完結編エピローグ -ちゃんと生きてるー
「……これを」
天音が蓮へ差し出したのは
古い腕時計だった。
「これ…蒼真の…」
覚えている。
蒼真がお気に入りだ。と毎日大切につけていた腕時計だ。
「蓮に持っていて欲しい」
天音は蓮をまっすぐ見つめていた。
「蒼真の時間は20歳で止まったが、この時計は動き続けている。本来、神代家当主、連盟総統となる予定だった蒼真に蓮とこれからも歩ませてやってくれ」
長い年月が流れていた。
天音総統の引退の話が出始め、後継者はどうすると幹部が揉めている。と奏から聞いていた。
だが、幹部達を黙らせ、誠が一ノ瀬蓮しか居ない。と俺の名を出した。
もちろん、一度は辞退した。連盟も離席しているし、一ノ瀬家の当主としての立場もある。
だが…天音さんと橘さんに頭を下げられた。
お前しか居ない。
断る事は出来なかった。
そして今、正式に総統任命の書類を受け取ると共に、天音さんから渡された蒼真の腕時計。
本部配属すぐから、亡くなるその時まで身につけていた。
「……腐れ縁ですね」
蓮は腕時計をつけると呟き、微笑んだ。
蓮は一ノ瀬家の仕事はセーブしつつ、連盟総統として忙しい日々を送った。
「蓮さん、次の会議の…」
資料を手渡す誠。
誠が隣に居てくれるお陰もあるのか蓮は仕事が早い。
「誠、ありがとう」
年を重ねても2人の呼び名は変わらなかった。
「一ノ瀬蓮総統ー、また訓練生が暴れて、壁に穴開けたー」
「フルネーム辞めろ」
奏だ。
相変わらず総統室にノックなしでズカズカ入ってくる。
大人になってもこいつは変わらない。
「躾しろ」
「無理です。奴ら既にゴリラに進化しました」
今年の訓練生は勢いがある。
蓮と蒼真がいた時代より修繕費が多い。
教官として若手育成に力を入れている奏でさえ、頭を悩ましている。
明日は大きな護衛任務があると言うのに、この有り様だ。
毎日が目まぐるしく過ぎていく。
だが忙しさ以上の充実感が蓮を取り巻いていた。
ーカチャ。
夕日が眩しく、蓮は目を細めた。
訓練生たちの過ごす寮の屋上。
猿山屋上に1人分の影が伸びた。
その先は、まだ見えなかった。
蓮はタバコに火をつけ、空を見上げた。
色々あった。
失ったものもある。
それでもーー
今、ここにあるものまで失う気はない。
蒼真
天馬
紫苑
俺は、ちゃんと生きてる。




