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悪魔の蛮餐  作者: 龍崎 明
序編 魔の遊戯
8/42

8.悪魔の階級ってのは絶対なのよ

「あれ?あれあれあれ?首輪付きなんだ?」


 無視に怒ることはなく、妖竜メリュジーヌはディアブロとスターのやり取りに反応した。


「テメェだって、首輪付きだろ?」


「うーん?言えないことはあるけどねぇ。それ以外は放任だよ」


 雑談のように軽いやり取り。時の経過は僅かばかりでありながら、妖竜の抉れたはずの頰肉が再生していた。


「準備はできたか?いくぞ」


「待っててくれたんだ、やっさしー!」


 ディアブロは宣言とともに間合いを詰める。妖竜はニヤニヤと微笑むばかり。


 ディアブロが大振りの拳で殴り飛ばした。


「あっれー?痛てて……おっかしいなぁ。全然、動きが鈍ってないじゃん?」


 また頰肉を抉られながら、妖竜が立ち上がろうとする。


「翼は捥いどくか」


「え?」


 しかし、ディアブロに背を踏まれ、翼腕の付け根に手が掛けられた。あたかも果実を捥ぐかのように、あっさりと妖竜の片翼が引き千切られる。


「ギャアアア!?」


 頰肉が抉れても痛痒を感じさせなかった妖竜の悲痛な絶叫が響き渡った。


「な、なんで?」


「もう一本、と」


「やめ……グギャアアア!?」


 何が起きたのかわからない、妖竜はそんな様子だったが、ディアブロは頓着せずにもう一方も引き千切った。


 妖竜は、魅王の系譜だ。魅了術チャームの魔力に惹かれたように、できることはそれとあまり変わらない。受肉悪魔であるが故に魔法陣は要らず、声が匂いが仕草がそれを認識したモノを誑かす。


 完全な支配は無理でも、鈍らせることくらいはできるはずだった。


「彼は蠅王の系譜ではなく蠅王の器です、妖竜メリュジーヌ。あなたよりも上位の存在なのです」


「蠅王、の器?……あははは!まだ、まだよ!あなたを操ればまだどうにかなるわ!」


 疑問に答えるようにスターが言葉を発した。


 妖竜は、その言葉を理解して哄笑して、スターに狙いを変える。


 しかし、その背は未だにディアブロに踏みつけられていた。


「んじゃ、いただきます。……ん?」


 ディアブロの凶拳が落とされようとしたそのとき、妖竜の長い尾がその腕を絡め取った。


「あぁ、尻尾もあったか」


「ギャアアア!?」


 ディアブロは呑気に呟きながら捕まった腕に力を込めた。あっさりと引き千切られた尾に悲鳴を上げる妖竜、その瞳には涙が浮かんでいた。


「なんで?なんで?なんであなたにも効かないの?」


「魔道士の嗜みですが?」


「はは」


 最後までスターに妖竜の力は通じなかった。


「あぁ、もっと気持ち良くなりたかったな……」


 それが妖竜の末期の言葉となった。本音であり、自身の力で憐れみを誘うための文句だった。


「せい」


 ディアブロはそんな軽い掛け声で凶拳を撃ち落とした。


 地は陥没し蜘蛛の巣状の罅割れが描かれる。


 やがて、妖竜の屍はさらさらと粉塵となって散り消えた。


「さて、闖入者もありましたが、盗賊団の殲滅はこれにて完了です。あとは人質の有無の確認ですね」


「少しは労ったらどうなんだ?」


「あなたは当たり前のことをしただけでしょう?何故、労う必要があるのでしょう?」


「ホント、クソアマだな。アンタ、出世しない方がいいぞ」


 余韻なくスターが残った作業について口にした。ディアブロは文句を垂れてみるも、澄まし顔で応える彼女の様子に溜息を吐いた。


「行きますよ」


「はいはい」


 ディアブロの反応は無視してスターは、術者の死亡で幻術の隠蔽から露わになった洞窟の穴に足を進める。ディアブロも投げやりな態度でそれに着いて行く。


 洞窟内は人類種が最低限に生活できる程度の空間が広がっていた。しかし、売り払った後なのか盗品の類は見当たらない。当然、人質はいなかった。


「何もありませんね」


「ま、常にここにいるわけでもなし。ちょうど仕事前に来たんじゃね?」


「そんなところでしょうか。まぁ、職務遂行はできましたし、どうでも良いことでしたね。さて、再利用されないように洞窟は埋めてしまいましょう。あぁ、死体の始末もしなければいけませんね」


死霊ネクロス化の防止か?ご苦労なこったな」


 もうここに用はないと後始末について確認しながら二人は外に向かう。


 死霊ネクロス。『死』の精霊種であり、死体に受肉したモノの総称。あるいは、未練を残して死んだモノの霊魂ともされている。

 これを召喚する魔術を死霊術ネクロマンシーと呼び、それを扱う死霊術師ネクロマンサーたちはソロモン教死霊派として主に労働力や殺人事件の解決で社会に貢献している。イメージから忌み嫌われやすい魔術結社だが、直ちに禁術指定を受けるような墓荒らしではなく、墓守と認識した方が正しい。


「そこまで手間ではありません。ソロモン教から分派していれば、根本原理は同じなのです。他宗派の魔術とて似たものであれば簡単に修得できます。私の場合は、『火』の精霊種に適性がありますので、聖霊グレース派の【鎮魂火レクイエム・ブレイズ】で燃やしてしまえばお終いです。さ、死体を一箇所に集めてください。私はその間に洞窟を埋めておきます」


「へーい」


 外に出たスターからの指示に、ディアブロは雑に返答しながらも従った。


 掛かった時は僅かばかり、洞窟は埋め立てられ、死体の小山は煌々と蒼く燃え上がっていた。


 ソロモン教聖霊派は、悪魔デヴィルに対する天使エンジェル、善性の精霊種である聖霊グレースを召喚する宗派だ。発展した魔術は、退魔術エクソシズム祈祷術サクラメントの二種類があり、術者も退魔術師エクソシスト祈祷術師クレリックに呼び分けるが、術の分類は曖昧なところがある。一応、攻撃的であれば退魔術、補助的であれば祈祷術とするようだが、今回、スターが行使した【鎮魂火レクイエム・ブレイズ】などはどちらにも属するとされている。


 【鎮魂火レクイエム・ブレイズ】は、死霊を滅する猛火であり、死者を弔う聖火であるのだ。


 蒼き火炎に燃ゆる姿は、どこか冒し難い神聖さを醸し出していた。

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