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第111話 大槍が車軸?発狂する領主

「えへへ……マリー、おてつだい、できた……!」


少し大きいカイトの黄色いヘルメットを被ったマリーが、額の汗を拭いながら嬉しそうに笑う。


その背後には、彼女の素直な魔力によって転圧され、太陽の光を反射してキラキラと黄金に輝く「極細きわめ仕上げ」の真っ平らな道が百歩分だけ伸びていた。


「ああ、とんでもねぇお手伝いだったぜ……」

バッカスが眼鏡を押し上げながらため息をつく。


だが、衝撃を受けていたのは彼だけではなかった。

泥まみれになりながら死んだ魚の目をしていた職人衆は、今や二つの派閥で全く異なる熱狂に包まれていた。


「……おい。見たかよ……」

「ああ……天使だ。あんな小さな天使が、とんでもねぇ魔法で奇跡の道を作っちまった……」


「なんて尊いんだ……っ! 俺も天使様から直々に、あの笑顔で労われたい……ッ!」


カイトの規格外な魔法をまだ知らない【北部の男達】は、マリーの魔法の才能とその圧倒的な可愛らしさに完全に心を撃ち抜かれ、彼女の姿に釘付けになっていた。


一方で、【南部の職人衆】の血走った視線は、全く別のところへ向けられていた。


「……おい。見たかよ……」

「ああ……あの娘、監督から直々に『黄色いヘルメット』を被せてもらってやがる……」


「なんて羨ましい……っ! 俺も監督から直々に、あのプロのヘルメットを授けられたい……ッ!」


カイトを狂信的に崇拝する南部の男たちは、マリーの頭上に輝く黄色いヘルメットを、羨望の眼差しで見つめていたのだ。


「おい、水だ! お嬢様に冷たいお水をお持ちしろ!!」

「泥が! お嬢様の靴に泥が跳ねちまう! 俺の上着の上を歩いてくだせぇ!!」


「ずるいぞ北の連中! 監督のヘルメットを被ったお嬢様は、もはや監督と言っても過言ではない!俺たちが一番にお水を渡すんだ!!」


突如として、ガチムチの男たちが血走った目で立ち上がり、マリーの周りにワラワラと群がり始めた。

先ほどまでの疲労困憊の姿など微塵もない。


「わわっ……ありがとう、おじちゃんたち」


マリーがペコリと頭を下げると、男たちから「おおおおぉぉぉっ!!」という地鳴りのような歓声が上がった。


(……なんじゃこいつら。急に活力が湧き上がってきおったぞ?)


カイトが呆気にとられていると、一方で、この現場にはもう一人、全く別のベクトルで「限界突破」している男がいた。


ハルバード領の内政官、クラークである。


「す、素晴らしい……! この『コートローラー』とやら、魔力を流すだけでこれほど重そうな石柱を自在に動かし、突き棒を持った男たちが何十人も並んで叩くよりも遥かに早く、道を仕上げてしまうとは……! 一体どんな複雑な刻印を組めば、このような挙動が可能になるのだ!?」


彼は泥にまみれるのも厭わず、ローラーの車軸にへばりつくようにして、その構造を舐め回すように観察していた。


「おい、バッカス殿! どんな二属性の魔石を組み込んだ!? いや、これほどの振動を魔石一つで起こすなど不可能なはずだ。一体どんな特殊な秘匿魔石を隠している!?」


「あぁん!? 特殊だぁ?そんなもん使ってねぇよ。ただ坊主に頼まれたクズ魔石を螺旋に並べただけだぜ」


バッカスが面倒そうに鼻をほじりながら答えると、クラークは目を剥いて絶叫した。


「はぁ!? クズ魔石だと!? バカを言うな、あんなゴミでこの巨大な石柱を揺らせるわけがないだろう!」


「だから、そのクズ魔石『百個』をこのローラーの中に埋め殺してんだよ! 分かったらそこをどけ、巻き込まれてローラーに轢かれるぞ!?」


「ひ、百個……!? クズ魔石を束ねて、一つの巨大な震動源として制御しているというのか……っ!?」


クラークはあまりの衝撃に、眼鏡を地面に落としかけた。


何十人もの人足が丸一日かけて行うべき「叩き」の作業を、たった一回の通過で成し遂げてしまう未知の重機。


領地の運営を担う内政官にとって、これがどれほどの『富』と『時間』を生み出す魔法か、彼には痛いほど理解できたのだ。


「カイト様、バッカス殿……後で必ず、この仕組みのすべてを詳しく、詳しく教えていただきますからね!!」


「う、うん……おじちゃんも、あぶないから さがっててね……」


カイトが若干引くほどの執着心を見せるクラーク。


そんなカオスな現場の空気を切り裂くように、アルベルトとロバートが旧道のあまりの変わりように驚きながら現場にやってきた。


「こ、これは……本当にあの旧道なのか……!?」


アルベルトが信じられないというように、極細仕上げの路面を撫でる。


だが、ロバートの視線は道ではなく、歓声を上げる男たちの中心に向けられていた。


「……ん? なんでマリーが、こんな泥まみれの現場に居るんだ……?」


ロバートは目を瞬かせ、群がる男たちの輪の中へ慌てて駆け寄った。


「おい、マリー! なんでこんな所に居るんだ?」


心配そうに手を伸ばそうとしたその瞬間、マリーの周りに陣取っていた【北部のハルバード衆】の職人が、極太の腕を組んで凄み返した。


「あぁん!? なんだこのおっさん、マリーちゃんに気安く触れるんじゃねぇ!」


「マリーは俺の娘だ!! お前らこそなんだ。なんでマリーを囲ってる!?」


「なにっ!? ……お義父さん! い、いや、俺たちのお嬢様の健気な姿に惹かれましてね」


「誰がお義父さんだぁぁぁっ!!」


ついにロバートがブチギレて怒鳴り声を上げた、その時だった。


「――パパ、うるさい」


乱闘へ発展しかけた中心で、澄んだ小さな声が響いた。


ピタリと、全員の動きが止まる。


少し大きすぎる黄色いヘルメットを被ったマリーが、冷ややかな瞳で父親を見上げていた。


「パパ、じゃま。おしごとの じゃま しないで」


「――ガーンッ!!」


愛する娘からの、あまりにも無慈悲なストレートパンチ。

ロバートは完全に真っ白な灰と化し、膝から崩れ落ちそうになった――が。


そこに、さらに悲痛な、魂を絞り出すような絶叫が重なった。


「お、おおおぉぉぉぉ! 伯爵様からお預かりした至宝が……泥まみれの、車軸に……ッ!?」


「パ、パパ!?」


カイトが振り返ると、ローラーの車軸として泥を巻き込んで回転している銀色の棒――『ミスリルの大槍』を直視してしまったアルベルトが、白目を剥いていた。


つい先日、伯爵の視察のためにピカピカに磨き上げた、あの国家予算級の超・希少金属。それが無惨な姿で酷使されている現実に、領主の胃腸と精神は完全に限界を突破した。


ドサァッ……!


「パパァァァァッ!!」

「あなた!」


カイトやエレナの叫びも虚しく、アルベルトは極細仕上げの美しい路面へと倒れ伏した。


かくして、推し活抗争で爆走する男たち、発狂して伴走する内政官、灰になって散った隊長、そして至宝の扱いに卒倒した領主。


すべてのカオスを飲み込みながら、泥靴村のローラー駅伝は続くのだった。


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」と思っていただけましたら、

ページ下部より評価とブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!


さて、週末の「突貫工事(一挙更新)」は如何だったでしょうか?

明日からは通常シフトに戻りますが、更新時間を新しく変更いたします!


朝7時10分と、夜19時10分の1日2回更新です。

朝の通勤・通学のお供や、一日の終わりの楽しみにしていただけると嬉しいです。

引き続き、泥靴村の現場をよろしくお願いします!

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