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ひがんばな

 そら。

 そらをみつめていた。

 あおいそらをみつめつづけて、いきていた。


 わたしは、ただ、そこにいて。

 のぼっていくたいようを、みつめつづけていた。

 しずんでいくたいようを、みつめつづけていた。

 そしてまた、のぼってくるたいようを、まちのぞむ。


 そのくりかえしだと、おもっていた。

 そうおもっていた。


 わたしはあるひ。

 なつのひがとてもにあう、おんなのこにであった。


 しょうじょのえがおは、いままでであったことがないくらいすてきで。

 しょうじょのえがおは、なつのたいようのようにまぶしくて。


 だから、かのじょとあうことが、とてもうれしかった。

 だから、わたしはかのじょとあうことが、とてもたのしかった。


 でも、かのじょはとつぜん、すがたをあらわすことがなくなった。

 わたしは、かのじょにまたあいたいなとねがった。


 くるひもくるひも、ねがった。

 けれど、それは。

 かなうことがなくて。


 そんなあるひのことだった。

 あかいようふくのしょうじょが、あらわれたのは。



「あなたの願い、叶えてあげる」



 しょうじょがそうつげると、わたしはいつのまにか、しらないばしょにいた。

 わたしは、そのばしょでねがった。

 かのじょに、であえることを。


 そう、ねがったのだ。

 だから、わたしは。

 わたしの、<ゆめ>は。


 ―――


「彗夏……っ。彗夏……っ!!」


 ……。

 もうこれも年中行事だ……。

 わたしは眠い頭を覚醒させようと目を開ける。



「あ……起きた」


「たまには……ね……」



 目を開けると耳元で声をかける始と目があった。

 そして、いつものように壁に向かい、帽子かけにかかった麦わら帽子を手に取り鏡と向かい合う。

 うん。

 今日も似合ってる。

 一息、ふうと息をつくと。

 わたしは、相変わらず運動音痴な始を置いてひまわり畑へと駆け抜けて来た。


 わたしは枯れていくひまわり畑の中心でぼんやりと。

 ひまわりさん達に声をかける。

 今までありがとう。

 おかげで、この夏は楽しかったよ。

 大好きだったよ、君達の事。

 だから、また会いましょう、と。


 夏が……。

 終わっていく……。

 新緑の季節が……。

 青い、澄み渡る空の季節が。

 わたし達の季節が。


 わたしの願いは叶った。

 あの女の子に再び出会えますようにという願いが。


 そう、わたしは彗夏であって、彗夏ではない。

 わたしは、ひまわり畑の精霊。

 わたしは、今、彗夏の体を借りて生きていた。


 彗夏は、一度命を失った。

 理不尽な事故によって……。

 だから、このひまわり畑に姿を現すことがなくなったのだ。


 二度とあの子の笑顔が見られない。

 その事実が何よりも、わたし達は悲しかった。

 だから……。

 わたし達は願ったのだ。


『あの女の子に再び出会えますように』と。


 わたし達の一番の<夢>を代償に。

 わたし達の一番の<夢>。

 ……それは……。


 ぼんやりとわたしは足元のヒガンバナたちを見つめる。

 もう二度と理不尽に彼女を彼岸になんて連れて行かないでねと。

 わたしは優しくヒガンバナに話しかける。


 そして、わたしの意識は遠く彼方へと。

 消え去っていった。


 ―――


「彗夏……っ。彗夏……っ!!」


「うっるさいなぁーーー……」



 私は、私の体を抱き上げ、揺すりながら耳元で小五月蠅い声を出す始を見つめながらそう呟く。



「おまえ、なんで、こんなとこで眠ってんの」



 言われて初めて気が付いた。

 ここはひまわり畑の中だった。

 空が夕焼け色に染まる中。

 しおれ果ててしまったひまわり畑の中心だった。


 なんで私はここで眠っていたのだろう。

 なんで私はこんなところに来ているのだろう。

 もう、ひまわりの季節ではないのに?

 どうして……?


 わからない。

 わからないけれど。

 私は。


 この夏。

 この大好きだったひまわり畑の中心で。

 ひまわりさん達とともに生きていたように思う。

 ひまわりさん達とともに笑いあって生きていたように思う。

 そして……ひまわりさん達に見守られて生きていたように思う。


 大好きだったよ、ひまわりさん達。

 ありがとう、ひまわりさん達。

 また、来年会いましょう……。


 ―――


 だいすきだったよって、いってもらった。

 そういってもらえることで、わたしたちのこころはみたされていた。

 わたしたちはもうにどとと、さくことができなくても。


 そういってもらえることで。

 わたしたちのこころは、みたされていた。


 わたしたちのかわりに。

 さきほこっていたわたしたちと、とってかわるように。

 わたしたちのあしもとには、あかい、あかいヒガンバナがさきほこっていた。


 ―――



「で……いつまで、私の事、触ってるの、始」


「え……いや。……ごめん」



 そう言いながら、慌てて始は私の体を突き放す。

 私はその勢いでドシンと尻もちをついてしまう。

 いったーーーーーーーい。

 ホントにもう、これだから田舎者はいやになっちゃう。

 デリカシーの欠片も無いんだから……。


 でも……。

 抱きあげてくれた、始、ちょっと……。

 いやいやいや……。

 この気持ちはちょっとした気の迷いだ。

 気の緩みだ。

 ただの戸惑いだ。

 こんな誘惑に負ける私なんかじゃない。


 そう思いながらも、ちょっと胸の奥が熱くなるのを感じていた。

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