第126話 魔法と土木の蒸気養生【後編】
そこからは、まさに職人たちの独壇場だった。
ダグラス親方の号令のもと、職人たちが布の色の変化を見極め、絶妙なタイミングでバケツリレーを回していく。
「大師匠……アタシ、なんか楽しくなってきたッス!!」
「おう! 嬢ちゃんはそのままぶっ放してな! 水は俺たちが絶対に切らさねぇ!!」
『シュゴォォォォォッ!』とメリダが熱を送り込み、『ジュワァァァッ!』と職人たちが泥水を被せていく。
もはやそこに、カイトの指示は必要なかった。魔法と職人たちの阿吽の呼吸が、現場にすさまじい熱気と一体感を生み出している。
「……信じられねぇ。たった一つの『目印』を与えただけで、魔法のド素人どもを、蒸気の管理装置に変えちまいやがった……」
眼鏡を押し上げながら驚愕するバッカス。
だが、その横でカイトは丸太の上に立ち上がり、目を細めて立ち上る蒸気の勢いと、経過時間をジッと測っていた。
(ふぉふぉふぉ。そろそろ時間じゃな。ここらで一丁、打音検査といくか)
「ストップ!! メリダおねえちゃん、一回 まほう やめて!」
カイトのよく通る声が現場に響き渡った。
メリダが杖を下ろし、職人たちもピタリとバケツの動きを止める。
もうもうと立ち込めていた白煙が風に流され、徐々に視界が開けていく。
「ダグラスおじちゃん、はしっこの布、ちょっとだけ めくってみて!」
「お、おう!」
ダグラスがゴクリと生唾を飲み込み、熱を持った麻袋の端をバサッとめくった。
そこには、滑らかだが泥で汚れたモルタルが姿を現した。
カイトは丸太から飛び降りると、まだ濡れていない麻布を取り、トテトテとモルタルの端に駆け寄った。
モルタルの表面を布で拭いてやるとヒビ一つ入ってない面が現れた。
次に腰に差していた小さな木槌を取り出すとためらうことなくその表面を叩く。
『カァンッ! カァンッ!!』
石と木槌がぶつかり合う、甲高く澄んだ音が響き渡る。
表面だけが固まっている時のような鈍い音ではない。中身がグズグズなら絶対に鳴らない、芯まで完全に水和反応が終わった『完璧な打音』だった。
「うん! ぜんぶ カチカチになってるよ! おわり!!」
カイトが満面の笑みで木槌をダグラスに渡す。
「つぎからは、どのくらい『むしぶろ』にしたらいいか、ダグラスおじちゃんたちが 決めてね! いつもやってる『音のチェック』したら わかるでしょ?」
「……あぁ、もちろんだ。俺の耳をごまかせる不良品はねぇぞ」
ダグラスはゴクリと喉を鳴らし、恐る恐るその木槌を受け取ると、モルタルの表面をコンコンと叩いていった。徐々に叩く強さが上がっていく。
『カァンッ! カァンッ!!』
「この高く澄んだ音……完璧だ!! 魔法と布切れと泥水だけで、数日かかる下地を一瞬で芯までカッチカチにしやがった……!!」
ダグラスの歓喜の叫びに、職人たちから「うおおおおッ!!」と地鳴りのような歓声が上がる。
「すげえぜ…!嬢ちゃん。クラック(ひび割れ)一つねえ、完璧な仕上がりだ!!」
「や、やったッス! アタシの魔法で、ちゃんと役に立てたッス!!」
メリダが丸太の杖を天に突き上げて飛び跳ねると、一番近くでバケツを持っていた泥だらけの職人が、大きな手をパーにして突き出してきた。
「おう! 最高の火力だったぜ、嬢ちゃん!」
「……ッス!!」
メリダは満面の笑みで、その泥だらけの手に自分の手を力いっぱい叩きつけた。
『パァンッ!』
威勢のいい乾いた音が響く。それを皮切りに、「俺ともだ!」「よくやった!」と次々に職人たちが集まり、手を差し出してきた。
『パンッ!』
『パパァンッ!』
次々と交わされる、熱気冷めやらぬハイタッチ。
メリダの手は一瞬で泥だらけになったが、その顔は今までで一番輝いていた。
魔法学校で落ちこぼれ扱いされていた彼女が、初めて自分の力で『現場の主役(仲間)』になった瞬間だった。
その光景を見届けたカイトは、「ふぅ」と満足げに息をつくと、丸太の上にどっこいしょと腰を下ろし、水筒に入った果実水をチューチューと啜り始めた。
(カカカッ! 大成功じゃ! これで面倒な乾燥待ちの『玉突き(工期遅れ)』は完全に解消じゃな。それに……あのヤンキー娘も、職人たちと一緒になって見事な『成功体験』を積めたようじゃわい)
黄色いヘルメットの下で、カイトは現場監督としての会心の笑みを浮かべていたのだった。
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