あるボンボンの呟き
最初はいやな女だと思ったんだ。今思えばくだらない世間知らずなあいつのいう、「ボンボン」のわがままだっただろう思いつき。目の前に金があったら人間はどうするか。我ながら傲慢な考えだったけど、見てみたかった。それがいけなかったのだろう。SPを下らせてすきを見せてしまった。だけど、そのときの俺はそんなことを毛ほども考えず、観察に夢中だった。一人目はリストラ寸前のようなよれよれのスーツを着たくたびれたすっさん。サイフをしばらくもの欲そうに見て、しかし盗む勇気がなかったのかとぼとぼと去っていく。いや、届けろよ。二人目はやたらとプライドの高そうな多分高級な服を着た女。いやみじゃないがうちの使用人の服の方がよっぽど質がいい。その女はサイフをちらっとみただけで、素通りした。なるほど、プライドはやはり高いようだが、なぜ届けようとしない。そして三人目があいつ。腰まである黒くン真っ直ぐな髪をなびかせて入ってきたあいつに、俺は悔しいことに思わず見憧れてしまった。類い稀なる美少女ってのもなったんだろうけど。何よりも強い意志を秘めた目が、綺麗だった。なのにあいつときたら、サイフをみたとたん挙動不審になるもんだから、こいつなら盗らねぇ、なんて妙な信頼を抱いた俺はなんというか、勝手に期待して失望して八つ当たりをしてしまった。つい鼻で笑って思いっきし失礼なことを聞いた。なのにあいつはうろたえも怒りもせず、真っ直ぐに俺の目を見た。何も疚しいことはんまいとばかりに…
今回の事件は、叔父が社長の座をねらったものだろう。だが、叔父にしてはうかつすぎる。俺が死んで叔父が社長になったりしたら最も容疑者に近くなるというのに。父を交通事故に見せかけ殺そうとしたらしいが。その実行犯も叔父の手下だったし…。ちなみにそいつは父に返りうちにされた。なにか違和感があるな。まあ、それにしても、あいつ、父親に向ける言葉がすごかった。思わず小川に同情しちまったくらいだ。あいつの度胸は人十倍だし、年の訳には落ち着いている。でも気づいてないみたいだな―?小説が売れるまでの生活費がないってことに。1000万円は借金に全部充てがったし、小川はもういない。これまでの給料もほとんどなくなってるだろうし。ところで、俺の通う金持ちだらけの学園ってな。奨学金があるんだよ。成績優秀者にだけな。金があり余ってるからテスト一回一回にあって転入生にチャンスはある。一回は大体50万。無駄金だよな。月にテストは一度。この話、あいつにしたらどうなるのかな?
切れた電話を見ていた俺の笑みはきっと黒いに違いない。