いて喜ぶじゃろ)


そしてカイトは、生石灰パイルで基礎を打った旅館の方に目を移す。


(反対のハルバード側から来た連中には、今作っとる温泉宿を使わせるか。……いや待てよ。あっちは温泉やら何やらと、ちと目一杯凝ってしまったからのう。普通の行商人には敷居が高すぎるかもしれん。となれば、こっちの平地の入り口にも、大衆向けの安宿を置くとするか。客層に合わせてハコを分ける、これも街づくりの基本じゃろうて)

 

完璧なゾーニングだ。自分の計画に満足したカイトは、パッと振り返ってアルベルトを見上げた。


「パパ! お水、あっちにながれてるね!」


「ああ、そうだな……。しかしカイト、なぜこんな土砂降りの日にわざわざ見に来るんだ……」

 

五歳児の無邪気な声に、アルベルトは呆れ顔でため息をつく。領主である彼には、息子の頭の中で領地の根幹を揺るがす都市計画が進んでいることなど知る由もない。


その時だった。雨音を切り裂くように、馬の蹄の音が響いた。

 

泥を跳ね上げながら馬車に駆け寄ってきたのは、バッカスの手紙をハルバードに送る時に頼んだ護衛だった。


ハルバードでの仕事と、ベルノー子爵への定時連絡があると言って出かけたが用事は済んだようだ。


「アルベルト様! 屋敷におられないと思えば、こんな雨の日に粗朶道の現場にいらっしゃるとは……! 至急のお知らせがございます!」


「こんな天気の中をご苦労。どうした?」

アルベルトが、馬車の扉を開けて顔を出す。


「伯爵閣下からの急ぎの書状です。……ここで開けては濡れてしまいます。アルベルト様、どうか馬車の中へお戻りください」

 

護衛の男のただならぬ気配に、アルベルトは表情を引き締めた。

 

バタン、と馬車の扉が閉まり、雨音がくぐもる。

 

薄暗い車内で、アルベルトは慎重に手紙の封を切った。カイトも静かにパパの手元を見つめる。


視線を落とし、文面を追い始めたアルベルトの顔から、さあっと血の気が引いていくのがわかった。手紙を持つ手が、小刻みに震え始めている。


「パパ、なんてかいてあるの?」

 

カイトが小首を傾げて尋ねると、アルベルトは震える声で呟いた。


「……ハルバード伯爵閣下が、ここにいらっしゃるそうだ、しかも明日……」


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