第31話 ウィンドウショッピング(美女ウォッチ)
「つけ麺ご馳走様でした」
「では私は屋敷に戻るよ」
「俺はこの辺を散策しますわ」
店の前で別れ、庭師のおっさんは車に乗って帰った。
つけ麺美味かったなー、また今度食べに来るかな。場所も覚えたし。
土曜の昼、屋敷にいたらメイドさんに雑用押しつけられそうだったので外に逃げてきた。基本的には引きこもりたい系男子の俺だがこういう時はアクティブに外出する。それが俺流ニート術。だってばよ!
せっかくだし庭師さんと飯を食った。奢ってもらう飯は格別に美味い。
つけ麺すごいね、麺がちゅるちゅるだったよ。もうね、コシがね、あとね、あっ、駄目だ、良いコメントが浮かばない。グルメリポートのセンスがありまセントバーナード。
「さて、テキトーにぶらつくか」
この地域はまだあまり知らない。ちょっと散策して何があるのか調べておこう。なんて真面目な姿勢。すごいね陽登君!
それに暇を潰せる場所、もといサボれる場所を見つけておいて損はないでしょ。なんて不真面目な発想。大好きだよ陽登君!
屋敷の住所や最寄りの駅はメイドさんに聞いたからちゃんと帰れるし問題ない。晩飯までテキトーに時間を潰そう。
「ぁ、火村君……?」
「あ?」
誰か俺の名を呼ぶ。気安く呼ぶなボケェ。
声が聞こえた方を見れば、
「こ、こんにちは」
クラスメイトの木下さんがいた。おどおどした表情は学校の時と変わらない。
変わっているのは、
「こんちー。私服すげー可愛いな」
当たり前だけど木下さんは私服だった。
綺麗な白地のブルーイッシュなワンピースの上からグレー色のカーディガンを着ている。カーディガンは大きめで、ぶかぶか具合がとてつもなく可愛らしい。あざとい。ゆるふわのボブヘアーはおにゃのこ~感が溢れんばかりだ。
「えっ……っ、あ、ありがとございます……」
照れているのか、両手を口元に添えて困惑したように顔を赤くしている。何それ、ホントあざとい。
袖から少しだけ出ている指、あれ好き。可愛い。しゃぶりたい。
「奇遇だな。買い物でもしてんの?」
お嬢様相手ではないのでフランクに話すことが出来て気が楽だわ。まぁお嬢様相手でもたまにタメ語使ってるけどな。
「は、はい。お洋服でも見ようかと……」
それはとても有意義な休日の過ごし方ですね。英語で言えば、ナイスホリディ。たぶん少し違う。
ともあれお買い物って良いですね。家の中に引きこもっているお嬢様とは大違いだ。あいつ部屋で何しているんだろうな。ゲームとか?
「そっか。じゃあまたなー」
「あ、は、はい」
軽い会釈をした後に手を振り、その場を離れる。
ここで俺なりに分析してみよー。
お買い物、普通高校生ならば友達と来るものだ。特に女子、キャピキャピ買い物しているのを何度か見たことある。グループ行動しているイメージが強い。
だが木下さんは一人だった。
友達、または彼氏とどこかで待ち合わせしていると考えるのが妥当だ。お嬢様と違ってボッチとは考えにくい。
漫画の主人公みてーな「俺も暇なんだ。良かったら一緒に行かない?(イケメンスマイル)」とかさ、そんなんやっちゃいけないのは俺でも分かる。つーか絶対彼氏いるだろ。あんなに可愛いんだぞ。
よって俺は早々に会話を終わらせてその場を離れることにした。
偶然出会った女子と遊ぶだなんてラノベ的展開はありえません。夢見んな、現実見ろ。なぁ皆。薄々気づいているだろ?
寧ろ木下さんの可愛い私服を拝めただけで十分にラッキーだ。これだけで外出した甲斐があると言えよう。可愛いね、あの子の私服、春物だ。一句詠んでしまったぜ。そして今のクソおもんねー。俳句のセンスもありまセンチメンタル。
「どこに行こうかな……おっ」
道を曲がったり歩道橋を渡ったりムーンウォークしていたら前方に大きなビル見えた。
巨大な建物、入口前にある横断歩道も広い。交通量が多い。キモイ。ファッションビルってやつ? 人も多い、なんてこった。
人混みは嫌いだけど、散策には向いているかもな。よし、入ってみるか。パンチラやパイスラが拝めるかも。
ビルの中に入って散策を開始。アクセサリー店や紳士服、婦人服と様々なお店がある。ブランド物とかあるんだろうな。
見るには申し分ないが買うのは無理だ。そんな金はない。大人しく美人の足でも眺めていよう。
田舎では味わえない都会の良さを堪能すべきだ。
「うおっ、あの店員さん超美人だ!」
「……火村君?」
「え?」
ジュエリーショップの店員さんを見ていたら……木下さんがいた。
あ、あれ? なんでここに……?
「買い物ってここで?」
「う、うん。ま、また会いましたね……」
ぎこちないながらもニコッと微笑んでくれる姿にグッと来た。
じゃなくて、まさかまた会うとはね。ちょっとした偶然だ。
そして俺が店員さんウォッチしている姿を見られるとは。これはかなり恥ずかしい。一人で階段を踏み外して転んだ時ぐらい恥ずかしい。あーゆー時に一人きりだと辛いよね。
「またなー」
そそくさとその場を離れてエスカレーターに逃げ込む。
あー、ビックリした。まさかだよ。ちょっと焦ったわ。
ま、大きなショッピングモールだし買い物来るならここなんだろうな。
それにしても二回も会うなんてすごいね。運命じゃないかな。もしや木下さんが運命の相手……グヘヘ、あの可愛い顔をぐちょぐちょになるまで泣かせてやりたいぜ。
「なーんてね。さあ、気を取り直して美女ウォッチ再開するか」
帽子を扱っているセレクトショップに入ってガラス越しに奥の方の店を凝視。視線の先はランジェリーショップ、下着のお店だ。ブラジャーがいっぱいだーウヘヘ。
可愛い子や美人が入店したら「ほほぉ、あの人はあそこで下着を買うのか」と妄想出来て楽しい。果てしなく楽しい。
「へへっ、早く俺を唸らせる程の美女よ来い…………って」
ランジェリーショップの前に立つ一人の女の子。
……木下さんだった。
「おいおいマジかよ……」
まさか、入るのか? あのショップは木下さん行きつけの店なのか?
今あの子が着けているブラやパンツもそこで買ったやつなのか!?
だとしたら興奮する。かなり。
さあ早く中に入れ、そして俺の妄想力に拍車をかけ……
「あ、目が合っ……たぁあ!?」
俺の視線に気づいたか定かではないが突如クルリと後ろを振り返った木下さん。
俺と目が合う。……気まずい。
と、とりあえず手を振ってみる。向こうもペコリと頭を下げて、そして、お店には入らず他の方に歩いていった。
ヤベー……確実に変態だと思われた。どうしよ、運命の人なのに。いや違うけど。
「し、仕方ないよ。へこまずに楽しもう」
嫌なことは忘れて楽しいことだけ考えろ~。てことで再びランジェリーショップを観察だ。
「もしよろしければ試着してみますか?」
店員さんに話しかけられた。
「いや俺男なんでブラは着けないっすよ」
「え?」
「あ、ここ帽子の店だった」




