新たな危機
「はぁ、はぁ、はぁ……うぅ……」
2体目のグリフォンの体が倒れた。
危機は去ったのだ。勝利は私たちが手にした。
その結果に安堵しつつ、ストンと下に座ってしまう。初めての命の危険がある戦闘を終えた事で足から力が抜けた。
ジークさん達の様子を見ると、多少の怪我はありつつも、大丈夫そうだ。本当に良かった。
だが、それにしても、
(────頭が痛い……痛すぎるわ……)
どうやら、風邪が本格的にぶり返してきた。戦闘中に体が火照ったのも、ただ興奮しただけではなく、風邪の熱によるものかもしれない。
「じょっちゃん!大丈夫か?」
「う、うん……」
ハルビンさんから声がかけられる。私はそれに頷いた。
顔をあげ、ハルビンさんの顔を見上げると、その顔はすごく苦しげだ。
そこまで、私の状態は酷そうなのだろうか。
「………すまなかったな、じょっちゃん。」
「?大丈夫……。」
そう思うとハルビンさんが突然謝ってきた。だが、私には何に対する謝罪か分からない。私は何かやらかしてしまったのだろうか。
私が疑問に思っていると、ハルビンさんが頭にポンッと手を置いて優しく撫でてきた。
(────あっ!ハルビンさんの前で魔法使っちゃった!!!)
頭がズキズキ痛むなか、その事に思い至る。
せっかくジークさん達が隠してくれたのに、それを無駄にするような事をしてしまった。
だが、この場にいるのはジークさん達を除くとハルビンさんだけだ。
後で事情を説明すれば、上手く事は収まるだろう。
「グリフォンの幼体は?」
「逃げたようです。」
「……そうか、なら一旦戻るぞ。」
そして、ハルビンさんのその声を皮切りに私たちは元いた場所へ向かう。ただ、ハルビンさんの顔色は優れないままだった。時々こちらをちらりと見てくる。
本当に、やらかしてしまった。しかし、早く魔法の事を説明したいが、頭が痛むのでその事は後に回すことにした。
ちなみにだが、帰りはジークさんに抱っこされた。
恥ずかしい……。
あの後、森の中でキャニーさん達と合流した。
グリフォンを2体とも討伐した事をハルビンさんが伝えると、キャニーさん達は唖然としていた。
「グリフォンを5人で討伐したってどういうことよ……」
「いや、5人じゃない。6人だ。」
「そ、そうだったわね……」
キャニーさんはジークさんに抱えられた私をちらりと見てため息をつく。
キャニーさんに付いてきていた騎士の人達はハテナを頭に浮かべていた。
そのちょっと間抜けな姿に私はクスリと笑ってしまったのだった。
オリビアさんは連れてきた騎士のうち数人を連れてグリフォンの遺体を取りに行く。
残った私たちは、拠点にしていた地点に戻った。
そこには撤退の準備をしていた人達がいたが、私たちの報告を聞き、驚きつつも歓声をあげていた。
その後、馬車から飛び出してきたアリアさんから私はお灸を据えられた。
「報告が来たとき、馬車にいたはずのあなたがいなくて、本当に驚いんたんですからね!」
「まぁ!戦闘に参加したの!?危ないことはしてはいけませんよ!」
などなど。
だが、私が風邪を再発させていたからから、そのお説教もすぐに終わった。
アリアさんはもう、と息をついて頭を撫でてきた。
「本当に……怪我がないようで良かったわ……」
涙を溜めながらそう言われた時には、私にもグッと来るものがあった。
(本当に良かった………)
私たちの長い夜は終わったのだ────。
翌朝。
朝食の配膳がされる輪に加わる。相変わらず、頭は痛い。
アリアさんには「無理しなくてもいいのよ?」と言われたが、早くハルビンさんに事情を説明したいので体に鞭打って馬車から出てきた。
朝食はグリフォンのお肉のスープだった。結構美味しい。
それをモグモグ食べながら、みんなの会話を聞く。
輪の真ん中ではアイザックさんが昨日の武勇伝を語っていた。もちろん、私の魔法を伏せているが。
(昨日、あんなことがあったのに、朝から元気だなぁ……)
「ケホッケホッ」
それを聞きながら咳をしていると、反対方面にいたハルビンさんと目があった。
ハルビンさんは微妙な笑顔をかけてくる。
早く事情を説明せねば。
食後に話をしようと思いつつ、頭の中ではどんな説明をしようかと必死に考えていた。
しかし、そんな祝勝会のような賑やかな朝食のなか。
「ピィイィイイイ!!!!!」
『!?』
突然、甲高い鳴き声が聞こえてきた。
声がした方を見ると、そこには昨日戦ったグリフォンよりも遥かに小さい、だが、覇気を感じさせる新たなグリフォンが立っていた。
(────グリフォンの、子供!?)
昨日、逃げたと思っていた幼体のグリフォンがついてきていたのだ。
そして、その子供のグリフォンが立っていたのは馬車の近く。
(アリアさんが危なない!)
馬車の護衛はいる。だが、警備に付いていた者たちは2人だけで到底対応できる人数ではない。
「アリア様!」
朝食をとっていた騎士たちは声を上げ、慌てて馬車に駆け寄るが、ダメだ、間に合いそうにない。
グリフォンの子供は、もう馬車の目前まで迫っている。
1番馬車の近くに座っていた私は、そのグリフォンに手を向け魔法を発動させるべく、手に力をいれる。
もう、人目を気にしていられる状況ではない。
私は心音が跳ね上がるのを感じながら魔法を発しようとすると、
(────しまったっ!)
私は忘れていたのだ。3年間ずっと魔法を扱っていて、魔力の扱いの難しさを。少し息が上がっただけでコントロールを失ってしまうほど、私は熟達している訳では無いことを。
昨日の戦闘では異変を早くから察知していたし、集中も出来ていた。
しかし今の風邪を引き、しかも大きく動揺している状態で、魔力が上手く使えるわけがない。
私が練り上げた魔力が体内で暴走していた。
「うぅ……ぁっ!」
体中が痛む。このままでは3年前の逃走時のように、魔力暴走が起きて爆発を起こしてしまう。
私は必死に体内の魔力を一纏めにし、魔力の塊を外へ打ち出した。
『ゴォォオオオン!!!』
その魔力は馬車に迫っていたグリフォンの幼体にぶつかると、轟音を放ちながら弾ける。
大きな爆風が当たりを吹き荒らした。
そばにあった馬車はカタカタと音を鳴らす。
だが、そばにいた護衛が咄嗟に支えたおかげで、転倒はまぬがれていた。
(やってしまった……)
その光景にホッとしつつ、立ち上がった煙のなかグリフォンの幼体を見る。
そのグリフォンはその場に倒れているようだ。
良かった、成体のグリフォンなら耐えたかもしれないが、幼体だったおかげで通用したようだ。
しかし、その事に安堵していると、背中からガクンと衝撃を受けた。
「あっ……!」
体が起き上がらない。何かに乗り抑えられている。
周囲に漂っていた煙がだんだんと晴れるなか、首だけを動かして、後ろをうかがう。
そこにいたのは。
剣をこちらに突きつけてきた、ハルビンさんの姿があった。




