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異世界で新たな人生を  作者: ミト
幼少期
8/45

魔術は意外と何デモアリ

 しかしアドバイスをもらったとしてもどうしようか。この魔力の塊を別のものに変えられないと、私の願いは叶うどころか光明も見えない。

「……」

「何、クレス」

「…………」

 =どうして、魔術?

「どうしてって……なんで魔術の練習してるかってこと? えっと……勘?」

「…………」

 =?でかえすな

「ごめん。……やりたいこと、あるから」

「……」

 =やりたいことって、なに

「長生き」

「…………?」

 クレスが珍しく表情を変えた。怪訝そうに少し眉を寄せただけだけど。

「…………」

 =どうして、魔術?

 再度、同じことを聞かれた。長生き発言については、何も言わない。気にしないことにするらしい。

「なんとなく。これなら、できそうかなって」

 今度は、表情は変えられなかった。そのかわり、別の本を差し出してきた。

「? なにこれ」

 どうやら彼自身が持ってきた本らしく、表紙には『魔法を極めろ! ――魔法をマスターするための知識、応用編――』と書かれていた。

 題名に文句を言っても仕方がないのでそこはスルーして、またクレスの指差すページを読む。

 魔法印を創り出す術式は、起こしたい事象について正確に記さなきゃならない。色はともかく、属性、形状、性質、対象、魔力その他諸々……。それらを組み合わせて、一定の法則に従って描く。もちろん、創った人によって、同じ効果の魔法でも術式は異なる。ただし、効率的な組み方をした魔法印の方が必要魔力も少なく且つ効果も上がるので、次第に多く使われる魔法印も決まってくる。

 今現在古くから伝わっている魔法印は、全て過去の賢者が編み出したものであり、現代でなお、それに勝るものが創られていないことの証となっている。

クレスが示したページを要約するとこんなところだ。

 ……いくつか気になる単語がちらほらと。

 中でも気になったのが属性だ。成程、前の世界でもゲームで魔法に炎とか水とかのなんとか属性というのがあった。こちらの魔法でもそれは当てはまるらしい。

 …………はて、そういえば魔法と魔術はやり方は違っても起こる現象にさほど違いはないはず。

 もしかしてこれは魔術にも当てはまるんじゃないだろうか。

「クレス。ありがとう。役に立った」

 クレスは相変わらず無表情に頷いただけだったけど、喜んでいるのはわかった。

 少し言うのには抵抗があるけど、仕方ない。別に口に出さなくても設定は出来そうだけど、始めたばかりの今はまだ、言葉にして整理しないとうまくできない。

「【属性は火 形状は球 発動】」

 唱えれば、陣に変化があった。『無』と書かれていた部分が『火』へ変わり、『特記無し』と書かれていた一部分が『燃焼』へと変わった。

 ポッ、空中に火の玉が浮かび上がる。

「おー」

 成功。ようやく成功。一歩前進。

 続いて火以外にも水や電気、光なんかでも形状を変えたりして試してみる。

 これらもうまくいった。

 代わりに体が少し重くなった。魔力が少なくなってきているのだろうか。

 一部勝手に変わった部分については、結果から考え見るに、どうやら性質のようなものらしい。『火』だったら『燃焼』、電気だったら『帯電』という感じ。これはデフォルトで、モノによっては勝手に付属されるようだけど、こっちの方で新たに付け加えることもできそうだ。

 いろいろ試してみて分かったことがあるんだけど、どうやらこの魔術、思ったよりもとんでもないもののようだ。

 魔術を使うには陣の展開式に起こしたい現象の設定を書き込むが、その内容は思ったよりも大雑把だ。最低限必要なことだけ述べて、後の細かい制御は本人のイメージによるところが大きい。簡単なところで言えば火や水の熱さや温度を変えたり光の発光具合を変えたり。

 魔術に知識や想像力が重要という理由もわかった。これは、それらが豊かなほど、魔術の精度や威力が上がる。それこそ、前世の世界で信じられてきた『魔法』のような現象を引き起こせるぐらい。


 思ったことをそのまま現実に起こせる、夢のような出来事。


 突き詰めれば、それすらも可能になる。

 …………ただその割には、魔術に関する資料が少ない。これだけ、研究のしがいがある分野なのに、魔法と比べて具体的なことが書かれている物が圧倒的にない。

 そりゃあ、これについては人それぞれで、教えるのが難しいのはわかるけど、魔法みたいに補助的なことは教えられるよね。

「ん――…………」

「…………?」

 =どうした?

「んー、ちょっと…………って」

 クレスの手元を見ると、クレスの手のひらの上でふよふよと浮いている水の球が。

「…………」

「…………?」

 =どうか、した?

「…………ううん。何でもない」

 何でもない。何でもないけど……うん、あれだけてこずった私は才能がないのだろうか。

「……凄いね、クレスは」

「……」

 =すごいのは、メルティア

「?」

「……………………」

 =これは、何となく。ほかはできない。だから、できるメルティアは、すごい。

「……ん。どうも」

 少し照れくさい。しかもクレスは慰めでなく本心で言ってるようなので尚更。

 …………今日はここまでにしとこうか。とりあえず、魔術の確認もできたし。あと微妙に体も重くなってるし。

「そろそろ、戻ろう、クレス」

「…………(コクン)」

「本も、返さなきゃ。これ貸出禁止なんだし」

 ばれたら大変。その言葉にクレスも頷いて、それぞれ一冊ずつ持って立ち上がった時だった。


 急に背筋に悪寒が走って、慌てて振り向くと――――、


「……ほーう? じゃあその貸出禁止の本を持ち出して、何をしてんだこの阿保餓鬼共!!!」


 ドゴッ


 ゴンッ


「たっ……っ!?」

「…………!?」

 二人同時に鈍器のようなもので頭を叩かれて、見上げた先には――、


「……妙な魔力感知してやって来てみれば……何やってんだお前ら」

「ジールせんせー…………」


 現れたのは、この孤児院で私たちの面倒を見てくれている大人の一人、ジール先生だった。

 …………分厚い本の角ではたかれた頭が、かなり痛い。

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