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第45話 また会えるから、今を楽しむ

親子三人の感動的な再会を眺めていたが、ふと母さんが動く。


「旦那様、出発の時間が迫っています」


おいババア、感動の再会をぶち壊すつもりか。空気読めババア。KYか。死語だ。俺はやたら死語を使いたがる傾向にあるようです。

しかし母さんの言い分は尤も。飛行機に乗り遅れるのはさすがにマズイ。数分とはいえ待ってくれた母さん。社長秘書やるじゃん。温情をかけつつタイムスケジュールを守る社会人の鑑だね。


「でも……」


旦那様は顔をしかめる。娘の手を握ったままその場から動こうとせず奥さんと娘の顔をチラチラと見ている。まだ行きたくないという思いが伝わりまくりングだ。


「行って。もう時間ないんでしょ?」


ここで意外な人物が口を開いた。お嬢様だ。

二人の背中を押してゲートへと向かわせようとしている。


「でも……せっかく来てくれたから」


「そうよ。この際飛行機一つ遅らせればいいわ」


「駄目よ仕事でしょ。私はもう平気、会えただけで十分」


お嬢様の方はスッキリして逆に両親の方が名残惜しそうだ。

旦那様と奥様はしばらく悩んでいたが渋々といった様子で準備を始める。すごーく動作が遅く、少しでも一緒にいたいってのが伝わってきますね。


「旦那様、奥様、もう時間がないのでお急ぎを」


母さんも仕事モードになり、チケットを取り出して二人を急かしている。

ちなみに俺は暇なので動く床に乗って遊んでいる。ハリウッドスターの気分だよね。楽しい。逆走したくなる。


「それじゃあ雨音、またね」


「次こそはちゃんと家に帰るよ。今度は食事しながらゆっくり話そう」


「うん、楽しみにしてるわ」


最後にまた三人で抱き合って別れを惜しんでいるようです。こいつら抱き合ってばかりだな。アメリカンだ。アハハー。オゥ、イエス。アハン。


と、旦那様と奥様が俺の方を見て手招きしてきた。目が合い、明らかに俺のことを呼んでいる。

歩く床を降りて手招きするおっさんの元へと向かう。


「なんすか?」


直後、母さんに拳骨食らった。

へーへー、分かりましたよ。ちゃんとした言葉遣いで喋れってことでしょ。


「お呼びでしょうか旦那様」


「陽登君、ありがとう」


んあ?


「あなたのおかげで雨音と会えました。会って、私達は大切なものを思い出すことが出来ました。仕事ばかりで、本当に大切なものを忘れかけていました……」


二人でまたお嬢様の頭を撫でるとお嬢様の顔がへにゃへにゃになった。

またか、何回アヘ顏をするんだよお前。頬がだらしなく緩んでいるぞ。


感謝を述べられたが俺自身は特に何も思わないです。別にね、俺は学校をサボりたかったに過ぎない。感謝される為にやってわけじゃありませんよ。

まぁ、お嬢様には両親と会ってほしいって気持ちはほんの少しだけあったかもしれないけど。ちょっとだけね。


「これからも雨音のことをよろしく頼むよ」


「でしたら臨時ボーナスとかください。百万でいいっすよ」


直後、母さんに拳骨食らった。ぐあぁ頭が馬鹿になっちゃうよ。今ので脳細胞がかなり死んだ。ハゲる!


「もう出発の時間です」


母さんが急かしてゲートへと向かう旦那様と奥様。

俺とお嬢様も出来る限り近くで見送る。


「では、また会おう」


「雨音、元気でね」


「うん、パパもママもお仕事頑張って」


寂しげにでもちゃんと目を見合って穏やかに言葉交わす天水家の三人と、


「ちゃんと真面目に働きなさいよ」


「シンプルに嫌だわババア」


「次会ったら覚えとけよクソ息子」


「そっちこそちゃんと覚えていろよ、せいぜい痴呆にならないようにな」


目も合わせず唾を吐く勢いで互いを罵る俺と母さん。

俺も口が悪い方だと自覚あったが母さんも同じくらい口が悪い。こんなところで血の繋がりを感じる。

けっ、過労で倒れて死ぬ寸前のところで苦しめクソが。


「それでは行ってくる」


「行ってらっしゃい」


お嬢様はニコニコと笑って手を振り、見送る。


「……ありがとう」


「あ?」


「おかげでパパ達に会えた。火村のおかげで私、自分の気持ちに素直になれた」






「申し訳ありません。私の息子がとんだご無礼を」


「構わないよ。何より、良い少年だった」


「え゛? アレが? ご、ご冗談を」


「……父親に似ているな」


「……」


「お互い、子供は大切にせんとな」


「……ですね」






飛行機が飛ぶ。眺めていたかと思えばあっという間に空高く、吸い込まれるように消えていった。

飛行機ってのはすごい発明だよな。考えた奴マジ頭良過ぎ。


「行ったな」


「……そうね」


展望デッキからお嬢様と二人、飛行機が飛んでいくのを見送った。

にしてもやっぱ空港ってでかいな。ここで鬼ごっこしたら楽しい……いや疲れそうだな。ぜってぇしたくない。

ふと思ったけどここでAVの撮影をするのはどうだろう。ほらあるじゃん、捕まったら即襲う、みたいな企画のやつ。これだけ広いなら存分に楽しめそうだよ。捕まって私もフライトしちゃう!とか超そそる。


俺が天才的アイデアを思い浮かべている間も隣に立つお嬢様は空を見上げている。

寂しげに目を細めて、もう見えないのにずっと顔を上げる。

その横顔は淡く儚げ、静かに揺らめく瞳。哀愁すら感じる表情は色薄く、それでいて綺麗に映える。


「……やっぱり寂しいのか?」


「そうね。寂しいし次いつ会えるか分からない」


でもね、とお嬢様は続ける。


「今日は会えた。また会える。今はとてもスッキリしてるわ」


上空を見つめていた瞳が俺の方を見る。

風が吹き、黒の艶やかな髪が流れ、お嬢様が、微笑む。


「私を連れて来てくれてありがとう。パパとママに会わせてくれて、本当にありがとう」


……急に笑うなよ。いや俺がもっと笑えって言ったけどさ。

それにしてもズルイ、急にくるのは卑怯。思わず顔を背けてしまった。


だって、その笑顔は反則だろ。なんとなく自分の顔が熱くなるのを感じる。

両親と会えると知った時のハイテンションの笑顔、両親に挟まれてとろけた表情。それらとは違う、幸せに満ちて満足げに俺へと向けられたのはただただ純粋な微笑み。

天水雨音の、本当の笑顔を見た気がした。


「ま、お礼はお嬢様のパンツでいいっすよ」


「黙れ」


肩を殴られた。痛いって。


「はぁ、この私が感謝したのだから素直に喜びなさいよ」


「はぁ、どこに喜ぶポイントがあった? 今この場でパンツ脱いでから言いやがれ」


さらに殴られた。痛い痛いって。


「ところで今からどうするのよ」


今から俺と鬼ごっこしてお嬢様が捕まったら快楽へフライトどうですか?と言いたくなったけどこれ以上は殴られたくないので言わないでおく。

いやマジで俺天才だよ。飛行場どころか空港の中も使えば盛大な鬼ごっこになるよ。あの動く床もエロイことに使えそう。大人のおもちゃ持った鬼がゲート通る度に金属探知機が鳴るとかさ、ヤババ~、超楽しそう。


「今更学校に行くつもりはねーし大人しく帰ろうぜ」


「せっかく来たんだから都内を見て回るわよ」


は? いやいや、何言ってるの?

都内とか人多いしどーせお前は買い物したいとかほざくだろ。断固拒否だ。

けれど反論する間もなくお嬢様に手を掴まれて引きずられる。

や、やめろぉ。俺は部屋でサボりを満喫したいんだ。ディスカバリーチャンネル観たいんだ。


「さあ行くわよ、陽登っ」


「げえぇぇ」


お嬢様と二人、走り出す。


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