表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

12 筆頭魔術師様の弟子(仮)になりました

「提案、でございますか」


「さよう。――そなたさえ良ければなのだが、『お試し』で、このサイラスの弟子になってはくれないだろうか?」


「お、お試し」


 目を丸くするティアナに、国王が身を乗り出し言葉を続ける。


「もしサイラスがそなたの師匠に相応しくないと判断すれば、断ってくれてもかまわない。そうだな……期限を決めよう。一か月はどうだろうか?」


 期間限定の、仮の弟子。


(逃げ道を潰すのがうまいお方ね)


 一か月であれば『まぁ、そのくらいなら』と引き受けやすくなる。だがもし断るのでならば、それなりの相当な理由が必要になるだろう。国王はにこにこ笑っているが、その笑顔はどこか有無を言わせないような圧があった。


「そなたが戸惑うのも当然。だが、魔力測定所で魔水晶が示した特殊適正、『付与魔法SS』というそなたの適正は、大変貴重な才能であると余は考えている。その才能を伸ばすには、ふさわしい師匠が必要だ」


「!」


 ティアナは息を呑む。魔力測定をした時、魔水晶に映り込んだ文字を彼も見ていたのだろう。


「学院の教師たちももちろん優秀ではあるが、魔術においてこのサイラスの右に出る者は居ない。あぁ、なにも学院を退学してまで、と言っているわけではないぞ? サイラスの研究室はこの学院内にある。つまり放課後などの時間に、サイラスから特別レッスンを受けるのはどうだろうかという提案だ」


(正直……悪くはない話よね。私も自分の特殊適正について、もっと詳しく知りたいし)


 だが腑に落ちない。以前サイラスは、ティアナを前にして吐くほど彼女を嫌がっていたはずなのに。


「サイラスは弟子をなかなか見つけられなくてな。このとおり特別な容姿をしているから、弟子候補から数々のストーカー行為を受けてきたのだ。それが祟り、今では重度の人間不信に陥ってしまっている。しかしそなたはサイラスをまったく恋愛対象として見ていないようだし、まさに理想的な弟子候補だと言えるのだ。さらに、この提案はサイラスたっての願いでもある。――受けて、くれぬだろうか?」


 ティアナを見つめる国王の瞳がうるうると潤みだす。


(う。そ、そんな雨の日に捨てられた子犬のような顔をされては……っ!)


 彼女がその瞳に押し負けて思わず『はい』と口を開きかけたその時、国王がダメ押しとばかりにポツリと言葉を零した。


「それに、『筆頭魔術師の弟子』というのは悪くはない肩書だと思うぞ?」


 国王の言葉を聞いた瞬間、ティアナはピシリと固まった。今、このお方は何と仰った?


「ひ、ひ、筆頭、魔術師、様……?」


 彼女の全身がぷるぷると細かく震え出す。


「おや、知らなかったのか?」


 国王が意外そうに目を瞬かせる。ティアナは恐る恐る、隣に座るサイラスへ顔を向けた。彼の美しい紫水晶の瞳と視線が合う。すると、サイラスはおもむろにソファから立ち上がり、彼女の方へと体を向き直した。ぽかんと口を開けその様子をティアナが眺めていると、彼は言った。


「ティアナ嬢。初めて(・・・)出会った時、証拠もないのに君をストーカー扱いしてしまい本当にすまなかった。……この通りだ」


 サイラスがティアナへ向かい低く頭を下げる。それを見て彼女は慌ててソファから立ち上がった。


「どうかお顔をお上げください閣下! 初めてお会いした時のことはもう気にしておりませんから! 私こそ、事情を知らず失礼なことを申し上げました。どうぞお許しください」


 頭を下げながらティアナは慄く。


(ひええ。恐れ多くも、全魔術師の憧れである筆頭魔術師様に『自意識過剰』なんて言っちゃったわよおぉ。あなたなんかに微塵の興味も抱いてませんから! とかも口走っていたような……!?)


 体中から血の気が引き、顔が青ざめていくのが分かった。彼女が額にだらだらと脂汗をかいていると、突然サイラスが流れるような動作でティアナの前へと跪いた。まるで騎士が女王に忠誠を誓うように。あるいはまるで、意中の女性にプロポーズするかのように――。


 だがティアナは女王ではないし、彼の恋人でもない。


(ええと、今から何が始まるんです?)


「感謝する、ティアナ・エーデルワイス子爵令嬢。――改めて、俺の口から君に願いたい。どうか俺の手を取って欲しい。さすれば君を守り、教え、導こう。このサイラス・ハーレンフォールの名のもとに」


 サイラスの長い睫毛がキラリと光を反射する。絶世の美丈夫に傅かれ、ティアナは思わず顔を真っ赤に染め上げた。


(筆頭魔術師様が一介の子爵令嬢に跪くなんて。それほどこの方は、私を弟子にしたいと思ってくださっているんだわ)

 

 サイラスが、片膝をついたままティアナに手を差し伸べ静かに答えを待っている。


 やがてその長く美しい指に、彼女はそっと自らの指を重ねた。サイラスが小さく息を呑む。


「私でよろしければ、お引き受けいたします」


「! ありがとう、ティアナ嬢」


 すると、サイラスは花が咲くように微笑んだ。


 ティアナは思わずその美しい笑みに目を奪われる。


 普段は氷を纏っているかのように冷たい印象を与える彼。ティアナだけではなく、向かいに座っている国王までもがポカンと口を開けていた。


「君にいつか本当の弟子となってもらえるよう、仮の師匠として力を尽くすつもりだ。よろしく頼む」


「は、はいっ。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 柔らかく顔を綻ばすサイラス。


(本当に、出会った時と別人すぎて戸惑ってしまうわ。本来はこんな風に優しい表情もされる方なのかしら。……こんなに綺麗な人に優しく微笑まれたら、勘違いしてしまう人が出てきてもおかしくはない、わよね……。もちろん、だからといってストーカー行為は駄目だけれど!)


 という考えは間違っても口にはできない。


(閣下は私の才能を見込んで優しくしてくださっているのだから、絶対に絶対に勘違いしないようにしよう!)

 

 とティアナは密かに決心する。


「いや~良かった良かった! これでティアナ嬢に断られたらどうしようかと思ったぞ! ハハハ!」


 国王が大口を開けて明るく笑う。


 こうして、ティアナは筆頭魔術師サイラス・ハーレンフォールの仮の弟子となったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ