冷血少女の春風正月に
今秘書さんがいつもの間に消えて外にいるのが気にならないほどの衝撃な名前が聞こえた気がします。幻聴でしょうか。
「入れろ」
「え、ちょっと!」
「なんだ、怖いのか?」
「そんなことはありません!」
って、私なに安い挑発に乗ってるんですか!
「では、入ります」
ススー、と襖ガ開き、現れたのは秘書さんと五年前に姿を消し、会いたくてもあえなかった私の
「父さん…」
「有希…。すまなかった!お前達に苦労を背負わせてしまって!許してくれ!」
五年ぶりに会った父さんは泣いていました。
「父さん…」
思えば、父さんの泣き顔を見たのは初めてです。
「すまなかった…すまなかった…。俺が友人の保証人なんかになったせいでお前と母さんに苦労を背負わせえて…」
「なぜ…五年間ずっと…?」
「俺もやりたくはなかったんだ…!でも、あんな借金まみれで普通に働いて返せるわけがない…。だから、俺は、汚れてもいいから…あんなことを…。五年間あいつの下ではたらいて、ずっと、お前達に会いたかった…!堂々と会いたかった。けど、できなかった。こんな汚れきった俺を見せられるわけがない…。今回の誘拐でお前を見たとき、息が止まるかと思った…。だけど、俺はどうでもいい、お前だけは助けたい、そう思ってあいつのしてきた悪事の数々をもって警察に自首したんだ…」
「なぜ、あそこでずっと…?」
「やりたくなかったんだ…!でも、やめたくてもあいつはお前達のことは知ってて…。今回は幸運だった…。お前が巻き込まれているのを知られていたら、俺はお前に会えなかっただろう…」
「そう…ですか…」
「俺は、自首したから罪を軽くしてくれると社長は言っている。俺が罪を償い終わったら…まだ、遅くはないだろうか…?」
「父さん…泣かないで下さい…」
「有希…!」
「泣いても許しませんので」
「な…!」
「何驚いてるんですか?と言うか先程からしょうがなかったしょうがなかったって…何被害者ぶってるんですか?さっき言った汚れきっている自覚があるなら私に会わないで下さい。そもそも保証人にならないで下さい。そんなろくでもない友人つくらないで下さい。そして家を出なければ良かったのに。貴方が贈って来る金は利子に費やしています。その友人は本当にろくでなしの上にバカだったようで、悪徳業者に騙されたようです。貴方がいないせいでやくざ風の人たちが毎週来て母さんにいろんな意味で迫ってます。貴方をかろうじて父親として認めているのは私の生物的に父であるのと、私を逃がし、証拠を持って自首したおちうカケラの良心を見てのことです」
「ゆ、ゆき、ゆる…」
「家を出なければ悪党の雑魚その一つにならずに済んだ物を…誘拐の他に色々やったんでしょうね。そしてとどめですが、貴方がいないせいで母さんは水商売のようなものをしています。私にだって母親を慕う心はあるんです。いくらあなたがちちでも恨まないとでも?」
まあ、私も人のことは言えませんが。
「そ、そんな、あいつが…。」
「では、さようなら、小川直樹さん」
「では、連れていきましょう」
パチンと秘書が指を鳴らした音で入ってきたSPさんに連れて行かれる小川。
「こわー、お前も相当容赦ないな…」
「フンっ」
余計なお世話です。
「ハツハツハツハツ凄いな君は」
「社長」
「父さん」
「聞いてたんですか?」
「いやぁ、ちょっと好奇心でね」
天下の羽山財閥に盗み聞きのくせがあるとは驚きです。
そんな事を思いながら入ってきた羽山父にじっと目を向けていると、
「ふむ…小川有希、身長151センチ、体重36キロ、年齢十二歳…」
いきなりプライベート情報を暴露されました。
「ってお前同じ年だったのかよ!」
そして羽山に驚かれました。なぜだ。そして私も羽山が十歳以上だったことに驚きです。
「趣味金集め、好きなもの金、嫌いなものボンボン…」
「やめてください」
「お前俺が嫌いなのか?」
「ボンボンだっていう自覚あったんですか?」
「え、だってボンボン金持ちってことだろ?」
「少し違いますが…貴方のことは嫌いじゃありません」
「お、おう?よかった?」
「なぜ疑問形なのですか?」
「なんとなく」
「失礼ですね。まあ…いいや。私はもう帰ります。貴方がたにはもう会うことはないでしょう」
「え…なんだよ!さびしいこと言うなよ!」
「そうだよ、それにまた会うよ」
「?なぜですか?」
「ふふっ、じきにわかる」
…なんだか、羽山父のイメージがどんど崩れていきます。この方も第一印象クラッシャーなのでしょう。
「じゃあ、送ろうか」
「…ありがとうございます」
なんだかすっきりしませんね。
*
「…うわぁ」
半壊していた我が家…正確にはアパートの一室なのですが。豪いことになっていました。きらんきらんに輝いています。
「ああ有希ちゃん!ありがとうねぇ、あの羽山財閥にはお願いしてくれたんでしょう?すごいわぁ、うちは大家族なのよぉ。これで…」
びっくりしました。ド派手メイクで出てこないで下さい。このおばちゃんはアパートの住人の一人で、何かとお世話になっています。でも大阪のおばさんのような派ってなピンクを顔中に塗りたくっているのでヌッと出てこられるなかなかの迫力です。そしておしゃべりです。とっても。それにしても真っ白い壁、ピッカピカの窓ガラス、面積は後ろの廃ビルを飲み込んで前の二倍はあります。
「…あら、もうこんな時間。じゃあ、有希ちゃん」
やっとおばさんから解放され、アパートに入ると、
「うわぁ…」
なんか階段がないと思ったらエレベーターになっていました。そして自動ドア。防犯カメラ、指紋識別機…。別にここまでやれとは言っていないのですが。まあ便利そうなので文句はありません。
*
我が家がすごいことになっていました。貌が映るくらいピッカピカのフロア。自動水洗トイレ。調理道具一式揃っているキッチン。フッカフカのソファ。噂の3Dテレビも…!
寝台にもリビングにも自動エアコンが…!コンピュータとノットパソコンも一台ずつ、自動掃除機も!ああ、冷蔵庫が大きいです!すごいです!幸せです!!
―ジリリリリ
なんですか、人が幸せに浸っているときに!
「はい」
新しい電話を取る。黒電話さんさようなら。
「おう、気に入ったか?」
「はい」
ええ、たとえ私の幸せを邪魔した貴方の声を聞いてもむかつくだけなほど幸せです。
「そっか、ならよかった。これで、お前の母さん仕事やめられるな」
「な…母にできる仕事はかぎられています」
「そうか?お前の母さん、若い頃は若い頃は有名な小説家だぞ?」
「…へ?」
「だから良かったな」
「…はい!」
「お前がお前の父…いや、小川に啖呵きったときさ、ちょっと傷ついた顔しただろ?母の仕事を分かっていても止めない、何も思わない私が言うことではありませんが、とかそういうこと思ったんじゃねえか?」
「…エスパーですか」
「やっぱり?お前が病むことねぇよ。全部小川の責任にしちまえ。そっちの方が楽だぞ。別に人間、たまには楽になってもいいんだよ。じゃあな」
―ツーツーツー
まいりましたね…。
切れた電話を見たら、ため息が出てしまいました。
正月は特別なものです。でも今年の正月は更に特別なものになってしまいました。バカにしないでくださいね。私にとって充分特別なことです。
私は今年の正月で、嫌いなものがなくなってしまいました。
―Fin.




