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008.アンハルト家からの流行拡散計画

改稿後になります。

 齢三十過ぎの人間が七歳の少女のフリをするなんて事が、そもそも出来る筈もなかったのだと思う……。

 たった二年でソフィアの家族にバレてしまった。

 両親が言うには、隠しきれていなかったのだ。


 焼き芋も精油もコーディアルもチェンバロで弾いた前世での曲も刺繍も、色々とこちらの規格外だったということが分かった。全然擬態出来てなくて、家族が目をつぶってくれていただけらしい……。

 冷静に考えなくても、確かにおかしいなと思う。

 言われれば、まぁそうだよねと納得がいくものばかりで。

 何で大丈夫だと思ったのか、今更ながらに己の浅はかさにはため息が出る。


 魔女だの悪魔だの言われて異端審問のようなものにかけられることもなく、これからもソフィアとして生きていけることになったのは、僥倖である。アンハルト家のみんな、心めっちゃ広い。

 娘の身体を乗っ取ったと言われて、酷い事をされてもおかしくない。全然おかしくないのに、しないのは両親が理知的である事と、結局この身体がソフィアのものである以上、私が望むと望まざるに関わらず、人質にしているようなものだ。下手に刺激しない方が良いと思ったのかも知れない。


 ……でも、多分違う。

 私に直感なんてものも特別な力も無いけれど。

 彼らはとても善良で、私のような何処の馬の骨とも知れぬ奴を受け入れようとしてくれている。

 あぁ、ソフィアに戻ってきて欲しい。こんなにも大切に、愛されているんだから。

 父は五歳の時の高熱でソフィアは死んでしまったのだろうと言ったけれど、それなら何故、私はここにいるんだろう。

 どうしてもそれが気になる。


 ソフィアを取り戻す手段を調べる為にも、魔力があったのは良かったと思うのだ。

 帝都の学院なら立派な図書館などがあったりして、そこに何かヒントみたいなものがあるのではないか。少なくとも淑女教育の為の女学院よりは蔵書はあるだろう。


 何もしないまま、ソフィアが返って来るのを待っていたけれど、そんな気配はこの二年間に全くなかった。

 この身体が自分のものならばそれでも良い。

 でも、そうじゃない。

 大人になってから戻っても困る事ばかりだろう。だから早くソフィアを取り戻さねば。

 無理や無謀な事はしないとしても、出来る事をしないのは駄目だ。

 あの人の良い家族の為にも。







 朝食は小麦を使ったパンと肉を塩、胡椒で焼いたもの。それと果汁。これが毎日。飽きた。本当に飽きた。


「お父様……相応しい振る舞いではないと分かっておりますが……私……料理がしたいです……」


 かつての私だったら言下に却下されていただろう。けれど先日の家族会議で私が別世界での人生経験を持っていることを知った家族は、あれから私の言うことを否定しない。

 受け入れたと言うよりは、学院に上がる迄の三年間でどれだけこちらの世界とズレているのかを把握する為に好きにして良いということのようだ。


 結局のところ料理はさせてもらえない訳だけれど、マリエルに細かく指示をしてスクランブルエッグを作ってもらえるようになった。今朝は新メニューの朝食だ。パンとスクランブルエッグと、レタスを手で千切った簡単サラダに、塩・胡椒・酢・オイルを混ぜて作ってもらったイタリアンドレッシングをかけてもらった。

 ハムとかベーコンは作り方を教えたものの、まだ完成しない為、おあずけである。あぁ、現代と言うかあっちの世界と言うか……現代日本は本当に便利でした。


 出来上がった料理を見て家族は微妙な表情をしていたけれど、食べ方を教えながら食べると、みんな目を丸くして食べていた。貴族は基本肉ばかり食べており、野菜をあまり食べない。なんだこの不健康生活。

 そんな食生活は正しくないのだ説明したところ、なんとなく分かってもらえたようだ。特に美容という言葉を出してからの母と姉の食いつきは素晴らしかった。どの世界でも女性にとって美容はパワーワードの模様。


 野菜を何故食べないのかと尋ねると美味しくないからとのことだったので、食べ方を聞けばそれは当然のこと。なんの味付けもせず食べていたのだ。

 かけたところで塩。

 そんなの草食動物ぐらいしか好きじゃないと思う。ドレッシングがかかって味のある野菜なら美味しくいただけるということだ。むしろ普通。


 家族は満足していたが、私は不満が沸き起こった。

 何しろ野菜の種類が少ない。慣れ親しんだトマトなんかない。ある訳ない。

 ……いや、厳密に言えば世界が違うのだから、あったりするのかも知れないけど、形状なんかをいくら説明しても分かってもらえなかったあたり、少なくともこの国にはない。

 トマトとはアンデス山脈の高地に自生する植物だった。海を渡ってヨーロッパにたどり着くのがいつかは知らないけど、そういったものはまだ起こってないということだ。あるかも不明だけど。


「ソフィアの知る世界では、料理の文化が凄い進んでいるんだね」


 父親の言葉に私は頷いた。朝食に大変ご満足いただけたようで何よりである。


「様々な国の料理を楽しめる世界でした」


 食いしん坊な父と私は、食事にかなりこだわっていた。その為に自作することも厭わなかった。こちらの世界の農業もいつか見て見たいなと思った。主に己の食生活向上の為に。


 一時期何でも自作するのにハマって、ソースやらマヨネーズなんかも自作していた。そのうちこれらも作ってもらおうと思っている。調味料は食生活を大いに向上させてくれる大変ありがたいものだ。

 絶対に外せない。




 薔薇のエッセンシャルオイルとキレイな水を混ぜたものを洗顔後に肌にしみこませ、まさか存在するとは思っていなかったシアバターを手の熱で溶かし、肌にしみこませて完了である。シアバターと言う名前ではなかったけど、匂いとか諸々が同じに思える。


 母と姉は半信半疑だったが、私の肌が明らかに変わっていく様を見て我慢出来なかったようだ。二人とも一週間程で肌の質感が変わったようで大喜びである。潤いは大事です。

 化粧水はなくてもいいけれども、あったほうが皮膚に水分を与えることが出来るし、その上から油分で皮膚をコーティングすれば皮膚から水分が失われるのを防げて、潤い肌になるという寸法です。

 姉は青春のシンボルであるニキビが減っていることが何より嬉しいようだった。皮脂のバランスが崩れることで起こるからね、ニキビは。

 それと薔薇には炎症を押さえる効果があるから二重に効果的だと思う。


 パサつく髪にも薔薇のオイルを少し混ぜたオイルでさっとまとめておくと、表面につやが出来る。毛先が最も傷ついているので、気持ち多めにオイルをつける。


 こちらの世界には石鹸はあるものの、リンスが存在しなかった為、髪がきしんでいた。シャンプー後にレモンもしくはお酢を垂らしたお湯で濯ぐことで、大分髪のきしみが取れた。母と姉は髪の指通りの良さに喜びを隠しきれないようで、何度も鏡に髪を映していた。こういう女子の反応って可愛いくて好きだ。


 石鹸をおろし金で削って煮溶かし、そこにラベンダーなどのハーブを粉にしたものを加えてもう一度固めるなどして、いい香りのする石鹸を何種類か作ってみた。これで身体を洗うのだ。


 木を削って作った器に蜜蝋とシアバターを煮溶かしたものを入れ、固まったら指の熱でちょっと溶かしながら唇に塗る。

 うん、唇が乾燥すると裂けて血が出るからね! 唇が乾燥すると病気になりやすくなるから油断大敵だ。無論、これも母と姉に献上済みである。


 それにしても、まさかこんな形で前世での自作経験が役立つとは思ってもみなかった。なんというか、前世の何でもやってみたい精神だった自分めっちゃグッジョブ。

 とは言え、極めるまではしていなかったから、ここら辺が私の限界なんだけれども。


 冬になったら、マリエルに教えて全身をオイルでリンパマッサージしてもらいたい! これなら冬で散歩が出来なくて身体がだるくなっても大丈夫ですよ!




 レース編みでリボンを作ろうとしたが、それ用の細い編み針がない。


 普通の編み針はあるけど、レース用の細い針がない為、庭師のハリーに頼んで細いのを木で作ってもらった。ハリーは手先が器用だし、私の言う内容をすぐに理解してくれるので大変ありがたい。リップを入れる容器だってハリーに作ってもらった。蓋付きの作りかたを今度教えよう。


 今はハリーに刺繍をしやすくする為に前世で使っていた、丸い木の枠(刺繍枠)を作ってもらっているところだ。木を単純に丸くくり抜けばいいというものではない。木を木目にそって薄くへぎ、端と端に穴をあけておいたものを熱湯につけて柔らかくして円になるように曲げていき、正円にして開けておいた穴を針金で止める。

 前世ではネジのようなものがついていて、それで布の張りを緩めたりといったことが出来たが、こちらの世界ではちょっと難しそうだし、木の枠と枠を重ねるだけでも布に張りを出すことが出来るから、とりあえずそれでいい。そういえばこの技術でもって、丸い箱を作ってもらえないかな。こちらの世界の箱はみんな四角で、丸い容器は紙で作ったものしか存在しない。もし出来たら画期的だと思うんだよね。


 冬になったらマフラーと手袋を作ろう。手首のところにレースを付ければ女子っぽくて更にいい気がする。


 機織りもやらせてもらっているが、これは前世でも経験済みだ。前世から好きな作業で、時間の経つのを忘れてしまうくらいに楽しくて仕方がない。生成りの糸を真っ青に染めてもらい、生地になったら、鳥の図鑑に載っていたカンムリシロムクの刺繍を施してストールにする予定なのだ。学院に行く前に完成させられたらいいな。







「わずか一月でこれだけ出てくるとは、ちょっと怖ろしいね……」


 マリエルから逐一報告を受けていたらしい父が、苦笑しながら言った。


 手には完成した刺繍枠がある。さすがハリー。仕事が早い。使ってみた感じも前世の記憶とそんなに変わらないので、大変満足である。

 気になっていた端と端を結んでいる針金の部分をキレイにヤスリで削ってあって布を傷つけないように工夫がされている。ハリーへの給金増やしてあげて欲しい、切に。


「刺繍枠についてはこれまでの経緯がありますから、大丈夫だと思います。このレース用の編み針もこちらの世界にも編み針がありますから、説明のしようもあります」


 私がレース編みをしているのを見て、母も姉もすぐに気に入ったようで、ハリーにレース用編み針を二本頼んでいた。ハリー忙しいな……。庭師なのに……。


「広めにくいのは美容に関してでしょうね……とりあえずソフィアの言うリンスから始めてみます」


「あぁ、頼んだよ、イレーネ」


 困ったとは言いつつも、日増しに若返って美しくなる妻を見るのは父にとっても楽しいようではある。


 この後、爆発的にリンスが世の中に広がり、刺繍枠は刺繍があまり得意ではない淑女にそっと広がり、ホームメイド女子たちにレース用編み針が広がっていったのだった。


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