14.エピローグ
「火事の日からお会いできなくなって心配しておりましたよ!」
王都へと帰ってきた私は、数日と立たずナタリエ様に呼び出されていた。
招待されて訪れたナタリエ様のお屋敷は大きくて、圧倒されているうちに、メイドが現れてあれよあれよと連れていかれた。
私のお屋敷の2倍はありそうな広さと豪華さに、萎縮して小動物のようにぷるぷると震えている。
「ご、ごめんなさい」
「何はともあれ、ご無事で何よりですの」
ふぅ、とため息を吐く姿がなんとも様になっていて、謝っているはずなのについ見惚れてしまう。
テーブルの上に広げられているケーキの多さは相変わらずだ。
他のご令嬢や来客の時はこんなにケーキを置かないそうだが、私相手だと気楽でいられるらしい。
ちょっぴり嬉しい。
「それにしても、そうですのね……。テイル様とフィニアス様が……」
「……」
手紙に書いていたとはいえ、言及されて私はぼふんと顔を赤くした。
もじもじと指を合わせて視線をさ迷わせていると、ナタリエがくすくすと笑っている。
「照れているテイル様は貴重ですわね」
「わ、私だって恥じらいというのはありますの」
毎日毎日大勢の前で好意を伝えていたくせに今更、というのは私だってわかっている。
それとこれとは話が違うと言いたいのだが、どうしても言えない。
う、うぅ、と言葉を詰まらせてしまう。
「テイル様は今後大変だと思いますが、私はテイル様の一番のお友達なのですから、いつでも頼ってくださいまし。むしろ頼ってくれなければ怒りますからね」
「お、怒る」
「えぇ、それは、とても」
にっこりと笑うナタリエ様の後ろに黒い影が見えるのは気のせいだろうか。
しかし、一番のお友達と言ってもらえるのは素直に嬉しい。
私には友達が少なかったのだ。ナタリエ様とは今後も長く付き合っていきたい。
これは私が阿呆だったのだが、フィニアス様は伯爵家の人間だというではないか。
今までろくな教育を受けていなかった私は、その事実を聞いて身を縮こませてしまった。
しかも、王が代わったということで、忙しさを極めているらしい。
道理であの日、フィニアス様の様子がおかしかったわけだ。
フィニアス様は別に何かをしなくてもいいとは言ってくれているが、支えたいと思う気持ちは私にもあり、目まぐるしい毎日がこれから待ち受けていた。
「ところで、見学にいらっしゃらないのは、どうしてかしら?」
「うっ」
そうなのだ。王都に帰ってきてから、私は一度もまだ見学へといけていない。
忙殺されているフィニアス様がいらっしゃらないかもしれないのだから、いっても仕方ないというのは言い訳で、思いが通じ合ってから私はなんとなく、フィニアス様と会うのが恥ずかしくなってしまった。
「あ、あの、明日は、明日は……行こうと、思いますわ」
「約束ですわよ?」
「はい……」
フィニアス様と最後にあってから、ふとした時に交わした口づけを思い出してしまい、叫び出したいほどの感情が沸き起こっていた。
自分がこんなになってしまうなんて、私が一番予想外だ。
根掘り葉掘り聞いて来ようとするナタリエ様を何とか交わし、数カ月ぶりの会話を楽しんだ。
こんなにもよくしてくれる友達がいて、私は幸福だ。
いつかナタリエ様にも、私の秘密を打ち明けたいと思っている。
■□■□
翌日。私は数えきれないほど訪れていた場所へと足を踏み入れるのに、ものすごく緊張していた。
右手と右足が一緒に出ていたとさえ思う。
いつもの定位置へといけば、騎士の方々がにやにやとした目で私を見てくる。
もしかして筒抜けなのではなかろうか。
今までのようにフィニアス様と接する自信は皆無だ。
現れたフィニアス様のお姿に、胸をときめかせて私は食い入るように見つめた。
「あぁ、やはり訓練中のフィニアス様の凛々しさは別格ですわ。美しく、かっこよくて、そして麗しい。奇跡でも見ているようですの。輝いて見えてしまって、眺めている間は時間を忘れてしまいますわ」
どうやら私は底抜けに阿呆らしく、訓練が終わったあと、いつものようにフィニアス様へと声をかけていた。
ほぅ、と息を吐くところまでいつも通りだ。
しかし、フィニアス様を見上げて、私は固まってしまった。
「あ、あの」
領地の屋敷であったように、フィニアス様のお顔が真っ赤に染まっていたのだ。
こんなことになるのならお願いだから、いつものように聞き流してほしかった。
「い、いや。すまない。見ないでくれ」
「そんな!ご無体な!」
思わず声を張り上げれば、周りがもうにやにやを超えてくすくすと笑っている。
見世物にしないでいただきたい。
「……はぁ」
深くため息をついたフィニアス様の吐息のなんと艶めいていることだろう。
思わず見惚れてしまうのは仕方ないだろう。
「お前が悪いからな」
その言葉が聞こえるのよりも、私の体は大きな体に包み込まれた。
一瞬で頬を赤く染め、言葉にならない声を漏らして固まる私と、大切に優しく抱きしめてくるフィニアス様。
そして周りは目を逸らすという気遣い。
「攻められると弱いのか。良いことを知った」
かちんこちんに固まっている私を楽しそうに見ている姿のなんと甘いこと。
胸やけがしそうなくらいの甘さに頭がくらくらとした。
「知っているか、テイル。お前はそこそこ人気があるんだ」
「は、はぇ」
人気とは何だというのだ。
マスコット的なものだろうか。
私はフィニアス様一筋なので、意味がわからない。
「すまない。もう逃がしてやれない」
そう、フィニアス様が言ったあと、頬に感じる柔らかい感触。
もう何も考えられない私は、それでもこれだけはと言い残した。
「えぇ、私を捕らえて、救ってくださいまし。私がフィニアス様を救い続けますわ」
完結となります!
お付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。
お盆でせこせこと書いていたものでした。
いいね、ご評価いただけますと幸いです。
後日活動報告にて色々書き残したいと思います。




