メルティア 5才の朝
朝。雲間から覗く陽が眩しい、快晴と呼べる天気。
先々月に5才の朝を迎えた私は現在、茂みに隠れながら、魔法印を地面に刻んでいる真っ最中だ。
見つからないように隠れながらやってるので少し手間が……っと、よし描けた。
じゃ、見つかる前に次の場所へ……と。
と言っても今この辺り一帯には濃い霧が漂ってるんだけど。
ただの自然現象では無く、魔術によるものだ。
魔力の籠った霧は、視界を塞ぐと同時に、魔力感知による探知も妨害している。
これで相手は私たちの位置は把握できない……はず。そうであると思いたい。
しかしまあ当然その影響は私たちにも及ぶわけで、数歩歩いた先は全く見えない。よって、視力以外のものに頼ることにする。
「【属性は強化 形状は無 対象は自身 性質は聴覚 嗅覚 発動】」
形状を『無』に変えると、性質に自動的に『付与』の設定が加わる。特定の形が無いと、魔術は元からあるものに効果を付随するものになるらしい。
先月ようやく成功した強化魔術。これは感覚強化。
身体強化は魔力の鍛錬も兼ねて、一日中掛けてる。一旦発動すれば後はその効果を発揮するだけの普通の魔術と違って、強化魔術は常時発動型に入るものだった。いやあ、魔力の消費が半端ない。最初一時間(なんか時間の単位は前の世界と変わらなかった)ぶっ通しで発動してたら魔力切れで昏倒した。
今は一日いっぱい、魔力は持つようになってる。代わりに次の日使えなくなるけど。ただ使えば使うほど、体内魔力量は増えていくので、続けて行けば、もっと持続時間は伸びていく。早くそうなりたい。
おっと、話が逸れてしまった。
現在は魔法と魔術を併用しての訓練。相手はジール先生。こちらは私とクレス、それに二つ上の鳥人族、リクウの三対一でやってる。数では有利だけど、今のところジール先生には惨敗続き。
魔術で音の弾を作りだす。単純な設定の魔術だったらいちいち声に出さなくてもできるようになるぐらいには、慣れた。作り出したのは、特にこれといった威力は無くて、ただ大きな音がするだけのものだ。
それを二つ空に放つ。
辺り一帯に軽い破裂音が二つ鳴り響く。これは魔法印が描き終ったことを知らせる合図だ。
と同時に、ピシリと、足元からの不吉な音を強化した耳が拾った。
危ない危ない。急いでその場を離れる。
数秒後に、足元の地面が盛り上がってきた。
音から発信源を特定したのか、寸分違わず私が立っていた地面から飛び出てきたのは、植物の蔦だった。
こちらを拘束するための魔術は、対象を見失ってもその場に残って蠢いている。
ていうか速いよ対応が! こっちの居場所は見つかってないはずなんだけどな。
「【属性は風 形状は無 対象は自身 性質は浮遊 発動】」
発動したのは、ある意味魔法ではお馴染みの飛行魔法(魔術)。
一気に上昇して、霧から抜け出す。あとは、タイミングを待つだけだ。
霧の中からは、偶に爆発音や破裂音、それに衝撃波でもあったのか、大音量を伴った振動が響いてくる。
う~~。正直なとこ、混ざりたい。しかし今回の私の役割は、この小競り合いに参加することではない。
今回の作戦では、まずリクウ――私よりももう少し上空で翼を広げて佇む彼が、魔術の霧を維持する。
目的は、こちらの作戦と行動を悟らせないため。ジール先生なら霧を吹き飛ばすなんて朝飯前だから維持するのも一苦労。
で、作戦での私の役目は、所定の位置に作戦用の魔法印を描いていくこと。
クレスはそれが終わるまでジール先生を霧の中から脱出させないための足止め。この視界の悪い霧の中で、だ。
どう考えてもクレスの負担が一番高いが仕方ない。適材適所だ。
クレスは見た目優男なくせして、この中で一番力が強い。最近では魔力切れでぶっ倒れた私を抱えても、引き摺らないで運べるようになった。てか他の人は手伝おうとしないのかオイ。仮にも五歳児だぞ。
話を戻そう。
さっき打ち上げた音弾で、必要な魔法印を全て地面に刻み終えたことはわかったはず。
あとは二人がどこにいるかわかれば対処できるんだけど…………。
一際大きな音がしたあと、誰かの影が霧の中に浮かび上がり、そのまま霧の壁を破って上空に飛び出てきた。
………クレスだ。
クレスは飛び出した体勢のまま、こちらに目配せ一つ。それで伝わった。
ようやく仕掛けの出番。
発動するのは、複数の魔法印を使用して一つの魔法を形成する、『連立魔法』。
一々必要な分を描かなきゃならないのが難だけど、その分一つの魔法印で発動するよりも、威力、規模、強度は段違い。その分、魔力も消費するけどね。
今回のは割と簡単というか単純な部類に入るものだから、魔力の消費もまあ、…………うん、倒れない程度で済む。
全ての魔法印に、魔力を注ぐ。作り出すのは、土の壁。霧の外から、中のものすべてを閉じ込めるために円の形で囲んだ魔法印から、地面がせり上がってくる。
「…………閉じ込め、≪地の檻≫」
ドームのような半球体の地形が、完成する。
まだまだ。
「【属性は土 形状は壁 性質は補強 発動】」
土壁一つ一つの間にあるわずかな隙間を覆うように、魔術による土が覆っていく。
魔法のような大規模のものではなく、結果的な面積も少ないので、まだ魔力の残量にも余裕がある。
よし、これでジール先生を閉じ込められた、はず。
「…………クレス、リクウ」
呼びかければ、こっちが壁を形成してる間に二人揃って大量の水をかき集めてたクレスとリクウが、ドームの天辺、わずかに人一人分の大きさであけておいた穴に、勢いよく注ぎ込む。
今日の作戦はこうだ。まずはジール先生を霧の中に閉じ込めて周りの状態を把握できないようにする。で、私はその間にジール先生を閉じ込めるための魔法印を作っていく。クレスはその間こっちの作戦を悟られないように足止めする。
あとはジール先生が霧を脱出する前に魔法で先生を霧ごと閉じ込める。そこまでいけばあとは単純、――水攻めだ。
勢いよく水を注いでいるので、あと十数秒もすれば、ドーム内の水は満杯になるだろう。けれど、多分これだけじゃ足りない、以前に、似たような手で閉じ込めたとき、そのときは水じゃなくて炎を入れて、竈状態にしたんだけど……。いや、…………うん、やったはいいけど中の高熱の炎のせいで赤く鈍く光ってたあれを見て、やり過ぎたかと思って慌てて鎮火して崩したんだけどね。当の本人は肌に火傷一つ負わずに、服に煤をこびりつけてただけでケロッとしてたもんだから、この人は殺す勢いでやらないとだめだってことは理解した。
「……下がって」
水でいっぱいになったドームの天辺穴のあたりに近づく。念の為二人には下がっておいてもらう。
覗けば水位は穴の縁まで上がっていて、ところどころ土が混じって濁っている。
水を凍らせてもいいんだけど、それでは時間がかかる。だから使うのは別の手だ。
右手から、バチバチと青白い火花が散る。それを水面に近づける。
さて、前世での知識ではあるけど、濡れている状態では、たとえ10Vの電圧や、10㎃の電流でも、結構なダメージを得る。
それを踏まえた上で、では問題。
この状態で高圧電流を流した場合、普通はどうなるでしょう?
「【雷よ】」
バチバチバチバチバチ!
答え:感電死♪(よいこは絶対に真似してはいけません)




