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悪魔の蛮餐  作者: 龍崎 明
序編 魔の遊戯
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10.魔獣種

 ローゼンクロイツァー帝国、某所、通称『魔の森』。


 鬱蒼と繁る薄暗い森に、ディアブロとスターの姿があった。


 狡猾な禁術師の多くは滅多に表社会に姿を見せるものではなく、盗賊団を組織する程度の三流禁術師の出現は散発的だ。だからといって、戦力を浮かせるのも問題がある。特に、ディアブロは特例赦免されただけの禁術師、使わないのなら牢屋に戻せと騒ぎ立てる木端貴族など幾らでもいる。帝国の繁栄は西方随一であり、広大な国土と長大な歴史によって貴族籍にある者の数も膨大なのだ。


 そこで、狩人ギルドを間借りしてることもあり、滞った依頼の始末を行う次第となったのである。


 最初の依頼は、魔獣種モンスターの討伐依頼であった。


 魔獣種と言っても種々様々な種族があり、その強さ、厄介さも異なる。狩人ギルドは、無為に狩人ハンターの命が散ることのないように、その危険度を三段階で評価している。下から順に、特に危険性のない無害指定、人類種に実害が生じるがベテランの狩人であれば安定して討伐可能とする獣害指定、才能ある者以外は通り過ぎるのを待つのが賢明とされる災害指定だ。

 これに合わせて狩人にも、下からブロンズ、シルバー、ゴールドのランクを認定して、ギルドはその実力の把握に努めている。なお、ゴールドランクだからといって必ずしも災害指定魔獣を討伐できるわけではない。その認定基準は、依頼の達成度、達成数、人格面、実力など多岐にわたるが、実力だけを見るならば、災害指定魔獣からの撤退を可能とするのが一つのボーダーラインとなっている。


 さて、今回にて討伐する魔獣種は危険度で言えば獣害指定だ。それでもその始末が滞っているのは、その魔獣種が狡猾で卑劣を極めたような性質をしているからであった。力の差を理解すると逃げるのだ。


 幸いにして、それは警戒してか縄張りとする『魔の森』から未だ出てきてはいない。しかし、それは好んで人喰いをするので速やかに討伐しなければいけないのである。


 なお、『魔の森』というのは魔獣種が棲息する森のことを広く指す呼称だ。他の地形であっても魔獣種が棲息していないということはなく、総称としては『魔境』と言う。

 この『魔境』は魔力の濃い環境であり、学術的には魔力特異点、霊穴と呼ばれる。世界の意思なるモノがあるのかは定かではないが、世界には魔力の流れたる霊脈がある。その集積地となるのがこの霊穴で、魔獣種は集積された魔力を求めて棲み着いているとされていた。


「はぁ、あんさぁ、依頼は選べよ。全然見つかんねぇじゃん」


 ディアブロは溜息とともにスターに悪態を吐いた。


 かれこれ数時間、件の魔獣種の探索に明け暮れているのである。


「文句を言う暇があるのならしっかり探しなさい。しかし、あなたの鼻が役に立たないとは誤算でした」


「当たり前だろ?嗅いだことのねぇヤツの匂いなんかわかるかよ。同じ感覚に霊感を重ねたヤツでも感じ方は微妙に違うんだぞ?そもそも魔獣種の匂い自体、似たり寄ったりだしな。感じた端から総当たりしてたら日が暮れちまうぜ」


 澄まし顔で答えたスターに、ディアブロはネチネチと伝聞だけで特定感知は困難であると文句を続けた。


「……敵襲ですね」


 流石に沈黙したスターだったが、迫る危機に言葉を発した。


 現れたのは三匹の魔獣種だ。


 姿形は狼に似るが、その体躯は四足でありながら一般的な大人よりも視線が僅かに高いほどに巨大だ。


 それは魔狼ワーグと呼ばれる魔獣種。獣害指定魔獣の中でも一つの指標とされる危険度がある。個体としても強いが、常に二、三匹で群れを成してしっかりとした連携で狩りをする。


 巨躯に相応しい重さと力。ただの力自慢の人類種ではあっさりと餌に成り果てる狩人として身を立てる上での関門の一つだ。


「伏せろ」


 魔力とともに発されたディアブロのその一言に、三匹の魔狼ワーグはあっさりと腹を見せた。


 狩人たちの間では強敵であれども、ディアブロは蠅王の悪魔憑きである。獣の域を出ない彼らに抗えというのは酷な話である。


 従魔サーヴァントというものがある。魔術的な契約で縛り従えた魔獣種、精霊種のことだ。使い魔とも云う。契約が成れば魔術的な繋がりが生まれるので、言葉がなくとも意思疎通が図れるようになる。


 だが、それはあくまで魔術的な契約。魔力の発露によって屈服させるのは荒業というほかない。


 ディアブロは、おもむろに小枝を拾った。


「何をしているのです?遊んでいる暇はありませんよ」


 スターの指摘は無視して、ガリガリと小枝を筆代わりに地面に図柄を描く。


 それは件の魔獣種の特徴をよく捉えた見事な出来映えであった。


「随分と器用ですね……」


 スターは思わず唸った。


「こういうヤツを見たことはあるか?」


 図柄を凝視するスターを放置して、ディアブロは未だ腹を見せたままの魔狼ワーグに問い掛けた。


 魔狼ワーグたちは立ち上がって図柄に寄る。三匹が顔を寄せ合って首を捻るものの、リーダー格の一匹が短く鳴いた。


「あるみたいだな」


従魔サーヴァントにしたわけでもないのにわかるのですか?正に人狼ですね」


 魔狼ワーグの様子に得心したディアブロを、スターが揶揄した。


「わかんねぇのか?」


「言葉でなければわかりませんよ」


 怒るでもなく純粋な疑問の調子で尋ねたディアブロに、スターは澄まし顔で答えた。


「行くか」


「えぇ、急ぎましょう」


 二人の様子に合わせて、魔狼ワーグたちが先行して歩み出した。

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