リアンのお願い
今日は久しぶりの休日である。
料理人に弁当を作ってもらい、リアンが操り、マルコゲが引く竜車に乗ってピクニックにでかける。
久しぶりの外出だからか、ハト・ポウも嬉しそうだった。
『イルゼ様、今日はいい天気で、空を飛ぶのも気持ちがいいですねえ』
「ええ、そうね」
向かう先は竜車に揺られること一時間、アイスコレッタ家の領地でもある平原だ。
今のシーズンはヒースの花が美しく咲いているという。
マルコゲと戯れるため板金鎧を装着しているうちに、到着した。
竜車の扉を開くと、リアンが手を差し伸べてくれる。
そっと指先を重ねると、優しく引き寄せられる。
「リアン、今日は板金鎧をまとっているから、丁重にエスコートしなくても大丈夫だから」
「イルゼがどんな恰好をしていようと、大切に扱いたいと思っているんです」
「そう、ありがとう」
そんな言葉を返すと、リアンは嬉しそうに頷いた。
兜で表情は見えていないのに、不思議とわかるのだ。
ひとまず、ここまで連れてきてくれたマルコゲを労う。
「マルコゲ、疲れていない?」
問いかけに対し、『クルルル』と愛らしい声で返す。大丈夫だと言っているような気がした。
顎の下を撫でると、嬉しそうに尻尾を左右に振り始める。
しばし、マルコゲと話しつつ、撫で続けていたら、何やら背後から圧力を感じた。
振り返った先にいたのは、リアンだった。
「リアン、どうしたの?」
「マルコゲはずるいです」
「どこがずるいの?」
「イルゼに可愛がってもらっているので」
リアンはこれまで、一度も可愛がってもらった覚えなどなかったと訴える。
「これまであなたに、ずいぶんと優しくしてきたような気がするけれど?」
「優しくしてもらうのと、可愛がってもらうのとは、わけが違うんです!」
「たとえば?」
「それは、まず、イルゼの声が違います」
「どういうふうに?」
「甘ったるい声なんです」
たしかに、マルコゲと接するときは少しだけ声が高くなっているような気がした。
それを改めて指摘されると、恥ずかしくなってしまう。
羞恥心を紛らわすために、さらなる質問をぶつける。
「それだけ?」
「あとは、優しくよしよししています」
たしかに、そのふたつを合わせた行為はリアンにしていない。
「それで、リアンは私に可愛がってもらいたいの?」
「実はそうなんです!」
ここまで堂々と言われてしまったら、叶えないといけないだろう。
仕方がないとため息をつきつつ、マルコゲから離れる。
ヒースが望める花畑を前に敷物を広げ、その場に座った。
リアンを手招き、膝に寝るように指示する。
「い、いいのですか?」
「可愛がってもらいたいんでしょう?」
「っ、はい!!」
リアンは喜んで横たわり膝を枕にした。
それからリアンを優しく撫でる。
そして、心なしか高い声を意識し、リアンに話しかけた。
「リアンは毎日頑張っていて、偉いわ」
「はい!!」
遠慮がちに二、三度撫でると、「もっとたくさん撫でてください」と懇願してくる。
「リアン、あの、こんなのが嬉しいの?」
「最高です!!」
私達はお互いに板金鎧姿である。見守るハト・ポウは「鎧姿でそんなことをして、何が楽しいんだ」と言いたげだった。
「リアンはとってもいいこ」
「はあ……とても嬉しいです」
リアンが嬉しいんだったらいいか。そう思って、この不可解な可愛がるという行為を続けたのだった。




