原田 兵庫(harada_hyougo)<4部>
・「兵庫、海月さんの手伝いをしてあげたらどうだ?」
「は? 厨房? 俺でいいなら?」
「ダメ。あんたはくるな。店の評判が落ちると困る」
・だが瑛己も兵庫の料理の腕前は理解している。やめた方がいいだろうと思った。
・その頃には兵庫は完全に酔いつぶれ、寝入ってしまっていた。
「もう、弱いのに飲みすぎるから……」
呆れ半分で叩き起こそうとしたが、「瑛己君、こいつはこっちで何とかするから」と海月が苦笑した。
「こいつ、空軍時代からこうやって飲みすぎては酔い潰れて……まったく、いい歳して」
「はぁ」
「そこいくとハルは全然つぶれないのよねー。つまんないくらい」
・「……ムニャムニャ、海月ぃー、酒ー……」
・「あいつ、酒、昔から強くなかったもん。なのに昨日は白河が気を使ってジャンジャン注いでたから。あいつもそれに合わせてジャンジャン飲んでたし。死ぬんじゃないかと思ってた」
「……止めてあげなよ」
「いやそりゃもう、自己責任だろ。それに必死に飲む姿が見てて面白かったし」
ヒドイ元副隊長である。
・「ダメダメ。最終チェックは自分でしないと。いざって時に頼りになるのは自分だぞ? 飛空艇の全性能を知り尽くしてこそ、その力を本当に発揮する事ができる。あっちの国の飛空艇と、機械、気象についても調べておいた方がいい。操縦に関してもだ」
・兵庫は料理そっちのけで、ポケットから葉巻を取り出した。
・「瑛己」
「ん?」
「もしも本当に、上島にまた会う事ができたなら。……伝えてくれないか?」
「え?」
言っておきながら、兵庫はパタパタと手を振って笑った。「万が一機会があったら、でいいよ」
「正直あいつに近づかない方がいいとも思う」
「……」
「でももしそんな機会があったなら―――お前の女神が微笑んで、そんな状況に立たされたら」
「……何?」
ガタガタと、隣の席に客が座る。
今日も店内は賑わしい。
その中で兵庫はボソリとその言葉を口にした。
「……わかった。覚えておく」
「ん」
兵庫は2本目に火を点けた。
瞼を伏せたその顔には笑みが浮かんでいた。
瑛己は空が眺めたくなった。
眩しいほどの蒼空を、無性に、眺めたくなった。




