090 手島祐治の脱出⑥
60日目。
藤堂大地が島を発った1ヶ月後。
いよいよ手島が島の脱出へ挑む時がやってきた。
「集まってくれてありがとう」
巨大客船の甲板で、手島が謝意を述べる。
そこには20人を超える生徒が集まっていた。
手島を含めた総勢は25人。
「船の操縦は俺と真が取り仕切る。だが、この規模の船を動かすには、色々と作業が必要だ。皆にも手分けして働いてもらう。詳しいことは指示を出すので従ってほしい。では、脱出開始だ!」
「「「「おおー!」」」」
この場にいる全員が自分の意思で船に乗っている。
手島が計画を説明して募集をかけた時に参加を表明した者たちだ。
大半が重村グループに属していない人間である。
拠点で悠々自適の生活を送っていた者ばかりだ。
快適な島の生活を捨ててまで戻りたいと強く願う者たち。
重村グループからは7人が参加していた。
その内の6人は女子だ。往々にして容姿のレベルが高い。
そして、残り1人の男子は――重村だ。
「まさかお前が島を捨てるとはな」
操舵室に着くなり、手島は重村に話しかけた。
「惜しい気もするけど、もう十分かなって」
重村の目はキラキラ輝いていた。
久しぶりに手島と一緒になれて幸せなのだ。
「それに、手島さんがいないといずれ反乱が起きていた気がする」
「対処法は教えておいただろ?」
「そうだけど、どうやら俺は王の器じゃなかったんだろうな」
「お前は立派に頑張っていたぞ。それは誇っていい」
「女子にした仕打ちは誇れるものじゃないけど」
「見返りを求めただけのことだろ。気にするな」
手島は話を切り上げると、操舵室の中を素早く動き回る。
本来なら複数人で担当する作業を単独でこなしていた。
「これでよし。――真、現状維持を頼む」
「おう」
「重村は真のサポートをしろ。分からないことは真に教えてもらえ。俺は操舵室を出て他の連中に指示を出してくる」
「分かった!」
手島は操舵室が出る際、重村の右肩に手を置いた。
「よく頑張ってくれた、ありがとうな」
重村は嬉しさのあまり、少しだけ涙をこぼす。
王でいることの重圧から完全に解き放たれた瞬間だった。
◇
止まったら死ぬとばかりに手島たちの巨大客船が海を進む。
巡航速度は20ノット――時速37キロほど――を維持している。
海を出て3時間が経過した頃、天気が荒れ始めた。
「最初にして最大の関門だ。これを突破すれば脱出できたも同然だ。皆で協力して頑張ろう!」
手島が操舵室から船内にアナウンスする。
操舵室にいる里桜と武藤、それに重村が大きく頷いた。
「よし順調だ」
巨大客船は絶望の悪天候との相性が良かった。
まるで横綱相撲のように、どっしり構えて海を突き進む。
横殴りの暴風を受けても平然としていた。
とはいえ、揺れないというわけではない。
「きゃっ」
「里桜さん!」
大きく揺れた際に転倒した里桜を重村が支えた。
「大丈夫?」
「大丈夫。ありがとうね、重村!」
そう言うと、里桜はニヤリと笑った。
「私のこと、初めて名前で呼んだね」
「えっ、あっ、そうか、いつも苗字で……」
重村は久しぶりだったので、里桜の呼び方を忘れていた。
指摘されたことで途端に恥ずかしさがこみ上げてくる。
「おい重村、人の女に手を出すんじゃねぇ。しっかり働け」
「ち、違うんだって、手島さん!」
慌てる重村を見て、他の3人が笑う。
「分かってるよ。お前は相変わらずだな」
手島が茶化すように言うと、重村は唇を尖らせた。
「こんな状況でも余裕すぎるだろ……」
重村は改めて思う。
(やっぱり手島さんはすげぇや)
◇
危ない場面があったものの、どうにか悪天候を突破した。
だが、休憩する余裕はない。
徘徊者の出現まで残り10分をきっていた。
「全員、急いで操舵室まで来るように! 2時になったら扉を閉めるぞ!」
手島がアナウンスする。
他の場所で活動していた連中が大慌てで操舵室に駆け込む。
午前2時を前にして25人全員が操舵室に集まった。
「全員いるな? なら――」
手島はスマホを取り出し、〈ガラパゴ〉から戦力を召喚する。
畑作業でも大活躍だった自走式ロボットアームだ。
人柱計画の第2弾で使った時と同じ物である。
そのロボットを操舵室の外に20機配備した。
それから操舵室の扉を閉ざして鍵を掛ける。
「「「ヴォオオオオオオオオオ!」」」
午前2時になり、徘徊者が現れる。
仲間の体を梯子代わりにして、無防備な巨大客船に乗り込んでいく。
「不安だと思うが武器は出さなくていい。こんな狭いところで暴れたら同士討ちになりかねない。操舵室まで乗り込まれたら俺たちで対処するから、他の人はその場で座っていてくれ」
手島と重村が剣を召喚する。
武藤はナックルダスターを召喚し、両手の拳にはめた。
「真、重村、頼んだぞ」
「「おう!」」
操舵室の扉を2人に見張らせ、手島は船を進ませた。
だが、船は少し進んだところで動かなくなる。
全員のスマホから音が鳴り、ログが表示された。
この先へ進むなら〈ガラパゴ〉を削除する必要があるとのこと。
「まだ削除しないでくれ。徘徊者との戦いが終わっていないから」
手島は扉の様子を眺めた。
扉の外からは徘徊者の咆哮が響いている。
しかし、扉の前までは到着していない。
戦闘開始から30分が経過してもなお、姿が見えていない状況だ。
自走式ロボットアームが懸命に防衛している。
だが、その防衛ラインは1時間が経過する前に崩壊した。
「「「ヴォオオオオオオオオ!」」」
大量の徘徊者が扉に張り付いた。
扉の分厚いアクリルガラスの向こうが徘徊者で埋め尽くされている。
操舵室の頑丈な扉は激しくガタガタ揺れていた。
多くの生徒が顔面を青ざめている。
「凄まじい数だな……」
手島はスマホを確認しながら呟く。
監視カメラ用のアプリで船内の様子を見ていた。
操舵室の外は徘徊者でいっぱいだ。
どこのカメラを見ても徘徊者で溢れていた。
「祐治、そろそろ扉が壊れるぞ」
武藤が言う。
手島はその言葉を無視してこう言った。
「作戦変更だ」
「この土壇場で作戦を変えるだって!?」
驚く重村。
「外の徘徊者が想像以上に多い。いかに扉が人間一人分の幅しかないとはいえ、あれだけの数が押し寄せてきたら捌ききれない。だから藤堂の戦い方を参考に“待ち”の戦術を使わせてもらう」
「どういうこと?」と里桜。
手島は説明する前に大量の槍を召喚した。
全身が鋼鉄で作られた折れようのない頑丈な槍だ。
その分、重いので振り回すのは難しい。
「全員、槍を持て! そして穂先を扉に向けるんだ!」
皆が手島の言葉に従う。
槍を両手で持ち、穂先を扉に向ける。
その時、扉が強引に破られた。
「「「ヴォオオオオオオオ!」」」
大量の徘徊者が操舵室に流れ込む。
だが、しかし――。
「「「グォオオオオオ……!」」」
部屋に入った徘徊者から順に死んでいく。
飛び込んだ先に25人からなる槍の棘が待ち構えているのだ。
そこに突き刺さり、絶命し、この世からスッと消える。
「待っているだけで徘徊者がドンドン死んでいく!」
「すげぇ! すげぇよ、手島さん!」
その後も同じ展開が続いた。
数万の徘徊者が操舵室に流れ込んでは勝手に死んでいく。
最初は怯えていた生徒達だが、終盤には余裕を取り戻していた。
そうして午前4時になり、徘徊者の時間が終わる。
「ふぅ」
手島は大きく息を吐いた。
だが、まだ終わりではない。
「いよいよ〈ガラパゴ〉とお別れをする時間だ」
先陣を切って手島が〈ガラパゴ〉を削除する。
それに他のメンバーが続いた。
全員が削除を終えると、巨大客船が息を吹き返した。
ピピピピピピピーッ!
アプリを消した数分後、唐突に手島のスマホが鳴る。
手島は「来たな」と呟き、スマホを確認した。
武藤以外は状況が分からずに首を傾げている。
「ああ、俺だ。手島祐治本人だ」
手島がスマホを耳に当てて話す。
先程の音は電話の合図だった。
しかし、ただの電話ではない。
「よろしく頼む」
手短に話し終えて、手島が電話を切る。
それから頭上に疑問符を浮かべる皆に向かって言った。
「俺のスマホは特別製でな、地球上ならどこにいても場所を特定できるんだ。あの島にいた時はどういうわけか使えなかったが、〈ガラパゴ〉を削除したことでその機能が復活したらしい。今、俺のスマホの位置を特定したと連絡があった。1時間ほどで救助のヘリが到着するぞ」
こうして、手島たち25人は島を脱出することに成功した。
藤堂大地以来となる脱出者である。
――後に手島祐治は、この時のことを自伝にこう記した。
『あの島における俺の環境は誰よりも恵まれていた。初日に仲間と合流し、更には重村という仲間を得て、その後の展開もこれといった問題に見舞われることなく進んだ。
それなのにもかかわらず、島から出るのに藤堂大地の倍の時間を費やした。しかも、先駆者である藤堂から得られた情報を有効活用してもこれだ。もしもあの島に藤堂がいなければ、俺たちは今も島で暮らし続けていたかもしれない。
俺を含む全ての生還者にとって、藤堂大地の存在は計り知れないほどに大きい』
ウェブ版限定の番外編、これにて終了となります。
お読みいただきありがとうございました。
また、評価やブックマーク等の応援にも感謝しております。
たくさんのお気に入りユーザ登録も嬉しい限りです。
最後に書籍版の話を……!
本編を丸ごと収録した第1巻が明日発売となります。
第1巻で完結するので、打ち切りになることはありません!
ウェブ版のストーリーをそのままに、全体的に見直してがっつり改稿しました。
大地たちの脱出後を描いた書き下ろしエピソード「後日談」も収録されています。
最高の一冊に仕上がっているので、是非是非、よろしくお願いいたします!
特典SSは以下の4種類あります。
・ローアングル:とらのあな
・川遊び:WnderGOO
・もしも、あの時:協力書店
(メロンブックス、ゲーマーズ、書泉ブックタワー&書泉グランデ、セブンネット)
・イタズラ:電子書籍共通
また、数は少ないですが、絢乃史上初となるサイン本も用意しました。
そちらの配布先についてはpash!ブックスの公式サイトを参考にしてください!
それでは、ご愛読いただきありがとうございました。
絢乃













