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14 凡人を勇者に変えられる力

「……かしこまりました」


 ティアナはポーションを手に取り、アレンの無事を祈ろうとした。けれど彼を思い浮かべると胃の底がムカムカしてきて祈ることができない。『第三夫人になれ』と告げられた時の、こちらをバカにしたような顔。どこかで思いっきり小指をぶつければいいのに、などつい逆のことさえ願ってしまう。ティアナは顔を上げた。


「あの、サイラス様」


「どうかしたか?」


「色々ありまして、以前と同じ人物の無事を願えません。相手を変えてもいいでしょうか?」


「それはもちろん、構わないが」


「ありがとうございます」


 サイラスの了承を得たティアナは、再びポーションに集中した。今度はアレンではなく、頭に両親のことを思い描く。


(お父様とお母さまが、ずっと健康で幸せに暮らせますように)


 するとポーションがわずかに熱を持ち、一瞬だけ淡い光を放った。その光に二人は目を奪われる。


「これは……」


「どうやら成功したようだな。すまないが、少し見せてもらっても?」


「もちろんです」


 ティアナがポーションを差し出すと、受け取ったサイラスは真剣な様子で瓶を観察し始めた。


 そんな彼をティアナもひっそりと盗み見る。


(綺麗な紫水晶アメジストの瞳。あ、でも光の加減で少し水色に見える部分もあるのね。グラデーションになっていてとても神秘的だわ)


 すると突然、サイラスの視線が瓶からティアナへとずれた。彼と目が合った彼女は思わずドキリと胸が跳ねてしまう。そんなティアナの心境も知らず、サイラスは冷静な口調でこう言った。


「鑑定魔法でポーションを観察してみたのだが、素晴らしい結果が確認できた。一言でいうと、ポーションの効能が飛躍的に上昇している。回復効果が10倍、防御力上昇、幸運力上昇効果も付与されているようだ。このポーションを飲めば、たとえ全速力の馬車に轢かれても傷一つ付かないだろうな」


「ほ、本当ですか!? ちょっと願っただけなのに、そんなに凄い効果が……!?」


「本当だ。君のポーションには、凡人を勇者に変えられるような力がある」


 その言葉と見透かすような視線にティアナはドキリとした。


(アレンは魔物を討伐に出る時いつも、私が作ったポーションを欠かさず飲んでいた。もちろん魔王を倒した時も。まさかだとは思うけれど、アレンの力は……)


 そこまで考え、ティアナは首を振った。たとえ今考えたことが事実であっても、彼女にはもう関係のないことだ。するとサイラスが言葉を続けた。


「ティアナ、君の才能は素晴らしい。だが素晴らしすぎるがゆえ、同時に大きな危険もはらんでいる。極端な話、この力がもし悪しき者の手に渡り、軍隊を築いて襲ってくれば、瞬く間にこの国は滅びてしまうだろう。ゆえに君は効力を調整する術を学び、悪党から身を守るための力をつけなければならない」


「……! 確かに、仰る通りです」


 行き過ぎた力は危険を伴う。


 今、ティアナは魔法についてはまったくの初心者だ。もし力が知られて悪者に攫われ、付与の力を強要されれば、彼女は望まずして取り返しのつかない災厄を招いてしまう恐れだってある。


(そうなる前に、サイラス様に出会えて本当に良かった。これからは魔術を学んで、自分の身は自分で守れるようになろう!)


 ティアナが真剣な表情でそう決意していると、サイラスが口を開いた。


「大丈夫だティアナ、君のことは俺が命に代えても必ず守る」


「えっ……い、命だなんて。恐れ多いです」


(俯いていたから、私が不安がっていると思ったのかしら?)


 不安がっている仮の弟子を元気づけるには、いささか大げさな言葉である。ティアナはやや戸惑いつつも、彼の気遣いが嬉しくて顔を綻ばせた。


「サイラスはお優しいですね。ありがとうございます、とても心強いです」


「……っ」


 ティアナが柔らかく微笑むと、サイラスは息を呑んだ。そして目元がじわじわと赤みを帯びていく。どうしたのかと彼女が首を傾げると、サイラスは突然ソファから立ち上がった。


「き、君にひとつ贈り物がある」


「ええと、贈り物なら先日たくさんいただきました! そんなにたくさんいただくわけにはいきません」


「この贈り物は、君の身を守るためにとても重要なものだ」


 するとサイラスは向かいの席からティアナの傍へ移動し、跪いた。デジャヴな状況に彼女は慌て、サイラスを立たせようと焦った声を上げる。


「サイラス様! 貴方ほどのお方が、やすやすと私なんかに跪くのはお止めくださいませ!」


「なんか? 君は俺の弟子なのだから、大切にしたいんだ」


「ですが弟子に跪く師匠がどこに居ますか!?」


「ここに居るが」


 サイラスが不思議そうに首を傾げると、美しい銀髪が肩にさらりと流れた。翠玉の耳飾りがチャリ、と音を立てて光を反射する。まるで絵画の王子様を目の前にしているようで、ティアナは顔を真っ赤に染め上げてしまう。


(だから、こんなに優しくしたら勘違いされてもおかしくないですってーー!!!!)


 彼女が慌てふためいているうちに、サイラスは懐から小さな小箱を取り出し蓋を開けた。


「さぁ、これを受け取って」



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