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13/13

13 魔族と同居。




 魔王。

 隣の魔族の王国、ラグズウルズの王。

 私でも名前を聞いたことがある。魔王の名はラーグイス。


「えっ? 魔王ラーグイス様な、んですか?」

「そうだ。こんな姿だがな」


 スープを啜ったあと、少女は自嘲的に笑ってみせる。


「我に呪いをかけた、即ち反逆の罪。それで死刑が下ったのだ。しかし、呪いを解いたあとに、首を刎ねるべきだったな。書物さえ見付ければ解けると思ったが、書物ごと家が燃やされていた。悔やんでも、後の祭りだ」


 かなり淡白に話す少女に、ぽかんとしつつも、質問をしてみた。


「その書物にしか書かれていない呪いなんですか?」

「魔法の中でも呪いの類いは稀だ。今も探させてはいるが、絶望的だな」

「えっと……いつから、ていうか、いつ呪いにかかったのですか?」

「二年前だ」

「……ちょうど、ここに来た時くらいですか?」


 食事を続けていた少女こと魔王様が顔を上げる。片方の眉が上がっていた。


「何故知っている?」

「あーいや、一方的に知ってたんですよ。オレのデビュー、冒険者デビューの時にブロンズランクのレベル3って判定が出たのに、騒がれなかったのは、あなたがギルドを訪れていたから。それで覚えていたんですよ。ほら、魔族ってここでは珍しいですし、目立ってましたよ」

「……そうか」


 怪訝な顔付きをやめて、食事を再開する。

 全然驚かれないのは、少々つまらないと感じた。


「レベル3でデビューとはすごいな」


 あ! 感心してくれた!


「くっ!」

「?」


 口を押さえたからどうしたのかと思えば、少女の姿の魔王様が肩を震わせながら笑い出した。


「くくくっ! お前、顔に出やすいな。考えていることが手に取るようにわかるぞ」


 顔に出ていたのか。恥ずかしい。

 それでわざわざ感心したような言葉を言ってくれたのか。

 今度は照れて頬を赤らめた。


「可愛いやつだな」


 口角を上げて不敵に笑う美少女。

 ドキッとしてしまった。

 いや、これは、誰でもドキッとしてしまうものではないだろうか。例え同性が好きなのか、異性が好きなのか、わからない私のような人でもときめいてしまう。イケメンな美少女の不敵笑み!


「あ、そうだ。紹介がまだでしたね。ローズとリーデはもう済んでるのかな? 一応紹介……ノークスです。オレと契約してくれている精霊のローズ、リーデ、ルーヴァです」

「以後お見知り置きを、魔王様」


 ローズとリーデはもう自己紹介したらしく、ルーヴァだけが礼儀正しく一礼をした。


「魔王様と呼ばないでもらおうか。ここではラドイスと名乗っている」

「よく偽名で冒険者のタグを手に入れましたね」

「昔は偽名でも登録出来たのだ。緩い時代だった」

「そうですか……」


 そう言えば、魔王様って何年前から魔王様なんだろうか。

 私が名前を聞いたのも、幼い頃だった。

 魔族は人間とは寿命も成長も違うと聞いたから、結構長生きなのだろう。


「じゃあ、ラドイスさんと呼びますね」

「いや、この姿で冒険者名を呼ばれては困る」

「それもそうですね……ん? なんでまた、魔王さ……いえ、あなたがここで冒険者をやっているんですか?」


 呪いの姿の時に、ラドイスさんと呼んでもいけない。

 厄介だなと思っていれば、そもそもどうして、ここにいて冒険者をやっているのかを疑問に行き着いて問う。


「ここまで話したから明かしてやる。暗殺されないためだ」

「暗殺!?」

「そうだ。元の姿なら、並みの相手など蹴散らすことも容易い。しかしこの姿はせいぜい……そうだ、お前と同等の魔力しかない。つまりシルバーランクのレベル2ぐらいしかないのだ」


 少女の姿の魔王様は、腕を組んでふんぞり返った。

 ローズは頭の上に、リーデは膝の上に乗せたまま。

 はっきり言って可愛いことこの上ない。


「へ、へぇ……それは身の危険も感じますね」


 シルバーランクのレベル2の魔力量なんて十分だと思うけれど、魔王の座を守るには足りないのだろう。元はゴールドランクのレベル1。


「……あれ? あなたは本当に……ゴールドランクのレベル1ですか?」


 魔王様が、タイリースさん達と同じレベルとは思えなかった。

 今までは一晩かけてゴールドランクの魔獣を狩っていると思っていたけれど、話によれば昼のうちに狩っていたことになる。それで翌朝に換金しているという流れだろう。

 少なくても、レベル2じゃないのか。

 英雄レベルと言われる、それじゃないの?


「レベル1だぞ」


 首にぶら下げたタグを、私に向かって放ったものだからキャッチをした。

 確かにレベル1と書かれていた。しかし、年季が入っているような傷が目立つ。


「……ちなみに、いつレベル更新しました?」


 最後に鑑定をしたのは、いつなのか。タイリースさん達も、年に一回は鑑定してもらうと聞いている。

 それを問うと、食事を再開した少女は、またニヤリと不敵に笑った。


「さぁな。昔すぎて覚えておらん」

「……っ!!」


 この人、絶対ゴールドランクのレベル1じゃない!

 そう確信をした。


「たまに城に帰ってはいる、昼にな。だいたい、我の魔王としての仕事など大してないのだ。絶対君主の顔として、不敗の存在として、降臨していればいい。我が国の王はそういうものだ」

「ああ、強者がなるんでしたね。ただし先代魔王を殺めた者はなれないって掟」

「そうだ。魔王になりたければ、決闘で正々堂々と勝ち取る。まぁ、そんな野心を持つ魔族、今時おらんがな」


 強者こそ魔王の座につく資格を手に入れられる。

 暗殺や殺害は、認めないという掟。

 先代魔王を殺めた者を、魔王とは認めてはいけない。そういう意思で国民が決めた掟なのだという。


「そんな国なのに、暗殺を狙う者がいると?」

「念のためだ。何せ、魔王と認められない者が出るだろう。こんな……姿……」


 憎たらしそうに自分の身体を見下ろす少女。

 美少女なのに、気に食わないなんて、なんて贅沢!


「だが、我の従者や家臣が、必死に隠してくれている。まだ我に魔王で居てほしいのだと。だから、大抵のことは任せて、我はこの安全な場所にいるわけだ」

「……なるほど、理解しました」


 誰も魔王が冒険者をやっているなんて思わないだろう。

 ここは魔王国とは反対に位置していて、魔王様の顔を知るような魔族も人間もいない。最適な隠れ場所と言えるだろう。


「ごちそうになった」

「いえいえ、些細なお礼です」


 私も彼女……ではなく、魔王様もスープを食べ終えた。


「この家にはお前と精霊達しかいないのか」

「はい、両親は他界して、オレと精霊達だけです」

「そうか。我が居候しても問題はないか?」


 パチクリ。目を瞬かせた。

 居候したいという申し出だろうか。


「宿を転々としていたが、そろそろ朝は男、夜は少女の姿で出入りしていると詮索される。二人分の宿泊費くらい払えるが、せっかく互いに秘密を明かしたのだから、もっと親しくなろうではないか。生活費はちゃんと払う。だから部屋を貸してくれないか?」

「……そうですね。別に生活費を出さなくてもいいですよ。恩人なのですからね」

「いや、それでは恩着せがましい。生活費は受け取ってくれ」


 別に恩着せがましくても構わないのだけれども。

 部屋も空いていることだし、タダでもよかったけれど、気兼ねせずに泊まれるならその方がいいのだろう。


「わかりました。じゃあ一日、銀貨三枚でどうですか?」

「安いな……」

「部屋の掃除は自分でする点は宿とは違いますから、結構妥当な値段だと思いますけど」

「そうか。ではそれにしよう」


 本当は宿代の相場なんて知らないけど、魔王様が承諾するならこれでいいのだろう。


「……つかぬことをお聞きしますが」

「なんだ?」

「その姿用の服は持っていないのですか?」


 美少女の愛らしい顔の眉間にシワが寄った。


「持っているわけがないだろう」

「んー。夜は出掛けないとしても、持っていて損はないかと。美少女がそんなダボダボな服を着ていては、目にした男性が余計なことを考えてしまいますから。あ。なんなら母の服を貸しますよ」


 食器を片付けたあと、私は両親の寝室のクローゼットから母のドレスを引っ張り出す。


「少し大きいですが、男性ものよりはマシでしょう。他のも好きに使って構いませんよ」


 とりあえず、ネグリジェを渡した。


「ふむ。服まで貸してくれてすまないな。やはり銀貨三枚では足りない」

「あ、そうなりますか? もう使わないし、かといって母のものなので売るのも躊躇していたんです。使ってもらえるだけで嬉しいですから、お金はいりません」


 そう笑ってみせれば、しばらくの間、見つめられる。

 それから、美少女が微笑んだ。


「お前が気に入った。ノークス」


 またもやドキッとしてしまった。


「では世話になるぞ」

「あ、はい。そうだ、名前決めません? その姿だけ呼ぶ時困りますし……」

「そうだな。ではノークスが決めていい」

「本当ですか!?」


 やったとガッツポーズをする。


「レードでどうですか?」


 ラーグイス、リーデ、ルーヴァ、レード、ローズ。

 ラ行をコンプリートである。

 いやまぁ、魔王様の名前は私が考えたわけではないけれども。揃った感があっていい。


「構わん」

「じゃあ、レードさん。これからよろしくお願いしますね」

「ああ、よろしく頼む」


 こうして、魔王様と同居生活が始まった。



 

20190909

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