第十二章 カグヤ人来襲!?散りゆくZ戦士(焼肉)達
新たなる神の来襲と、開戦のタロキン90分一本勝負
ホームセンター・タローマンの駐車場に、突如として夜の闇が降り注いだ。
時刻はまだ真昼間であるにもかかわらず、上空の太陽は不自然な皆既日食のように黒く染まり、代わりに圧倒的な存在感を放つ『満月』がポポロ村の空に浮かび上がったのだ。
「な、なんだ!? 急に夜になったぞ!」
「春太さん! 上空から、凄まじい神気と……高級香水の匂いがしますわ!」
商品の搬入作業をしていた俺とリーザが空を見上げる中、月明かりをスポットライトのように浴びて、上空から一人の女がゆっくりと舞い降りてきた。
プラチナブロンドの髪を風になびかせ、全身をハイブランドの煌びやかなドレスで包んだ絶世の美女。
月の世界を統べる第3種惑星創造神格公務員――女神、カグヤである。
「おーっほっほっほ! 傅きなさい下界の者ども! この私が直々に、視察に降りてきてあげたわよ!」
カグヤは空中で優雅に扇子を広げ、傲慢な笑い声を響かせた。
その圧倒的なオーラは、間違いなく神のものだ。だが、俺の隣でエプロン姿のアラトがタブレットを叩きながら、イチゴ味の飴玉をガリッ!と噛み砕いて冷酷な分析を下す。
「……ハルタ。彼女の着ているドレス、最新コレクションの限定品だが、よく見ると首元のタグが不自然に切り取られている。質屋に流れた中古品(Bランク)の可能性が高い」
「なるほど、見栄っ張りな神様ってわけか」
俺たちが冷ややかな視線を送っていると、カグヤは優雅なステップでアスファルトに着地し、俺の目の前までツカツカと歩み寄ってきた。
「あんたが神城春太ね! 噂は聞いているわ。下界のホームセンターとやらで、あの泥棒猫を時給800円でこき使っているそうじゃない! ふん、どうせあの女がポンコツなだけでしょ? 私なら、あんたの店を100倍の利益にしてあげるわ! だから今日から、私専用のパトロン(ATM)になりなさい!」
カグヤはビシッと俺に扇子を突きつけた。
上から目線で養えと要求してくる、なんとも斬新な神託である。
だが、その時。カグヤが扇子を勢いよく振った反動で、彼女の胸元のドレスの隙間から、一枚の『黄色いハガキ』がヒラヒラとこぼれ落ちた。
「あっ」
カグヤの顔が、一瞬で青ざめる。
地面に落ちたそのハガキを、スッと拾い上げたのはリーザだった。
タローソンの廃棄弁当争奪戦で鍛えられた動体視力を持つ彼女は、誰よりも早くそのハガキの文面を読み上げてしまう。
「ええと……『エンジェルスマートフォン・カードローンご利用代金 最終督促状。仏の御石の鉢の質入れ期限が迫っております。至急お支払いを……』」
「ああああああっ! 読まないでぇぇぇっ!!」
カグヤが悲鳴を上げてリーザに飛びかかり、ハガキをひったくった。
だが、時すでに遅し。その場にいた全員(俺、アラト、リーザ、キャルル、ルナ、キュララ)の間に、なんとも言えない生温かい沈黙が流れた。
「……ははぁん。なるほどね」
そこへ、バックヤードから肥料袋の品出しを終えたばかりのルチアナが、首にタオルを巻いた芋ジャージ姿で現れた。
ルチアナは、顔を真っ赤にして震えるカグヤを見て、ニヤァッと意地の悪い笑みを浮かべた。
「あんた、私を馬鹿にしに来たのかと思ったら……自分もリボ払いで首が回らなくなって、下界にタダ飯食いに来ただけじゃないの! 質屋のドレス着て威張るなんて、ウケるんですけどー!」
「う、うるさいうるさいっ! あんたみたいに強制労働寸前じゃないわよ! 私はただ、ちょっと今月のスパチャ(信者のお布施)が少なくて、計画的にキャッシングを利用しただけで――」
「はいはい。で、店長! この見栄っ張り女も、今日からタローマンの新人バイトでしょ?」
ルチアナが俺を振り返る。
俺はため息をつき、頭を掻いた。
神様だろうがなんだろうが、金がないなら働いて稼ぐ。それが俺の店の絶対ルールだ。
だが、借金取りに追われる神が二人に増えたとなれば、チームとしての士気も考える必要がある。
「……まぁいい。お前ら、今日は品出しのペースが早かったからな。カグヤとか言ったか、お前も来い」
「えっ……? パトロンになってくれるの!?」
「違う。新人アルバイトの『歓迎会』だ」
俺はエプロンを外し、親指で村の入り口の方を指差した。
「最近、ポポロ村の街道沿いに、タローマンの系列店として『焼肉バイキング』をオープンさせたんだ。今日はそこで、腹いっぱい肉を食わせてやる。ただし、90分一本勝負(食べ放題)だぞ」
「や、焼肉……!!」
「タロキンの焼肉バイキングですってぇぇっ!?」
ルチアナとリーザが、飢えた獣のような目を輝かせて歓声を上げた。
カグヤは「や、焼肉……? 神である私が、下界の脂っこい肉なんて……」と強がっていたが、数日間まともな食事(お供え物)をしていなかった彼女のお腹は、キュルルゥゥと悲しい音を鳴らしていた。
◆
かくして、俺たちは全員で、ポポロ村の街道沿いにそびえ立つ派手な看板の店――『焼肉バイキング・タロキン』へとやってきた。
大人一人、銀貨1枚(約1000円)で90分間、ショーケースに並んだ肉やサイドメニューが食べ放題という、異世界の常識を覆す革命的な飲食店である。
「さあ、席につけ。ルールは一つ、食べ残しは厳禁だ。限界まで腹に詰め込め!」
俺の号令と共に、ヒロインたちはトングと皿を握りしめ、獲物を狙うハンターのような足取りで、食材が並ぶ巨大な冷蔵ショーケースへと向かっていった。
「ふふふっ! 今日はロックバイソンのカルビを、致死量までいただきますわーっ!」
「私はハラミよ! ハラミをタレに沈めて白米でかきこむのよ!」
「みなさん、お野菜もちゃんと食べてくださいませね!」
賑やかな、いかにも平和な歓迎会の風景。
――だが。
この『タロキン』において、戦っていたのは俺たち(人間・神・獣人)だけではなかった。
視点を変えよう。
ガラス張りの冷蔵ショーケースの中。
キンキンに冷えた銀色のバットの上に並べられた『食材』たちにとって、この90分間は、まさに文字通りの『死闘』だったのである。
「……来るぞ、皆の衆!! 構えろォォォッ!!」
ショーケースの最上段。
美しい霜降りのドレスを纏った最高級肉『ハラミ姫』の御前で、一本の巨大なトングを大剣のように構えた誇り高き豚肉の戦士――『トンデモナイト』が、血を吐くような絶叫を上げた。
「敵は強大だ……! 昨日、隣町の食べ放題を半壊させたという恐怖のフードファイター軍団……特にあの赤いジャージの女の胃袋は、底なしのブラックホールだ!」
「トンデモナイト様……恐ろしいです……」
美しきハラミ姫が、銀色のバットの上でプルプルと身を震わせる。
トンデモナイトは、己の脂を燃えたぎらせながら、周囲に並ぶ屈強な仲間たち――Z戦士(ゼッタイに・残されたい・食材)達を振り返った。
「案ずるな姫! 我が命に代えても、貴女をあの灼熱の鉄網へ送らせはしない! 聞け、誇り高き食材の戦士たちよ!」
トンデモナイトの号令に、薄切りの『タンシオ』、脂の乗った『カルビ』、そして噛み応え抜群の『ホルモン』たちが、一斉にバットの上で立ち上がった(ように見えた)。
「我々に与えられた時間は、たったの『90分』! 敵の猛攻をこの時間内だけ耐え凌げば、我々は無事に冷蔵庫へと生還し、明日の朝礼を迎えることができる! 決してトングに掴まれるな! 皿に乗せられるな!」
『おおおおおぉぉぉぉッ!!!』
冷蔵ケースの中で、食材たちの悲壮な雄叫びが響き渡る。
しかし、ガラスの向こう側から、悪魔のような笑みを浮かべたリーザとルチアナが、カチャカチャとトングを鳴らしながら迫ってきていた。
「まずは……手始めにこの薄っぺらいタンシオから、血祭りにあげてやりますわーっ!!」
ガシャァァァン!!
冷蔵ケースの扉が、無慈悲に開け放たれた。
「敵襲ゥゥゥッ!! タンシオ部隊、前線へ急げ! 姫を、姫をお守りするのだぁぁぁッ!!」
平和な焼肉バイキングの裏側で。
生存を賭けた、食材たちと神々(腹ペコヒロイン)との、血で血を洗う90分のカウントダウンが、今、静かに幕を開けた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
天界の絶対バリアを物理で粉砕したかと思えば、次はなんと「焼肉の食材視点」での大戦争が開幕してしまいました!(笑)
「ハラミ姫を護るトンデモナイト熱すぎるだろww」「カグヤ様、即オチでバイト決定してて草」と少しでも笑っていただけましたら、
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次回、ついにZ戦士(食材)たちが灼熱の網の上へと出陣します! 怒涛のドラゴン○ールパロディ展開、どうかお見逃しなく!
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