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悪魔の蛮餐  作者: 龍崎 明
序編 魔の遊戯
11/42

11.人喰いの怪物は狡猾で臆病だ

 魔狼ワーグの案内によって、二人は無事に目標の魔獣種を発見した。


 獅子に似た体躯は黒い毛皮に覆われて、鬣は乾いた血のような暗赤色。蠍に似た長い尻尾を揺らすその相貌は、どこか卑しげな嗤い顔に見える金瞳の人面に似る。


 鬼哭獅子マンティコア。泣き真似のように鳴いて人類種を誘き出して食い殺す人喰いの怪物だ。


「ヒッヒッ」


 子どもの泣き声に似た甲高い鳴き声は、しかしその相貌と合わさると嗤い声にも似ていた。


「気づいてやがるな」


「逃げる前に仕留めますよ」


 短いとやりとり。スターは指を弾いて無数の魔法陣を展開する。それとほぼ同時にディアブロは飛び出した。


「キャアア!」


 鬼哭獅子マンティコアが悲鳴に似た絶叫を上げた。


 迫るディアブロに目掛けて放たれるは、尻尾の針だ。蠍に似たそれからは、人類種にとって致死性の猛毒が分泌される。


 見た目よりも伸長する尾が凄まじい勢いで突き出される。


 しかし、ディアブロは避ける様子もなくただ駆ける。


 そして、迫った尾先を掴み取った。


「ヒッ!?」


「遅いんだよ!」


 尾先を握り締めたまま、ディアブロが突撃する。


 まさか掴まれるとは思いもしていなかったのだろう鬼哭獅子マンティコアは動きが鈍る。


 ディアブロの一撃が決まる。


「ヒッ、キャアア!?」


 ディアブロは握る尾先を、鬼哭獅子マンティコアの金瞳に突き入れたのだ。


 魔獣種の毒は、呪毒という魔力的なモノ、あるいは、魔術的に強化された代物だ。そもそも、自身には効かないようになっている。


 それでも眼窩を抉られれば、大抵の生物は自身の死を悟るものだ。治る前に腐り、それが周囲の細胞にまで波及する。魔獣種であっても再生力に優れた種族は多くない。


「ヒッ、ヒッ、ヒッ……キャアア!」


「うお!?」


 ほぼ終わったと油断したディアブロであったが、その油断に乗じて鬼哭獅子マンティコアは仇敵を突き飛ばした。


「ここまでして逃げるのかよ?!」


「それが鬼哭獅子マンティコアという魔獣種モンスターです。油断が過ぎますよ?」


 追撃に構えるディアブロに背を向けて鬼哭獅子は駆け出した。


 驚愕に叫ぶディアブロに告げながら、スターが展開した魔法陣を輝かせる。


「逃がしません」


 スターが指を弾けば、無数の魔法陣から放たれる無数の火炎弾。


 ただの獣を超えた肉体を誇る魔獣種であれど、それより逃れるような速さはなかった。


 爆音を多重に響かせながら、鬼哭獅子マンティコアに着弾する。


 黒煙に覆われ視認はできずとも、魔術師二人の霊感がその気配を教えてくれる。


「死んだな」


「そのようです」


 森に吹く風が黒煙を散らせば、黒焦げで横たわる鬼哭獅子マンティコアの姿があった。


「あとは魔石を回収して依頼は完了です」


 言いながらスターが、死骸に近づいていく。しかし、途中で足を止めた。


「どうかしたか?」


「……私は刃物を持っていませんでした。あなたに任せます」


 ディアブロの問い掛けに、僅かな沈黙ののちスターは答えた。背を向ける彼女の表情をディアブロが窺い知ることはできないが、いつもの澄まし顔である。


「いや俺だって持ってねぇよ。まぁいい、おい、テメェらの爪を貸せ」


 渋面になりながらも、ディアブロは魔狼ワーグに指示を出した。


 鬼哭獅子マンティコアの死体をズタズタにしながらも、魔狼ワーグの爪により魔石は取り出される。


 魔石とは、魔獣種の心臓である。基本的に拳大の結晶体で、色は種族によってまちまちだ。正確には、心臓の側にあるのだが、これが割れると魔獣種は即死するので心臓というのが一般的だ。その正体は魔力が質量と化したモノと言われているがまだまだ研究途上である。だが正体はわからずとも、魔力を取り出せることはわかっている。そのため、魔道具の燃料として需要のある代物だ。


「死体はコイツらに食わして大丈夫か?」


「そうですね。代用の効く素材でしかありませんから構わないでしょう」


「いや、毒が大丈夫か聞いたんだが?」


「?死んでしまうのなら、食べませんよ。そもそも魔獣種の毒は、呪毒と言って魔力的なモノか、魔術的に強化された代物です。死んでしまえば、無毒化、弱毒化します。鬼哭獅子マンティコアは、無毒化したはずです」


 ディアブロの問いに、スターは淡々と答えた。


「そうか、じゃ、これはテメェらのだ。これからは人類種ヒューマンになんざ関わらずに長生きするんだな」


 答えを聞いてディアブロはそのように魔狼ワーグたちを労った。


「そういえば、撫でたりはしないんですね?」


「何だ、撫でたいのか?あまり懐かれても面倒だろ。森奥に引っ込んでもらうなら、人類種ヒューマンが危険なヤツであることを印象付けるべきだろう?」


「別に撫でたいわけではありませんが、そういうことならば確かに撫でるべきではありませんね。さて、帰りますか」


「はぁ、あの移動方法はどうにかならねぇのかね」


「嫌ならば、飛行魔術をできるようになることです」


 そんな会話ののちに、二人は火喰鳥イグニッション・ラプチャーで飛び去っていった。


 それを見送った魔狼ワーグたちの表情は、なんとも言えない引き攣ったものであったが、それを知る者はいなかった。


 魔の森に、爽やかな風が吹き抜ける。


 僅かに唸るように鳴いて、魔狼ワーグたちは鬼哭獅子マンティコアの死肉に食らいつく。

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