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冷血少女の春風正月に

            ・     ・     ・

 「つまり、もう犯人の目星はついていると?」

 「ああ」

 なんということでしょう。羽山が、羽山が…!

 「だからあの建物でお前が体験した話を聞かせてくれ」

 「はい」

 いいか?と聞いたくせに随分と強引にリムジンに連れ込まれましたが、これはパッと見女の子誘拐事件…母はSPや秘書さんに連れ去られました。どこへ?知りません。

   *

 「なるほど…じゃあ次はお前の父親の話をしよう」

 「は?」

 「悪いとは思ったが、調べさせてもらった。五年前に千万の借金を残してとんずらしたそうだな」

 「…はい」

 「その…お前も大変だな」

 「はい。母は全く生活能力がありませんか。ものすごく不器用なんですよ」

 「じゃあ、全てお前がやっているのか…ん?不器用なお前の母はどこで働いている?料理をしていて爆発するくらいなんだろう?」

 「はぁ、直接聞いたことはありませんけど、多分水商売ですよ」 

 「は?」

 「いえ…香水や酒の香りをぷんぷんさせながら帰りますし、たまにキスマークがついていたり、朝帰りもしたり…。だから嫌でも分かります。」

 「は、はぁ!?お、お前、それだけ知りながら何も言わないのか!?」

 「?何をですか?」

 「何って…。やめろとか、自分を大切にしろとか…」

 「母ができる数少ない仕事ですよ?なぜやめさせなきゃいけないんですか?」

 「お前…」

 「っていうか話をきくんじゃないんですか?」

 「ああ…お前の父親はどんな奴だ?」

 「ええ…?どんな奴と言われても…」

 「分かった、お前の父親の仕事は?」

 「普通の営業マンです」

 「年は?」

 「生きていたら三十八歳です」

 「不吉なこというなよ。体型は?」

 「背は低い方です。大体165cmくらいでしょうか。肉付きは普通です」

 「ふーん。家庭に対しては?」

 「深い愛情を持っている…と思いたいです」

 「持っていると思うぞ…関係ないが、お金とかが送られてくることは…?」

 「あります。五年前から封筒にいくらか金が入っていて…。もしかしたら、父かもしれません」

 「多分そうだろう。それについては?」

 「別に特に。とりあえず助かってます」

 「お前冷めてるな…」

 失礼な。

 「まぁ、黒幕は分かってたんだけどな」

 「ええ!?」

 「お前その『山ざるのくせに』って顔に書くのやめろ!」

 「失礼な、オラウータンです」 

 「そっちか!?」

 それ以外に訂正することがあるとでも?

 「ま、とりあえず家に来い」

 「はい!?」

 何を言っているのでしょうこの人は。いや、この人は単純のくせに良くわからないし、有言実行な人だからきっとやるのでしょう。よし、逃げましょう。

 「発車!」

 ああ、愛しの我が家が…。半壊してますけど。

 「もうっ」

 腹立ちまぎれに羽山に腹パンを叩き…こもうとしたらSPさんにがっちり止められました。そういえばこいつはボンボンでした。

 「ああ、そういえば犯人どもは捕まったぞ」

 「…はぁ」

 いきなり爆弾を落とさないで欲しいです。

 「あんま驚いてないのな」

 いいえ、充分驚きです。

 「そういや…なんか食うか?」

 「やはり伝説の車には冷蔵庫があるのですね!」

 「おう…?伝説?」

 「フッフッフ…」

 「キモコワいぞお前…」

 ああ、下がる一方だったテンションが急上昇しました。我ながら単純です。がめついとなんと言われようと私は食べて見せます…!

 ――バクバクバクバクバクバクバクバク


 羽山の出したお菓子を一心不乱に食う、食うのです。食うのですよ…!

     *

 おいしかったです。なぜか羽山がげっそりしていますが、私は満足です。

 「お前すげえわマジである意味…」

 そんなに褒めないでくださいよぅ。

    *

 お屋敷です。ものすごくでかい。

 「うわぁお」

 「すげえだろ。これお父さんの趣味なんだ」

 天下の羽山財閥の社長はなかなか渋い趣味をお持ちのようです。

 純和風です。正面玄関はどこかい木製の門で、それがゆっくりと開いていきます。 

 ―ギギ―

 『お帰りなさいませ、幸坊ちゃん』

 わあ、言うと思いました。女性は着物、男性は衿ですね。時代劇もこういうものでしょうか。緊張していたため良くわかりませんでしたが、庭に高級そうな盆栽がいくつかおいてあるのが見えました。さすが金持ちは違う、そんな事を考えながら、私はこそこそと羽山の後ろについて屋敷に足を踏み入れたのです。

    *

 長い廊下をグネグネと曲がりまくりました。覚えようとはしたのですが、私の記憶力はそこまで化け物じゃありません。十分くらい歩いてようやくたどり着いた和室は私の家の三倍でした。違いはありませんよ、家で十分こともそうですが、一室が家の面積の三倍だというのも…。この屋敷はどれほど広いのでしょうか。ともかく、辿りついた和室には立派な衿を来た貫禄のあるいかにもな殿様。いえ、王というよりも武将でしょうか。彼の周りだけ空気がピンと張りつめています。そしてもう一人、あのダンディーなおじさまです。さっき見た時と同じ、綺麗に撫でつけている銀髪、ピンととした口髪、ピシッとしたスーツ。こういうと執事っぽいですが、何となく雰囲気が違うのです。どちらも正座中です。

 「幸」

 そう言ったのは、仮織田信長さんです。羽山をこうした呼び方をできる人物は限られていますので、彼は羽山の… 

 「父さん」

 やはり父親でしたか。

 「すまなかった。君を巻き込んでしまって本当に申し訳ない」

 そう言った羽山父が頭を下げたのは…私ですよね。ああ、こんな人物に土下座もどきさせた私は何の罪にあたるのでしょう。あはははは。いかん、現実逃避してしまった。

 「い、いいえ、そんな…」

 慌ててみる。この場合はあまり落ち着いてはいけないのです。

 「そのお詫びといってはなんだが何か要求でも…?」

 「そ、そんな…い、いりません!」

 謙遜してみる。この場合はあまりがめついてはいけないのです。

 「なんでも叶えよう。我々ができる範囲で」

 いいましたね!

 「では、我が家の修繕費、千万下さい。」

 「…え?」

 アパートは羽山のせいですし、千万は…ああ、私はもらえるのはもらう主義です。ほんとうは、二千万とかにしたかったんですけど、さすがに私はそこまでがめつくないのです。もう充分がめつい?なんのことでしょう。

 「やっぱし…」

 羽山の呟き?そんなものは無視です。

 「フ…ハッハッハッハッハッハッ」

 羽山父、怖いです。

 「君は面白いな。いいだろう。その要求呑もうか」

 「ありがとうございます」

 丁寧に頭を下げる。礼の仕方くらい知っています。

 しずしずと和室から出る羽山父。ふすまが閉まった途端、

 「幸様ああああぁぁぁぁ」

 ええ、まあ、分かってたんですけどね。因みに私は被害を受けないよう逃避中です。

 「もご、もが、たすけ…おま、ぐほ…」

 私には何も聞こえません。

 「やめてくださいクソジジイ」

 美人秘書さん、相変わらずにあうスーツ姿ですが、なぜ気配を消すのですか。そしてべりっとおじ様を羽山から引き離すのはいいのですが暴言が聞こえたのは私の耳の寿命ですか。

 「ぎゃああぁぁぁ、幸様ぁぁぁ」

 SPの皆さん。いつの間にか入ってきたのにもうツッコミませんが暴れるおじさんをどこに連れて行くのですか。

 「さて、本題に入りましょう」

 …パタンとおじさんとSPが去り閉まった襟襖の音。秘書さん、何もなかったことにしていいんですか。

 「あなたの父親のことについて」

 「…え?」

 まさかここでその話が出てくるとは思いませんでした。

 「順番に話しましょう」

 「……」

 「今回の誘拐事件を起こした黒幕は、羽山幸様の叔父、つまり社長の兄です。そして実行犯はその手下、その中に貴方のお父様はいらっしゃいました」

 「…え?」

 え?え?嘘…そんなわけはないはずです。

 「叔父はこっそりあの建物の地下に色々施設を造っていたらしい。ほら、あの黒い奴等突然あのだだっ広い所に現れたろ?それにお前が目隠しされてトイレ行くときクラクラしてるっつっただろ?あれは地下に行ってる気付かないように少しずつ傾いている坂をぐるぐると下りていったからだ。」

 「はぁ」

 「俺はずっと疑問だったんだ。あのちっこい黒いの、お前にやけに優しかったろ?お前の手錠をはずしてくれたり、トイレに行かせてくれたり…。最初は女の子に優しいのかと思っていたが、それにしちゃお前に声をかけられてビクついたりしてるし…。確信したのはお前にカギを奪われて、外に出たら車があるし、それに仲間が来るのがやけに遅いって三点だな。あの小さい奴は間違いなくお前を逃がそうとしてるって。叔父は容赦ない性格だからな、新入りに俺の誘拐なんてさせるわけねぇ。手下ならボスの性格くらい知ってるから、いくら女の子でも他人でそんな危険を冒すわけがない。お前の知り合いでちっこくて、そんな危険を冒すほどお前を愛している人物はお前の父親しかいないってわけだ」

 「…そう、ですか…」

 私は今、どんな顔をしているのでしょうか。父がまだ自分を愛していると知ってホッとした顔?父がそんな事をしていると知って悲しんだ顔?それとも怒っている顔?事実を知って驚いている顔でしょうか?いえ、ちがいますね。私は驚いていますね。しかし父のことではないでしょう。それは

 「貴方がただのバカではなかったことが驚きです」

 「そっちかてめぇ!喧嘩売ってんのか!?」

 「ただのナルシストではなかったのですね、ボンボン」

 「ナルシストじゃねぇよ!つかお前すげぇよ、ある意味すげぇよ!!」

 「そんなに褒めないで下さい。照れるじゃないですか」

 「褒めてねぇ!ていうかお前ほど照れるに無縁な奴いねぇよ!」

 「失礼ですね」

 「なんで俺が悪いみたいになってんだこの野郎!」

 「私は女です!」

 「そっちか!?」

 「すみません、小川直樹さんをお連れしました」

 ……え?

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