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第47話 野球観戦

六月の上旬、すぐそこにまで梅雨が迫っているんだと思い、舌打ちと放屁が止まらない俺こと火村陽登かっこイケメンかっことじ。

ニート生活していた頃は家にこもって「曇り空、しとしと垂れる、俺のアレ」と小粋に一句詠んでいたが、今は違う。

雨の中を学校行くと思うだけでげんなりする。決めた、雨の日は休もう。

ちなみに今日は晴れだ。こんな日は部屋にこもるに限る。え、雨の日と同じだって? そこに気づくとはやはり天才かー、あははー。さぁお昼寝しよう。


「失礼しまーす。陽登君いますかー?」


「今しとしと垂れているんで後にしてもらえます?」


「入りますねー」


ドアが開いてメイドさんが入ってきた。ズカズカと遠慮のない入室の仕方。

あの、話聞いてた? しとしとっつーかシコシコしていると言ったんだぞ。実際はしてなかったけどさ。もし本当にシコシコしていたらあなた確実にトラウマものですよ。


「何すか。プライベート空間に入らないでくださいよ」


「陽登君、今から時間ありますよね?」


だから話聞いてる? なんで会話のベンチプレスをしたがるんだよこのメイドは……って、ふと気になる点がある。声にして尋ねてみよう。


「その格好は何ですか?」


メイドさんはメイドではなかった。いつものメイド服は着ておらず、何やら派手な服。

これは野球のユニフォーム……?


「実は知り合いから交流戦のチケットをもらったんですよ~」


嬉しそうに笑ってピョンピョン跳ねるメイドさん。首に下げたメガホンが揺れる。

瞬間、聡明な俺の脳は一手先を読んだ。


「俺は行きませんよ」


「勘の良いガキはお姉さん嫌いですー」


しかし脳が賢くても意味がないことはある。

瞬きした、その一瞬でメイドさんが俺のすぐ目の前に移動。声を上げる間もなく腕を掴まれた。脳が危険信号を送る。これはヤバイと。だが逃げ遅れてしまった。


「さ、行きましょうか」


「い、嫌だ。今日は部屋でゴロゴロするって決めたのに」


「こんな暗い物置小屋にいたら腐りますよ」


こんな暗い物置小屋しかくれなかったのはお前達だろ!

もう腐ってるから、良い具合に人間性はクズになってるから。もう手遅れだから、俺のことは放って置いて……


「さ、行きましょー」


「何気に力強っ、何この人ぐあぁ!?」


抵抗することも出来ず部屋から引きずり出された。






車の中、後部座席に座る俺とメイドさん。

あぁ、本当に行くんですね……。


「交流戦~、楽しみだな~♪」


隣で口ずさみながらニコニコ笑うメイドさん。ユニフォームまで着て、この人ガチのファンなんだよなぁ。

ユニフォームに帽子とメガホンはガチ感を漂わせ、ショートパンツとニーハイの組み合わせは見ている俺をニヤニヤさせる効果がある。だがしかし俺は冷静だ。ニーハイに釣られてなるものか。


「もうすぐ球場ですよ、陽登君も楽しみになってきたでしょ?」


「今ちょっと雨乞いしてるんで静かにしてもらえます?」


「晴れパワ~!」


メガホンを叩いて騒いできた。うるさっ、車内だと余計に響くからやめて! 鼓膜のヴァージン破けちゃう。


「やめてください。ほら運転手さんもビックリしてるでしょ」


「わ、私は」


「大丈夫ですよねぇ黒山さん……?」


「は、はい!」


なぜか怯えている運転手さん。運転席のシートがガタガタと震えているではないか。

え、えー。メイドさんってそんな権限強い立場なの? 俺は使用人だから直属の上司って感じだけど、もしかして運転手やコックより偉いのか……。


「つーかなんで俺を誘ったんすか。お嬢様でいいでしょ」


「お嬢様、休日は引きこもるのが趣味なので」


俺もなんですけど?


「それに何度か誘いましたが激しく嫌がって」


俺も激しく嫌がりましたけど!?


「陽登君は来てくれたのでとても嬉しいです。今日はいっぱい応援しましょうねっ」


……駄目だな、こうなってはもう会話続行不可能。ベンチプレスに勢いが増してきたよ。隣で俺が何を言ってもこの人は笑って無視するだろう。恐ろしい、メイドって恐ろしい。

抵抗する気が失せ、気づけば球場が見える位置まで来ていた。もう逃れられない、雨乞いは間に合わなかった。大人しく付き合うか……はぁ。


梅雨の前、しとしと垂れる、涙汁。


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