第05話
解錠音がしたので驚き振り返ると、ドアは金属が擦れるにぶい音を出しながらゆっくりと開き始めているところであった。
驚きのあまり声も出ないし、身体も硬直する。
どうする?逃げるか?等と迷っているうちに開いていくドアの隙間から外の景色が見え始める。
もう1秒もせずにドアを開けている者の正体は見えるし、こちらも見つかってしまうだろう。
ギギ…ギギギ…
扉は開ききって止まったが扉を開けた者の姿は見えない。
ああ、そうか。
扉は押し戸であった。向こうからは引き戸。
つまり相手はドアノブを掴んで引っ張って扉と一緒に後ろに下がっていると思われる。
もしかして筋力が無いのか?子どもか?
大人なら片手で開けられるから扉の後ろに行く事は無い。
どちらにせよ、すぐに姿を現すはずだ。
「……」
時間にして5秒ほど。
ヤバい奴が出てきたらすぐに逃げられるように構えながら様子を見ていたが一向に姿を現さない。
このビルの入り口もそうだったが、ちょっとこれは普通じゃない。
こんな鉄製の扉がひとりでに開いたりするものか。何か居るに違いない。それか幽霊とか…。
開いた扉から目を離さず、気配を伺っているが何も感じられない。
聞こえてくるのは相変わらず鳴り止まない緊急車両のサイレン音と人の喧騒だけだ。
(やっぱ駄目だ、怖いから引き返そうか・・・)
そのまま後ずさりし階段を下りる。扉が視界から外れると進行方向に身体を向けて駆け下りようとしたところで思い付いた。
去ったように見せかければ扉を開けたやつが出てくるんじゃないか?と。
階段を普通に2階分だけ下りたところで気配を消して、屋上の様子を探ってみる…が様子に変化は無い。
外ではまた新たに数台のパトカーが到着したようで、けたたましいサイレンが近くて鳴り止む。
「…ユイ」
ビビっている場合じゃない。幽霊が何だ。とにかく事件現場の確認をしないと。意を決して普通に足音を立てて屋上への階段を上り、開いたドアを通過した。
すぐにドアの後ろを確認するが何もない。
屋上は室外機や給水タンクなどの設備があり想像通りの様子である。
念のために足早に不審者の存在の有無は確認したあと、事件現場が見下ろせる位置にやってきた。
警官と救急隊員がブルーシートを広げているがその中で20人以上が倒れているのが、すぐに分かった。
一人ずつ服装をチェックしていくと怪我の具合などは分からないが全員ぐったりと倒れたままで動く気配がない。
ブルーシートで覆われているところをみると皆亡くなっているのか?
全員の服装をチェックできたがユイと一致する人は居なかった。
不謹慎だが正直ホッとしたその時、後ろで気配がして振り返ると先ほど入ってきた扉の前にシルバーに輝く金属らしきバレーボールほどの球体が宙に浮かび「ビ、ビ、ビ」と途切れ途切れで不規則な音を発している。
「な、なんだあれ?」
どこから現れたんだ?しかも浮かんでいるじゃないか。恐怖以上に驚きで身体が動かず、冷や汗が出る。
「ビビッ、ビビビ」
こちらに向いているカメラレンズのような物が光を放ったかと思うと俺と球体の間にユイの姿が浮かび上がった。
「ユ、ユイ!」
思わず叫んだが、すぐに実体が無いことに気が付いた。
「立体映像…!?」
今の科学力では不可能だということはバカでも分かる。映画やアニメの世界で馴染みがあるとはいってもリアルで見せられると驚愕する。しかも何故ユイの姿が…?何だこれは?
「あなたの記憶から構築し映し出しています」
「は?」
「警戒を解くために最適解と判断しました」
「し、喋れるのか!?」
「現在、このエリアでオーバーディメンションコンバートが発生。エフェクト率21%」
な、何?意味不明な単語!?
球体(ユイの映像)は一拍置いてから、続けた。
「クラス8を確認。セカンドブート787コマンドエラー。ターミナルコード破損。コンバーション適応率48.2%を確認。トランスファーをレコメンド」
ユイの立体映像が早口で何か言っている。
「おい、何言っているか分からねぇよ。日本語で言えないのか?何でユイの姿が映っているんだ」
「ピピピピ」
球体の黄色く光っていた目(カメラ?)の色が白に変化し立体映像のユイが話し始める。
「言語学習率が76%になりました。これである程度、人の話す言葉に近付ける事ができていますが、不完全であることをご理解とご了承を頂ければと思います」
「わ、分かりました…」
「時間が無いので単刀直入に要点だけを説明します。私は他次元からやってきた次元管理局の者です。先ほどもお伝えしましたがユイ様のお姿はあなたの記憶を読み取り、構築しました。あなたの足を止め、警戒を解き、あなたとの会話を円滑に進められるよう勝手に使用させて頂きました。緊急なこととはいえ失礼致しました。現在この区域は次元転換が発生しています。他次元のN22の侵略と思われます。N22の主生物は非常に好戦的でN22の他の種族を滅ぼし回っています。更に次元間移動の手段を取得してしまいました。大群で移動できるようなものではないようですが、現在2体のN22の生物の侵入を確認しました。うち1体は消すことができましたが、まだ1体残っています。私は破損してしまい残りの1体に対処できなくなりました。次元転換が発生しているエリアの規模は半径200メートル前後になり、そのエリア内の全ての物質が原子レベルで不安定な状態にあり、影響は電波や電気にまで及びます。このまま次元転換が進むと分子の破壊現象まで発生します。あちらで多くの人が倒れているのはその影響です」
(何が単刀直入だ!話長いし全く分かんねぇよ)
「ええと…?分子の破壊現象?それでみんな死んじゃったのか?」
「現在のエフェクト率は22%です。エフェクト率とは簡単に言うと次元転換の進行度です。70%を超えてくるころから分子破壊現象が現れ始めます。現在のところは電気信号の乱れくらいですが人体の電気信号も乱れます。強く影響を受けた人は生命維持に必要な生体活動を阻害される危険もあります。今倒れている人の中に重篤な人が居ない事を願うところです」
「その次元転換が100%になったらどうなるんだ?」
「N22次元とホールの繋がりが安定します。つまり別の次元と完全に繋がるという事です。エフェクト率が低いうちは身体の小さく弱い生物が稀に運良く通り抜けられる程度ですが、100%になると兵士も武器も何もかもがこちらに侵入可能になってしまいます」
何の話だよ・・・バカじゃねぇのか!?ス、スーパーSFじゃねぇかよ!?というかこのボールは何?なんでそれを俺に話してるの?ドッキリ?何?
突然「パン!」という大きな乾いた音が響いた。ハッとして音のなった方を見る。
倒れた人を救護していた数名の警官が銃を同じ方向に向けて構えていた。銃口の先がここからでは見えないが、救急隊員などもみんな手を止めてその方向を見ている。




