ダンジョン
「徹骨穿心!!」
次の瞬間、必殺技が眩い閃光とともに放たれた。
一直線に突き出された槍撃は、ハリゲーターの脳天を寸分違わず貫く。
鈍い衝撃音が響き、巨体が地面へと崩れ落ちた。
反撃する暇すらなかった。
ハリゲーターはそのまま絶命した。
「ほんとだ。大したことないね」
スコルは肩の力を抜くと、ハリゲーターの亡骸と魔石をインベントリへ回収した。
『ハリゲーターは見かけによらず俊足な魔物だ。お主の気配を察した途端、かなりの速度で奥から駆けてきた』
フェルが分析するように言う。
『つまり、奴の縄張りはさらに奥ということだ。ダンジョンがあるとすれば北側――森の深部だろうな』
「なるほど」
スコルは頷くと、さらに森の奥へと足を踏み入れ、しばらく進んだ時だった。
木々の隙間から、小高い丘の斜面にそびえる巨大な石造りの門が見えた。
その門には、古代文字らしき文様がびっしりと刻まれている。
門の中央には闇が揺らめいており、その先はまるで別世界へと続いているかのようだった。
スコルの胸が高鳴る。
「ひょっとして……あれがダンジョンの入口!?」
『うむ。間違いない』
フェルは即答した。
『規模から見てティアスリーのダンジョンであろう』
ダンジョンには様々な種類が存在するが、一般的にはティアスリーからティアワンまでの三段階に分類されている。
ティアスリーとは地下数階層ほどの小規模ダンジョンを指す。
「ティアスリーか……でも、お宝はあるんでしょ!?」
『ダンジョンというのは、期待した時ほど何も出ぬものだからな』
フェルは苦笑交じりに答えた。
『もっとも、運が良ければ思わぬ掘り出し物に出会えることもあるがな』
その言葉を聞きながらも、スコルの視線は門から離れなかった。
古代の遺産を思わせる巨大な門は、冒険者の心を強く惹きつける不思議な魅力を放っていた。
「ところで、この門、どうやって開けるの?」
スコルは巨大な石門を見上げながら尋ねた。
『ダンジョンは来る者を拒まぬ。中へ入りたいと願い、その意思を言葉にすればよい。そうすれば門は自ら開く』
フェルが答えた。
「へぇ、なんでもいいの?」
スコルは半信半疑のまま門の前に立つ。
「じゃあ……入れて!」
そう口にした瞬間だった。
ゴゴゴゴゴ……。
地鳴りにも似た重々しい音が響き渡り、閉ざされていた石門がゆっくりと左右へ開き始めた。
長い年月を眠っていた古代の巨人が目を覚ましたかのようだった。
「うわっ、本当に開いた!」
スコルは目を丸くする。
門の向こうには薄暗い通路が続いており、その奥は闇に溶けて見えなかった。
『言ったであろう』
フェルはどこか得意げに言った。
『では行くとするか。ダンジョン攻略の始まりだ』
その言葉にスコルは力強く頷く。
胸の高鳴りを抑えながら、未知なる迷宮へと一歩を踏み出した。
門をくぐると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。
薄暗い通路の奥に目を凝らすと、何かが蠢いているのが見えた。
それは四、五体のハリゲーターだった。
獲物を見つけたのか、一斉にスコルへ襲いかかってくる。
だが――。
数分後には、その全てが地に伏していた。
スコルにとっては相手にならなかった。
「ティアスリーの魔物って、どれくらいの強さの魔物がいるの?」
ハリゲーターの亡骸を見下ろしながら、スコルは尋ねた。
『大したものはおらぬ。強くても中位クラスといったところだな』
フェルが答える。
『もっとも、個体によって多少の差はあるが、どのみち今のお主にとって脅威にはならぬだろう』
「そっか」
スコルはそう言いながら、ハリゲーターの亡骸と魔石をインベントリへ回収していった。
そして最後の一体を回収した、その時だった。
「あれ?」
魔物たちがいた奥の壁際に、何かが置かれているのが見えた。
薄暗がりの中で鈍く光を反射するそれは――。
「宝箱だ!」
そこには、古びた宝箱がぽつんと置かれていた。
「これ、開けても大丈夫だよね? 罠とか仕掛けられてないよね?」
宝箱を前にしたスコルは、期待と警戒が入り混じった表情で尋ねた。
『安心せい。ティアスリーのダンジョンに罠が設置されていることはほとんどない。気にせず開けてよいぞ』
フェルの言葉を聞き、スコルはほっと胸をなで下ろした。
「それなら――」
高鳴る鼓動を抑えながら、ゆっくりと宝箱の蓋に手をかける。
そして勢いよく開いた。
カパッ――。
宝箱の中には、青く透き通った液体が入った一本の小瓶が収められていた。
「これって、もしかして……」
スコルが目を輝かせる。
『ポーションだな』
フェルが即答した。
「へぇ……宝箱にポーションなんて入ってるんだ」
スコルは少し拍子抜けしたように呟く。
『なにを言う。ポーションといえど立派な古代魔導器だぞ』
フェルは続ける。
『もっとも、現在では製法が解明されており、完全に再現されているため、市場にも大量に出回っているがな』
古代魔導器とは、古代文明が生み出した魔導器の総称である。
それらは基本的にダンジョンからしか発見されず、その多くは現代では失われた技術によって作られている。
しかし長い年月をかけた研究の末、現代の職人や魔導技師たちは古代技術の解析と再現に成功した物もある。
その結果、かつては古代魔導器でしかなかった数々の道具が復元され、今ではポーションをはじめとする様々な魔導具が一般に流通しているのである。
「そうなんだ……」
スコルは青い液体を光にかざしながら感心した。
「ポーションって、元々は古代魔導器だったんだね」
そして、その後もスコルはダンジョンを進み続けた。
現れる魔物はどれも大した強さではなく、気がつけば地下二階層の最奥近くまで到達していた。
討伐した魔物の数は、すでに五十体近く。
だが、フェイドマウスだけでも二百体以上を収納しているため、インベントリの容量はすでに限界を超えており、魔物を回収できず放置している状態だ。
そして今、彼は八つ目となる宝箱を開けようとしている。
中に入っていたのは――
「またポーションだよ……」
スコルは肩を落とした。
「もうすぐ突き当たりみたいだし、このダンジョンはハズレだったね」
『ティアスリーに過度な期待をする方が間違っておる』
フェルが呆れたように言う。
「そうかもしれないけどさぁ……」
ぶつぶつ文句を言いながら通路の奥へ向かう。
すると、行き止まり近くの壁際に、ぽつんと宝箱が置かれているのが見えた。
「あれで最後だね」
スコルがそう言った、その瞬間だった。
――ズズッ。
何かが擦れるような不気味な音が響いた。
「ん?」
スコルが振り返る。
すると、通路の壁に刻まれた僅かな亀裂から、黒い煙のようなものが噴き出していた。
煙は生き物のようにうねりながら集まり、その量を急速に増していく。
「な、なんだあれ……?」
やがて黒煙は一つの巨大な塊となり、その輪郭を形作り始めた。
長く節くれだった胴体。
無数の足。
鋭く光る大顎。
それは、全長数メートルはあろうかという巨大なムカデだった。
赤黒い甲殻を軋ませながら、その魔物はゆっくりと頭をもたげる。
そして無数の複眼が、一斉にスコルを捉えた。
『アイアンレッグか。こやつはゴブリンキングと同じ上位クラスの魔物だ。ティアスリーで出会うとは珍しいな』
フェルが感心したように言った。
「上位クラスか……」
スコルはアイアンレッグを見据えながら呟く。
そして迷うことなく剣を突き出した。
「徹骨穿心!!」
閃光を伴った一撃が一直線に放たれる。
だが――。
ガギィンッ!!
金属を打ち鳴らしたような甲高い音が響いた。
必殺技はアイアンレッグの外骨格を貫くことができず、弾き返されてしまう。
「硬っ!?」
スコルは思わず声を上げた。
アイアンレッグは無数の脚を蠢かせながら、不気味な音を立てて迫ってくる。
『フフ……やはり硬いか』
フェルはむしろ愉快そうに笑った。
『だが、ようやくあの技を試せる相手に出会えたな』
「そうだね」
スコルの口元にも笑みが浮かぶ。
スコルは魔道具店で中級剣術の奥義書を手に入れ、すでにその必殺技を習得している。
しかし威力が高すぎるため、これまで試す相手がいなかったのだ。
そして今、その機会が訪れた。
スコルは深く腰を落とし、全身のマナを剣へと集中させる。
膨大な魔力が唸りを上げ、刀身の周囲に渦を巻いた。
「行くよ――」
次の瞬間。
地面を砕きながらスコルが飛び出した。
「必殺技――渦天穿墜!!」
全身のマナを極限まで圧縮し、剣先へ集中させる。
さらに超高速の回転を加えることで、破壊力を極限まで高めた一撃。
その威力は城門すら粉砕し、着弾した衝撃が後方へ円錐状に突き抜けるとされる。
ゴォォォォォッ!!
轟音とともに放たれた一撃は、アイアンレッグの外骨格を容易く穿った。
回転する剣先が装甲を削り取り、そのまま腹部を貫通する。
黒い体液が飛び散った。
だが――。
アイアンレッグはまだ倒れない。
致命傷には至っていなかった。
「すごい……」
スコルは目を見開いた。
「霊装剣を使ってないのに、この威力なんだ……!」
剣に残る膨大な破壊の余韻に、スコル自身が驚きを隠せなかった。
『ギシャァァァァァッ!!』
アイアンレッグは凄まじい咆哮を上げた。
腹部を貫かれた怒りからか、その無数の脚を激しく蠢かせ、狂ったように暴れ回る。
次の瞬間――。
ブシュッ!
大顎の隙間から紫色の毒液が勢いよく吐き出された。
「っ!」
スコルは横へ飛び退き、間一髪でそれをかわす。
毒液が床に降り注いだ瞬間、石畳がジュウッと音を立てて溶けた。
「危なっ……!」
もし直撃していれば、ただでは済まなかっただろう。
だが、その攻撃で勝負は決まった。
毒液を吐いたことで、アイアンレッグの頭部が大きく晒されたのだ。
スコルは剣を構え直し、全身のマナを一点へ集中させる。
「これで終わりだ!」
地面を蹴り、一気に間合いを詰める。
「――渦天穿墜!!」
轟音とともに放たれた一撃は、竜巻のごとき回転力を纏いながら一直線に突き進んだ。
そして――。
ドゴォォォォン!!
アイアンレッグの頭部へ直撃する。
硬質な外骨格が砕け散り、衝撃波が通路の奥まで突き抜けた。
『ギ……ギシャ……』
断末魔を漏らしたアイアンレッグは、その巨体をぐらりと揺らす。
やがて力尽きたように崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
『うむ。見事だ』
フェルが満足そうに言った。
『すっかり必殺技をものにしたな』
「でも、結構危なかったよ」
スコルは額の汗を拭いながら苦笑した。
「解毒ポーションを持ってなかったからね。あの毒液が当たっていたら、どうなっていたかわからないし」
『ふむ。それは確かにな』
フェルも珍しく同意した。
「今度街に戻ったら、解毒ポーションも買っておこうかな」
そう言いながらスコルは、倒れたアイアンレッグの巨体へ視線を向けた。
「あれ、ひょっとしてこいつがダンジョンボスってやつ!?」
『いや、違うな』
フェルは即座に否定した。
『ダンジョンボスと呼べる存在が現れるのはティアワン級のダンジョンだけだ。こやつはチェスト・ガーディアンだ』
「チェスト・ガーディアン?」
『宝箱を守護する魔物のことだ。強力な宝が眠る場所には、それを守る番人が配置されていることがある』
フェルは倒れたアイアンレッグへ視線を向けた。
『そしてチェスト・ガーディアンが現れたということは――』
フェルの声に僅かな期待が混じる。
『そこの宝箱、かなり期待できるのではないか?』
「ほんとに!?」
スコルの目が輝いた。
先ほどまでの疲れなど吹き飛んだように宝箱へ駆け寄る。
そして期待に胸を膨らませながら蓋を開いた。
カパッ――。
中に入っていたのは、銀色に輝く一本のチェーンベルトだった。
「……なんだこれ?」
スコルは首を傾げながら取り出した。
見た目はただのベルトにしか見えない。
しかし、それを見た瞬間――
『おおっ!?』
フェルが珍しく大声を上げた。
『これは縮界のチェーンベルトではないか!!』
「縮界のチェーンベルト?」
スコルは首を傾げる。だがフェルの興奮は収まらない。
『縮界系統の魔導器は内部に異空間を形成するが、その中でもこのチェーンベルトは群を抜いておる。
あのドラゴンですら何体も収納できるほどの容量を持っておるからな』
「ええっ!?」
スコルは思わず声を裏返らせた。
『うむ。ティアスリーのダンジョンで手に入る代物ではない。本来ならティアツー級ですら滅多に見つからぬ逸品だ』
『これは大当たりだな』
フェルは満足そうに言った。
「そんなに凄い物だったの!?」
スコルは慌ててチェーンベルトを腰へ巻き付ける。
すると微かなマナが流れ込み、ベルトと自身が繋がった感覚が伝わってきた。
「これなら魔物をいくら倒しても大丈夫そうだね!」
ハズレだと思っていたダンジョンで、まさかの大当たりを引き当て、スコルは思わず満面の笑みを浮かべた。
それから、スコルは回収しきれなかった魔物の亡骸を新たに手に入れた縮界のチェーンベルトへ収納しながら、ダンジョンを出た。
『門を見てみろ』
ダンジョンを出たところで、フェルがふいに言った。
スコルは振り返り、巨大な石門へ視線を向ける。
「あれ?」
先ほどまでとは様子が違っていた。
門の上部に刻まれた古代文字が淡く輝き、その光は赤、青、緑、黄と次々に色を変えながら七色に煌めいている。
「あれ、門の上が七色に光ってるね。こんなのあったっけ?」
『これは攻略完了の証だ』
フェルが答えた。
『ダンジョン内に存在する宝物を全て回収すると、その光が現れるのだ』
「えっ、それって――」
スコルの目が輝く。
「つまり、僕がこのダンジョンを攻略したってこと!?」
『そういうことだ』
フェルは満足そうに頷いた。
『もっとも、ティアスリーの小規模ダンジョンではあるがな』
「それでも初めてのダンジョン攻略だよ!」
スコルは嬉しそうに笑った。
するとフェルが続ける。
『攻略を終えたダンジョンは、やがて役目を終える。数年もすれば消滅し、また新たに大陸のどこかへ出現するのだ』
「へぇ……」
スコルは七色に輝く門を見上げた。
「なんだか生き物みたいだね」
『ある意味では、その認識も間違っておらぬ』
フェルは意味深に言う。
『ダンジョンそのものが、古代文明によって造られた巨大な古代魔導器だからな』
「ダンジョン自体が……古代魔導器?」
スコルは思わず門を見つめ直した。
宝物を生み出し、魔物を育み、役目を終えれば姿を消して別の場所に現れる。
そんな存在がただの建造物であるはずがない。
七色の光を放つ門は、まるで自らの攻略を祝福するかのように静かに輝き続けていた。
それから、スコルはペティット村へと戻った。
村へ入ると、広場には大勢の村人たちが集まっていた。
冒険者が調査に向かったと聞き、結果を気にして待っていたらしい。
「おお、戻られましたか!」
カイロの祖父が真っ先に駆け寄ってきた。
「ご無事だったようですね。それで、何かわかりましたか?」
「はい。まず、皆さんが見たという鰐の魔物ですが――」
スコルはそう言うと、インベントリからハリゲーターの亡骸を取り出した。
「こいつですよね?」
「そうです!」
「ああ、間違いない!」
村人たちが口々に頷く。
スコルは一度周囲を見回してから口を開いた。
「どうやら、森の奥に迷宮が出現したみたいです」
「ダンジョンだって!?」
その言葉に村人たちが一斉にざわめいた。
不安そうな表情を浮かべる者も少なくない。
するとフェルが声をかけてきた。
『心配はいらぬ。ダンジョンは村から十分に離れておる。それに、魔物の大半はダンジョンの外へ出ることなく内部に留まるものだ。そのことを伝えてやれ』
スコルは頷き、フェルに言われた内容をそのまま村人たちへ説明した。
「ですから、すぐに村が襲われるようなことはないと思います」
「そうなのですか……」
「それなら少し安心だな」
村人たちの表情から緊張が和らいでいく。
さらに、ダンジョンは数年で消滅することを話すと、村人たちは安堵の息を漏らした。
「ありがとうございました」
「本当に助かりました」
「さすが冒険者様だ」
次々と感謝の言葉が飛んでくる。
スコルは少し照れくさそうに頭を掻いた。
その後もしばらく礼を言われ続けたが、やがて日も傾き始めたため、スコルは帰路につくことにした。
村人たちに見送られながらペティット村を後にし、ハヌンへの道を走り出した。
ハヌンへ戻るなり、スコルは解体屋へ向かった。
目的はもちろん、討伐した魔物を売却するためである。
なお、冒険者ギルドの駆除依頼で討伐した魔物は、特殊な個体でもない限り、ギルドと提携している解体屋へ直接持ち込み、討伐証明書を発行してもらう決まりになっていた。
その証明書をギルドへ提出することで、正式に依頼達成と認められるのだ。
王都ハヌンの解体屋の多くは冒険者ギルドと提携している。
スコルは自宅から最も近い解体屋へ足を運んだ。
店の中へ入ると、獣臭と血の匂いが鼻をつく。
「すみません。こちらは冒険者ギルドと提携していますか?」
スコルは念のため確認した。
「ああ、提携してるぜ」
奥で刃物を研いでいた男が顔を上げる。
「見ねえ顔だな。新米冒険者かい?」
「はい。最近冒険者登録したスコルといいます」
「そうか」
男はニヤリと笑った。
「俺はこの店の店主、ザレスだ。それで今日は何を持ってきたんだい?」
「フェイドマウスをたくさん狩ってきたんです」
「フェイドマウスか。なら、そこのテーブルに並べてくれ」
ザレスは店の中央にある大きな解体台を指差した。
それを聞いたスコルは、インベントリからフェイドマウスの亡骸を次々と取り出し、テーブルの上へ並べていった。
一体、二体、三体――。
並べられたフェイドマウスはみるみるうちに増えていく。
十体を超えたあたりで、ザレスの表情が変わった。
「お、おいおい……なんだその数は!?」
さらにフェイドマウスが積み上がっていく。
「どうしたんだこれ!? まさか全部お前が狩ったのか?」
「はい」
ザレスは呆れたように頭を掻きながら数を数え始める。
「……二百十、二百十一、二百十二、二百十三」
そこでようやく数え終えた。
「全部で二百十三体か……」
ザレスは信じられないものを見るような目でスコルを見た。
「すげえな。普通なら五体狩れれば上出来だぞ」
そう言って、再びフェイドマウスの山へ視線を向ける。
「こんな数を持ち込まれたのは初めてだわ」
感心したように笑うと、ザレスは机の引き出しから数枚の書類を取り出した。
「ほらよ。こっちが魔物を受領した証明書だ」
そう言って一枚の書類を差し出す。
「これを冒険者ギルドへ持って行けば、依頼達成の手続きをしてくれる」
「ありがとうございます」
スコルが受け取ると、ザレスはもう一枚の書類を差し出した。
「それと、こっちは端数の三体分だ」
「端数?」
「ああ。フェイドマウスの駆除依頼は十体で一件扱いだ」
ザレスは指を立てながら説明する。
「二百十三体なら二十一件分と、余り三体ってことになる」
「なるほど」
「だから、この書類は取っておけ。あと七体狩れば一件分として合算してやる」
ザレスは念を押すように言った。
「なくすんじゃねえぞ。こういう書類を失くして泣きを見る新人は意外と多いからな」
「わかりました。大事に保管しておきます」
スコルは書類を受け取ると、少し申し訳なさそうに口を開いた。
「あの……まだ魔物があるんですが……」
「まだあるのか!?」
ザレスは目を丸くした。
「おいおい、二百体以上持ち込んでおいてまだあるのかよ。ちょっと待ってろ、今フェイドマウスを片付ける」
そう言うと、ザレスは手際よくフェイドマウスの亡骸をインベントリへ収納していった。
やがてテーブルに空きができた。
「よし、出してみな」
「はい」
スコルは頷き、ダンジョンで討伐した魔物たちを次々と並べていった。
ハリゲーター。
アイアンレッグ。
その他、地下迷宮で倒した魔物の数々。
それらを見たザレスの眉がぴくりと動く。
「こりゃまたすげえ量だな……。それに、この辺じゃ見ねえ魔物ばかりだ。まさか――」
ザレスはスコルを見た。
「ダンジョンか?」
「そうです」
スコルは苦笑した。
「森を調査していたら見つけちゃって」
「やっぱりな」
ザレスは納得したように頷く。
「ギルドには報告したのか?」
「まだです」
スコルは首を振った。
「一応、帰ってきたばかりなので」
「なら早めに行っとけ」
ザレスは腕を組みながら言った。
「ダンジョンの発見は報告義務があるからな」
「そうなんですね」
スコルは感心したように頷いた。
そして、ふと思い出したように尋ねる。
「そういえば、ダンジョンの宝箱って勝手に開けてよかったんですか? あとで怒られたりしません?」
「はぁ?」
ザレスはきょとんとした顔をした。
次の瞬間、豪快に笑い出す。
「ガハハハハ! 何言ってんだ!」
「え?」
「宝なんざ早い者勝ちに決まってるだろ!」
ザレスは当然だと言わんばかりに言った。
「見つけた奴が取る。それが全てだ」
「そうなんですか」
ザレスは並べられた魔物を指差した。
「それとダンジョンは宝だけじゃねえ。珍しい魔物や素材も手に入る」
「なるほど」
「だから冒険者にとっちゃ狩場でもあるってわけだ」
ダンジョンは財宝だけでなく、希少な魔物や素材を産出する貴重な資源の宝庫である。
そのため冒険者ギルドは新たなダンジョンの発見情報を管理し、冒険者たちへ公開していた。
多くの冒険者にとって、ダンジョンは危険であると同時に、一攫千金を夢見られる場所でもあるのだ。
「それで代金の方だが――」
ザレスは計算書を見ながら言った。
「フェイドマウスは一体につき銅貨十枚での買取だ。二百十三体だから、銀貨四十二枚と銅貨三十枚になる」
「はい」
「それから、ダンジョン産の魔物だが、こっちは全部で四十八体だな」
ザレスは並べられた魔物を指差した。
「こっちが銀貨三十四枚と銅貨十五枚だ」
そう言うと、鑑定を終えたザレスはカウンターの上に代金を並べた。
積み上げられた銀貨の量に、スコルは思わず目を丸くする。
「結構な額になったね」
「そりゃこれだけの量を持ち込めばな」
ザレスはニヤリと笑った。
「特にダンジョン産の魔物は珍しいから、それなりに値が付くんだ」
スコルは代金を受け取り、インベントリへ収納した。
するとザレスが声をかけた。
「スコルって言ったな」
「はい」
「新人とは思えねえ稼ぎっぷりだったぜ」
ザレスは豪快に笑う。
「また魔物を狩ったら持ってきてくれ。こっちとしても助かるからよ」
「はい、その時はまたお願いします」
スコルは頭を下げた。
「ありがとうございました」
「おう、気をつけて帰れよ」
ザレスに見送られながら、スコルは解体屋を後にした。




