第32話 ギャルと言い合いバトル
店員さんに変な目で見られて居心地が悪かったのでセレクトショップから出た。
いつまでもランジェリーショップの周りにいたら不審者に思われるだろうし、移動するか。うーし、次はどこに、
「……火村君」
「あ」
またしても木下さんと出くわした。
……なんで!?
どんだけ俺ら会ってるのよ!? いい加減お互い気まずいんですけど。またな、を何回言ったと思ってやがる。
「あ、あははー。また会ったなー、ははっ」
もうね、乾いた笑い声しか出せないわ。気まずいってレベルじゃない。
「そ、そうだね」
それは向こうも同じなのか、木下さんも困惑した表情で申し訳なさそうだ。
ぐっ、なんだこれ。何このフワフワした空気、ものすげー気まずい!
空気がフワフッワしてるぅ! もうっ、フワフッワだよおい! えぇ!?
「せっかくだし一緒に見て回らない?」
おいおい陽登お前どうしたマジで!? 何を口走っているんだ。
とても俺とは思えない、らしくないことを言ってしまった。あと少しイケボだった、自分的に。チャットでイケボ配信しようかな。
「え、えっと……」
木下さんは目線を左右に泳がせて目を合わせてくれない。
そりゃそうだ、ランジェリーショップ凝視していた奴と一緒だなんて嫌だよな。変態を仲間に加えるようなものだ。勇者、僧侶、戦士、変態みたいなパーティーになるよね。一気にバランス悪くなったよ。
そんな提案をしてしまったのだ。俺はなんてことを。
ほら木下さんも困っているって。これ以上気まずい空気にするのは駄目だよぉ。
「あ、やっぱり今のなしで。今度こそさようならまた月曜日に~」
これで最後にしよう。もうこのビルから出るべきだ。
木下さんが来そうにないゲーセンかレンタル店のアハンなコーナーに逃げるしかない。
とりあえず今はこの場から消えるべきだ。さらば!
「ま、待ってくださいっ。あ、あの……わ、私なんかで、良かったら……はい」
「へ?」
踵を返したがその場で止まる。
え、今……なんて?
振り返れば、おどおどしながらもちゃんと目を合わせてくれる木下さんがいた。
「いいのか?」
「は、はい。よろしくお願いします」
木下さんは深々と頭を下げる。
「いやいや頭下げなくていいってば」
それより……木下さん、なんて良い子なんだ!
自慢じゃないけど俺はクズだ。レジで老人が会計にもたついていたら平然と舌打ちするぐらいクズだ。
そんな俺と一緒にいてくれるだなんて、すごく良い子や~。
「んじゃま、よろしくね」
「は、はい」
こうして木下さんと一緒に見て回ることになった。
「ここの店は安いなー」
「そ、そうですね」
木下さんと二人、色んな店をブラブラ見て回る。
今は服を見ています。濃い赤色と藍色が組み合わさった二色のパーカーが良い感じだ。これ欲しい。
「俺これ買うわ」
「試着はしなくて、だ、大丈夫なのですか……?」
「めんどいからいいや。男はノリで買うものさ」
試着した際に店員さんから「お似合いですね~」みたいなお世辞言われるのが苦手なんだよ。そんなこと言われても全然嬉しくないし。
せめて「か、カッコイイ私もうぐちゅぐちゅ!」くらい言ってもらえないとね。
「着心地が悪かったらその時はドンマイだよ」
「でも、それ火村君に似合いそうだから、し、試着して確かめた方がいいと思います」
「無理してお世辞言わなくていいって萎えるから」
「ご、ごめんなさい……」
うわぁこの子めんどいぃ。
俯いて謝る木下さん。シュン、と落ち込む音が聞こえてきそうなくらい。申し訳なさげに頭を下げる姿とかさー、もうホント勘弁して。
「があー、謝るなって。別に木下さんは悪くないから」
「は、はい……」
それでも暗い表情の木下さんは俯いてごにょごにょ何やら言っている。目なんて涙が溜まっているようにすら見える。待って待って泣くなよ! ドンクライ!
「はぁ……あのね、木下さん」
「は、はいごめんなさ」
また謝ろうとしているので近くにあった帽子を手に取って木下さんに被せる。
「っ、ん……?」
かなり勢いよく被せてしまってせっかくのゆるふわヘアーが崩れてしまったかも。てゆーかこれメンズ用のキャップだった。まぁどうでもいい。
「だから謝らなくていいんだよ。もっとフランクにヘラヘラと喋ってこいや」
ダラダラ、ヘラヘラ。そんなもんでいいんだよ。
「気を遣う必要ねーよ。だって俺達、友達だろ」
ふふん、決まったぜ。思わずドヤ顔してしまう。我ながらクセー台詞だった。
対して木下さんの方はきょとんとしている。帽子で表情は見えにくいが、でも、さっきよりはマシな表情に見えた。そうだ、もっと気楽に考えなさい。
「は、はい……ありがとうございます」
「オッケー。あと敬語もなしだ。語尾にクソボケをつける勢いのタメ語でこいクソボケコラァ」
木下さんから帽子を取る。
何気にこのキャップ良さげ。値段も安いし、これは買いだな。
「んじゃ俺はパーカーとついでにこの帽子も買ってくるわ。ちょっと待っていて」
「は、はい」
「そうじゃなくて~?」
「ぁ……う、うんっ」
そうそう、そんな感じで良いよ。マジでクソボケをつけられたら俺ヘコむわ。
こんな可愛い子からクソボケって言われてみろ、返す言葉がないよ。
俺はレジへと向かい、会計を済ませる。
パーカーとノリで買った帽子。安いとはいえ元ニートの財布には中々痛いぜ。
「一万円お預かりします」
「僕ポイントカード持っていると思います?」
「いや知らんけど」
店員さんのお姉さん冷たい。もっとノリ良く喋ろうよ。
つーか今思ったんだけど俺だって一応使用人だから給料をもらえるんじゃないのか? 帰ったらメイドさんに聞いておくか。
これでタダ働きだったらどうするよ。毎朝お嬢様の寝込み襲ってやる。メイドさんのブラジャー盗んでやる。
「ありがとうございましたー」
「さっそく装備していくかい、って聞いてくれないんすか?」
「さっさと帰らないんですか?」
お姉さんつーめーたーいー。二度と来ねぇからな!
オシャレな春服コーディネートで着こなしている店頭のマネキンのカーディガンをズボンにインさせて店から出る。後ろからお姉さんの舌打ちが聞こえたが無視した。
店内に木下さんの姿はなかったし、どうやら店の外で待っているみたい。
ショップを出て辺りをキョロキョロ……お、いたいた。
フロアの端の方に立っている木下さん。
それと……
「うわっ木下じゃ~ん。何してんのよ根暗女が」
「ここでアンタと会いたくないんだけどぉ?」
なんか女子が二人いる。
短いスカートに小麦色の肌、異様に長いまつ毛、そして茶髪&金髪。服装も奇抜で、いわゆるギャルってやつだ。
ふーん、木下さんの知り合いか。意外な交友関係。
「アンタなんかが偉そうにショッピングかよ。身の程弁えろっての」
「根暗はジャージでも着てれば~?」
いや、あの感じは友達ってわけじゃなさそうだ。
あのギャル二人のあの態度、どう見てもおかしい。
「おら何か言えよ木下」
「え、えっと……ぁの……」
「出た出た! 相変わらず口ごもってやんの~」
「中学の頃から変わってなさ過ぎぃ~」
ギャハハ!とギャル二人の馬鹿笑いが俺のところにまで届く。
よく見えないけど、木下さんの顔……なんだよあれ。俯いて今にも泣きそうだ。
それを見てギャルはさらに笑う。ゲラゲラと笑う。
「一人で来て寂しくないのぉ?」
「私達が遊んであげよっかな~。あ、やっぱ嫌。アンタと会話出来そうにないもん」
「だよね~、アハハ!」
あの二人が木下さんとどんな関係とか、よく分からない。
けど、なんでだろうな。すっげームカつくんだわ。だって木下さん、泣きそうな顔してどう見ても辛そうじゃん。
イライラしていたら、気づけば俺は木下さんの横に移動していた。
ギャル二人から木下さんを隠すようにして立つ。
「だ、誰だよお前」
「男……一人じゃなかったのか」
ギャル二人は俺を警戒しているのか、少し身を引いた。が、態度は大して変わらず時間が経つにつれ俺を睨みつけてきた。
まぁお前らは後回しだわ。まずは木下さんと話す。
「わりーな遅くなった」
「は、はい……あの」
「この二人って木下さんの知り合い?」
木下さんは俯いて小さく何か言っている。耳を傾けて集中して聞けば、中学校と聞こえた。
あぁ。中学の同級生ね。へぇー。
「何? アンタ木下の彼氏?」
ギャルの一人が話しかけてきた。ガンつけて口調も強め。
「いや友達だけど」
「なんだ彼氏じゃないのか。言っとくけどそいつとつるむのやめときなよ」
「そいつ全然喋らない根暗女だから。口ごもっていつも俯いてばかり」
「ま、アンタは普通そうだしもっと良い女と遊んだら~?」
再びギャハハと爆笑するギャル共。
……なるほどねー。なんか事情っつーか関係性は見えてきた。同時に激しくイライラしてきた。こいつらが木下さんを馬鹿にしている。こいつらが……
俺の中で、何かスイッチが入る。
「そんな根暗な奴ほってお」
「うるせーな黙ってろよクソブス」
「……え?」
ギャルの言葉を遮って喋る。
二人は驚いた表情をして、次第に顔が歪んでいく。
「はぁ? 何お前ウゼーんだけど」
「マジでキモイし」
「キモくてウザイのはお前らの方だろ。つーかブサイクだな。ブスって時点でアウトだわ。いやホント……あぁブスですねぇ」
何そのまつ毛、盛り過ぎだろ。目の上にポッキーでも乗せるつもりなのか? それはポッキー置きなの? あなたも私もポッキー置き?
「ブスブスうるせーんだけど、何それ全然受けないんだけど」
「そりゃブスは男受け悪いよなドンマイ。まぁブサイクでも良いことあるって」
「こいつマジウザイんだけど!」
「ウザイのはそのまつ毛だってブス。回れ右して失せるか、小さく前にならえして『チョーウケルンデスケドー』って連呼してろブス」
「最後の意味分かんねーしブスって言うな!」
「おっ、その調子だ。あとは語尾にブスをつけて完成だブス!」
「あああぁぁこいつウゼェ!」
ギャルは頭を抱えて発狂しだした。
まるでエイリアンみてーだな。鳴き声そっくりだ。
「ちょっと、お前いい加減にしろし。ミキは全然ブスじゃないし~」
するともう一人のギャルが突っかかってきた。
これまた見事なギャルメイク、そしてブサイク。
「いやお前、あれがブスじゃないとか言える立場なの? お前の方が終わってるからな」
「は、はぁ?」
「いやぁ、お前は……あ、無理だわ。これはマジで無理。もうマヂ無理、さすがに酷いって……」
げんなりした顔でギャルから目を背ける。
他人のうんこを見た時と同じ表情をしておく。他人のうんこ見たことないけど。
「あ、あたしブスじゃないし」
「お前それいつの話してんの? 幼少時ならまだしもお前が可愛かった時期なんて母親の中で羊水に浸ってる時だろ。胎児で全盛期迎えてんだよお前、ピーク終わってるんだよ。生まれた瞬間ブスになっちまったの忘れたか?」
「な、何よお前、っ、ふざけんなしぃ」
「だからふざけてるのはお前の顔面だって。今なら分かるわ、お前みたいな本当にどうしようもないブサイクの為に整形手術ってあるんだなぁと思う」
女優やアイドルがより可愛くなる為にではなく、ブサイクがせめて外を歩けるようにと願って発達した技術が整形ではなかろうか。
「そもそもお前の場合は整形手術と呼ぶことすらおかしいよな。顔面修理だわ。お前は問答無用で回れ右して今すぐ顔面修理の予約入れてこい死ねカス」
「ぅ、ぅえ……な、何よぉ……ぐすっ」
「おっおっ? 泣くのかー? 俺はハンカチ持ってないからテメーの生理用ナプキンで拭けバーカ」
「お、お前カオリ泣かしてんじゃねーぞ!」
一人目のギャルが復活したのか、ボロボロ泣き崩れるギャルの助けに入った。
カオリってギャルは涙を流してメイクが落ちている。黒色の涙ってキモイね。
「カオリ泣かすなし!」
「日本語喋ろよエイリアン。ピーピー鳴いてんじゃねぇよ」
「だ、誰がエイリアンだよ!」
「だからお前だってば。要領悪いなブス。そっちの泣いてるクソキモイ黒涙女と二人でエイリアンVSプレデターやってろ」
「~~っ! 覚えてろし!」
そう吐き捨ててブスエイリアンはプレデターを支えながら逃げていった。
あっちの方向は下へ降りるエスカレーターだな……よし。
「ちょっと追撃してくるわ」
木下さんを残してダッシュ。目指すは階段。
階段を一気に駆け下りてひとつ下の階へ。そしてエスカレーターの前にスタンバイして、
「親方ぁ! 空からブス二人が!」
「お前なんで下にいるんだし!?」
全力で叫んでやった。
エスカレーターで下りてくるギャル二人。周りの視線はあいつらに集まる。あと若干俺にも。だが構わず大声で喚き散らす。
「うわぁブスが下りてくるぅ。バルス! バルス!」
「な、何なのよぉこいつ……っ、うえぇ……」
もう片方のギャルも涙目になってきたし、ここらで終わっておくか。
あ、最後に言いたいことあるわ。
エスカレーターの横を走りながらギャル二人に向けて叫ぶ。
「二度と俺の友達を馬鹿にするな! そっちこそ覚えとけよ!」
結構騒いでしまったので慌てて元来た道を戻って上の階へと上がっていく。
ふぅ、疲れたぜ。まぁボロクソ言えて気持ち良かったけど。
木下さんは動いておらずフロアの端っこの方にいた。その顔は……うん、なんとも言えない顔してるね。
「大変だったなー。平気か?」
「私は大丈夫。あ、あの……さっきの二人は……」
「中学の同級生だろ。なんで絡まれていたのかはなんとなーく分かるよ」
木下さんは大人しいタイプの女子だ。非常に大人しい、そして口下手なところがある。
「……私、昔から話すのが苦手で……そ、その、中学校は女子校だったけどその頃はそれで馬鹿にされて……」
ごにょごにょと喋る木下さん。
こーゆー感じが他の女子からすればウザイってことなのかな。
ま、何より木下さん可愛いからな。周りが嫉妬してイジメようとしたんだろ。
「……ごめんなさい」
「なんで謝るんだよ」
「わ、私のせいで火村君も絡まれて……私が……」
しょんぼりしてまたしても泣きそうな表情をしている。
あ゛ー、だからさ、そんな風に考えなくていいんだって。
「俺がさっき言ったこと忘れたのかよ」
「ぇ……?」
袋から帽子を取り出して木下さんに被せる。今度は優しく、乗せるように。
そして目線を合わせて俺はニカッと笑ってみせる。
「俺みたいにヘラヘラしていればいいんだよ。過去に何があったとかあんまし関係ない」
過去がどうとか、俺の場合どうなるよ。一年間ニートのどうしようもない奴だぞ。口下手より恥ずかしいことだわ。
「嫌なことはさっさと忘れて買い物の続きでもしようぜ」
大きく伸びをして、エスカレーターを目指す。下の階には当分行けないから上の方に行ってみようぜ。
と、木下さんが俺の服の裾を掴んだ。ぞわわ~と心地良い感覚が肌をなぞる。
「あの……そ、その」
「どした? ゆっくりでいいから話してみろやクソボケ~」
語尾は最悪だけど、ちゃんと微笑んで木下さんに問いかける。
「その……あ、ありがとう。さっき下の階で叫んでいたの、聞こえてたよ」
え、マジで? うわー……声って結構響くものなんだな。
今更だけどすげー恥ずかしくなってきた。ふえぇ、俺のバルス連呼が聞かれていたよぉ。
「友達って言ってもらえて、すごく嬉しかった……」
小さい声から次第に大きな声へ。
木下さんは顔を上げ、息を吸い込み、ぎこちない笑みではなく、普通の笑顔を見せてくれた。どこにでもいる、一人の女の子の、満面の笑み。
「ありがとう。これからもよろしくね火村君クソボケ」
しょんぼり寂しい表情は消え、とてつもなく可愛らしい笑顔で木下さんはそう言った。
ぎこちなくない、すごく眩しい笑顔。か、可愛い。
超可愛いのに……語尾がキツ過ぎる!
俺が言ったせいかチクショウ! さっきの俺馬鹿っ、何してんだ。
「よ、よっしゃ。じゃあ次のフロアにでも行くかー……あ、あはは」
可愛い子の無垢な笑顔でクソボケって言われたら普通に辛いんだな。俺、学んだよ。
「あ、火村君。この帽子は……」
「ん、ノリで買ったやつだし木下さんにあげるよ」
あ、そういやそれメンズのキャップだったな。
「いらないなら俺がもらうけど」
「ううん、これ欲しい」
ちょっとサイズの大きい帽子を深く被って木下さんは嬉しそうに微笑んでいた。
気に入ってくれたのか、じゃあ是非もらってくれ。メンズ用だけど別に不自然には見えないし、オシャレかもね。オサレだよオサレ。
「……えへへ、これ大切にするね。ありがとクソボケっ」
「やっぱその語尾はやめてくださいすんませんっした!」




