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見送り

本日2話目の更新です。

「セレス。第二魔術師団の遠征の馬車が、これから出るところらしいわよ」

「教えてくれてありがとう、エマ! レナート様を見送りに行ってくるわ」


 セレスティーヌはエマに笑い掛けると、魔術師団の拠点の外に止まっている馬車の元へと急ぎ足で向かった。セレスティーヌがレナートの姿を見付けて彼に近付こうとした時、レナートに話し掛ける一人の女性が目に入った。


(あら。あの方は……)


 にこやかにレナートに向かって話すその女性は、セレスティーヌが思い出せずにいた第五魔術師団の回復魔法の使い手その人だった。


(エマは、彼女は私の二年先輩の、ジリアン様という方だと言っていたわね。改めてこうして近くで見ると、お綺麗な方だわ)


 艶のある黒髪を靡かせた美しいジリアンの華やかな笑顔を眺めながら、セレスティーヌはちりちりと胸が痛むのを感じていた。


(レナート様のいる第二魔術師団の遠征に今までも同行なさっていたから、思い出せなかったのかしら? 魔物との戦いの前線に同行できるなんて、強い魔力の持ち主でいらっしゃるのね……。私と違って直接レナート様たちを支えられるなんて、何だか羨ましいわ)


 セレスティーヌがジリアンの姿にレナートの元に行くのを躊躇っていると、セレスティーヌに気付いたレナートの方から、ジリアンを躱すようにしてセレスティーヌのところへと駆け寄って来た。


「セレス。来てくれたんだね」

「はい、レナート様。どうぞお気を付けて行っていらしてくださいね。それから、これは心ばかりなのですが……」


 セレスティーヌは、昨日作ったばかりの回復薬の入った小瓶をレナートに手渡した。はっとしたように、回復薬を見たレナートの瞳が瞠られた。


「昨日帰宅してから、レナート様にと作りました。残っていらっしゃる疲労もあるかと思いますし、もし使っていただけたら嬉しいです」


 セレスティーヌに手渡された小瓶を、レナートはそっと大切そうに受け取った。レナートの瞳に、今までに見たことのないような色が浮かぶのを、セレスティーヌは不思議な思いで見つめていた。


「……ありがとう、セレス」


 レナートは、その場でセレスティーヌのことをぎゅっと抱き締めた。セレスティーヌは頬を染めるのと同時に、レナートの腕の中で驚きに目を丸く見開いていた。


(レナート様は、あまり人前でこういうことをなさる方ではないと思っていたのだけれど……)


 まるで想いが溢れたかのようにレナートに抱き締められて、セレスティーヌは惚けたようにその場に立ち尽くしていた。馬車に乗り込もうと集まっていた第二魔術師団の団員たちも、驚いたように二人に視線を向けていた。

 レナートは、我に返った様子でセレスティーヌに回した腕を解いた。


「驚かせてしまって、すまない。では行ってくるよ、セレス」


 セレスティーヌを最後に振り返ってから、レナートは第二魔術師団の馬車へと乗り込んでいった。

 レナートの姿を見送っていたセレスティーヌは、彼の背後から冷たい視線を感じたような気がして目を瞬いた。


(今、ジリアン様に睨まれたような……?)


 セレスティーヌが戸惑いながらジリアンを見つめると、彼女はふいっと目を逸らした。そのままセレスティーヌに背を向けたジリアンは、レナートとは別の第二魔術師団の馬車へと乗り込むと、そのままセレスティーヌの視界から姿を消した。


***


 その日の帰り道、セレスティーヌが魔術師団の拠点を出ると、いつもレナートが彼女を待っていてくれた場所を習慣のように眺めている自分に気が付いた。つい彼の姿を探してしまったことに、彼女は微かに苦笑した。


(レナート様は遠征中だとわかっているのに。……彼がいないと、やっぱり寂しいわ)


 小さく溜息を吐いた彼女が、そのまま立ち並ぶ柱の前を通り過ぎた辺りで、彼女の肩が後ろから軽く叩かれた。


「お疲れ様、セレスティーヌ」

「マティアス様。お疲れ様です」


 マティアスの姿に、セレスティーヌはにっこりと笑った。


「マティアス様は、先週半ばから第三魔術師団の遠征に同行していらしたのですよね?」

「ああ。少し長引いて、帰りが遅くなった。ついさっき戻って来たところだ」

「ご無事で何よりです」


 マティアスは、セレスティーヌを見つめて目を細めた。


「君こそ、よくやっていると聞いたよ。強くなった魔力も、上手く使いこなせているみたいだね」

「そう言っていただけると嬉しく思います、マティアス様」


 マティアスは思案気に口を開いた。


「回復職の魔術師に、戦闘部隊への同行依頼が最近増えているんだ。前にも少し話したが、君は興味はあるかい? 今の君の力があれば、前線へも十分に同行が可能だとは思う。すぐに結論を出す必要はないから、少し考えておいて欲しい」

「ええ、わかりました。お仕事帰りに呼び止めてくださって、ありがとうございます」


 セレスティーヌはマティアスに軽く頭を下げると、彼の前を辞した。彼女の胸は、明るく希望に弾んでいた。


(私ができる仕事の範囲も広がりそうだわ。ジリアン様のように、私もレナート様のいる第二魔術師団にも同行させていただけるようになれるかしら?)


 遠征中のレナートの無事を祈りながら、セレスティーヌはできることならレナートのことを近くで支えたいと考えていた。


(第二魔術師団のために私の回復魔法が活かせるようになったら、レナート様、喜んでくださるかしら……)


 マティアスに聞いた過去の自分とどうやら同じことを考えるようになったようだと思いながら、セレスティーヌはふわりと笑みを浮かべた。

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