091 物語は再び
俺達五人が謎の島から脱出してから数年が経った――。
「久しぶりだな、藤堂」
「ああ、数年ぶりか。感覚的には“はじめまして”だ」
「たしかに、こうして話すのは初めてだからな」
ある夜、都内のスポーツバーで手島祐治と会った。
俺と同じく鳴動高校に通っていた生徒であり、手島重工の御曹司。
そして、俺達と同じく“あの島”を生き抜いた者だ。
今日は彼に呼ばれてこの場に来ていた。
『遅くなったがあの島でのお礼をしたい』
先日、唐突にラインで連絡が届いたのだ。
俺達のホームページが役に立って脱出に成功したという。
それもあってお礼がしたいとのことだった。
それで俺も思い出した。
そういえば島で過ごしている時にそんなことを言っていたな、と。
「藤堂、酒は?」
「慣れていないからノンアルコールにしておくよ」
「なら俺もそうしよう」
カウンター席に座ると、手島はバーテンダーに注文する。
この手の店に不慣れな俺の分も適当に頼んでくれた。
「同い年とは思えないほど慣れているな」
「仕事で来ることがあるからな」
「流石は手島重工のお偉いさんだ。皮肉ではなく本心から凄いと思うよ」
「否定はしない」
高校を卒業して数年だが、手島は既に働いていた。
手島重工の、よく分からないがカッコイイ部署を仕切っている。
学歴も必要ということで、私立の最難関大学の学生も兼務していた。
とはいえ、大学のほうは形だけで実際には通っていないらしい。
AO入試で入ったので受験勉強もしていないそうだ。
ちなみに、俺は普通の大学生だ。
普通に大学生活を送り、人並みの幸せを享受している。
リア充を見ても嫉妬しなくなっただけで、他は高校時代と大差ない。
「いざ会ってみると何を話すか悩むところだな」と笑う手島。
「たしかに。別に仲がいいわけでもないしな」
出されたカクテル風のジュースを飲む。
頭上のテレビからは大音量でスポーツ中継が流れていた。
時にそれを眺めるなどして無言の時間を過ごす。
そうしていると、俺はあることに気づいた。
手島の左手の薬指で煌めく指輪だ。
「手島、結婚したのか」
「ああ、そうだ。今年の四月に式を挙げた」
「数ヶ月前じゃないか、そんなに最近だったとは」
「ちなみに相手は里桜だ」
「里桜? 有名人か?」
手島が「違う違う」と声を上げて笑う。
何が面白かったのか大ウケだ。
「同じ学校の桜井里桜だよ」
「桜井里桜……」
名前を聞いても思い出せない。
「いつも俺と一緒にいた女だ」
「あー」
それで思い出せた。
手島には派手な髪色の彼女がいたことを。
あと一人、強面で大柄の男がいたはずだ。
いつも三人で行動していた。
「そういえば、今日はあの大きな男はいないのか?」
「真のことか?」
「そう、武藤真」
「近くにいるが、呼ぼうか?」
「いや、訊いただけだ」
「そうか。機会があれば紹介しよう。里桜や重村も」
「重村? 聞き覚えがあるな」
「あの島で好き放題にしていた男だ」
「ああ」
これまた言われて思い出す。
性奴隷制度を構築していた暴君がいたことを。
「重村と仲良くしているのか」
「まぁな」
「言っちゃ悪いがあいつはクズだ」
「そうかもしれないが、あいつ以上に俺のほうがクズだ」
「どういうことだ?」
手島は正面を向いてジュースを飲み、それから言った。
「重村の件は別の機会に話そう。それより、そっちはどうだ? 卯月たちとはその後も仲良くしているのか」
「ああ、変わらずだよ。ま、全員が揃うことはあまりないが。特に歩美は大人気女優だからな。仕事以外で男と会ったとなるだけで大問題だ」
「なるほど。付き合ってはいないのか?」
「歩美と?」
「他の三人も含めてさ。誰か一人は友達以上の関係に発展してもおかしくないだろう。あの島で一緒に過ごしたのだから」
「それについては……」
俺はどう答えようか悩み、それから笑みを浮かべた。
「別の機会に話そう」
「ふ、いいだろう」
再び無言になった後、手島が尋ねてきた。
「そのネックレスは思い入れがあるのか?」
「ネックレス?」
俺の首にはシルバーのリングに革の紐を通したネックレスが掛けられている。
紐もリングも古びていて、いい風に言えば味が出ていた。
「失礼な言い方ですまないが、藤堂はオシャレに興味があるようには見えない。なのにネックレスを着けているから不思議に思ってな」
俺は小さく笑った。
「たしかにネックレスを着けるタイプではないが、このネックレスは特別なんだ。あの島で歩美が作ってくれた物でな」
「島の物が残っているのか? こっちは全部消えたぞ?」
驚く手島。
通常よりも目を開き、俺のネックレスを凝視している。
「俺のほうもネックレス以外は消えたな」
「どうしてそれだけ消えなかったのだろうな」
「ガラパゴで買った物ではなく歩美が作った物だからではないか?」
「いや、それでも消えるはずだ。俺もあの島で色々作ったが、それらは知らぬ間に消えていた」
「だとすると……身に着けていたからとか?」
「それならあり得る。よかったらそのネックレス、今度調べさせてくれないか」
「かまわないが、何を調べるんだ?」
「成分だ。普通のシルバーに見えて、実はあの島ならではの何かが含まれているかもしれない。俺は今、会社でそういう研究をしていてな」
「ほう」
「もし研究が上手くいったら――」
手島が話している最中のことだった。
頭上のテレビがスポーツ中継を終えてニュース番組になる。
『本日昼、私立**高校の生徒と教師が一斉に失踪するという事件が発生しました。この前代未聞の――……』
俺達の顔がテレビに向く。
「今日は集団失踪事件のニュースで持ちきりだなぁ! もう飽きたっての! マスター、チャンネルを変えてくれよー! この時間ならMLBやってるっしょ! MLB!」
他の客がブーブー言っている。
「集団失踪事件だと……!?」
テレビを観ない俺は、今のニュースで初めて知った。
どうやら手島も同じだったようで、目に見えて驚愕している。
「藤堂、これって俺達の時と同じなんじゃないか」
「俺も同じことを思ったところだ」
俺や手島を巻き込んだ、鳴動高校集団失踪事件。
世間から「壮大な悪ふざけ」と思われている、あの超常現象。
それが今、再び起きたのだ――。
お久しぶりです。
この度、ガラパゴの数年後が舞台の新作を始めました。
登場人物を刷新し、完全新作として、長期連載を視野に書いています。
ガラパゴのキャラたちも何らかの形で登場します!
転移の謎は? 黒幕の正体は?
大地や手島が脱出した後の島はどうなった?
そういったことにも触れる予定です!
【作品名】
成り上がり英雄の無人島奇譚 ~スキルアップと万能アプリで美少女たちと快適サバイバル~
【URL】
https://ncode.syosetu.com/n4664ia/
時間をかけて準備してきた力作です。
すごく面白いので読んでやっていただけると幸いです。
下にリンクをご用意していますので、必要であればお使いください。
応援のほど、何卒よろしくお願いいたします。













