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怪異物語  作者: 嵩下瑛士
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團地編 第1話 最悪の案件

 その団地は、近所でも有名な心霊スポットだ。

 高度経済成長期に建てられたその団地は、かつての人の住居という面影はなく、重々しく無気味な雰囲気を放った心霊スポットと化している。

 この付近を通るもの肝試しに来るほとんどの者が団地が放つ異様な雰囲気に恐怖を覚え、団地の中に入らず逃げるほどであるが、この団地の恐怖はそれだけではない。

 この団地の中に入った怖いもの知らずの人間は正気を失い、2、3年で死ぬということだ。実際にこの団地に入ったとされる人間多くは、2、3年のうちに変死している。


 その日は雨が降っていた。空から降ってくる雨は、地面を叩きつけ町の音をかき消している。街ゆく人は予期せぬ雨に驚きそれぞれ店に入ったり、目的地まで走ったりとさまざまだが、そんな光景を松原啓人はビルの上にある喫茶店のカウンターからコーヒーを飲みながら見下ろしていた。

 夜空と軍艦が描かれた箱から煙草を取り出し口にくわえ、火を点け口の中いっぱいに煙を吸い込む、口の中には甘いバニラの香りが広がった。そして口から煙を吐き出す。辺りには白煙が広がった。

「煙草って、美味しいんですか?」

 隣から可愛らしい声が聞こえてくる。金髪ミディアムカットに青い海のような碧眼をもつ少女、犬神玲奈がいた。玲奈も啓人と同じブラックコーヒーを飲んでいる。

「美味しくないと言われれば嘘になるけど、吸わない方がいいぞ、それに煙草の煙、玲奈は大丈夫なのか? ここは喫煙席だけど」

「私は大丈夫ですよ、煙草の匂い好きなので」

 玲奈はそう言うと啓人が吐いた煙の臭いを子犬のように嗅ぎ始める。変わっているなとは思ったが啓人としては好都合だ。喫煙者が差別されるこのご時世、目の前で喫煙していても良いと言ってくれる存在は貴重な存在である。

「バニラの香りですね、いい香り」

「最高級のバージニア葉を使っているからな、そりゃいい香りさ」

「へえ、先輩って物知りなんですね」

「ははは……」

 啓人はそう言うと啓人の隣に高島教授が座り始めた。

「教授、遅いですよ」

「ごめんごめん、卒業論文の相談に付き合っていたら遅れてしまった」

「まあ、いいですけど。それで、今回の依頼内容は何なんですか?」

 啓人がそう言うと高島は少し顔を渋らせながら言った。

「今回は、結構な難問だが……それと同時にかなり高額な金額が期待できる」

「はあ、ろくでもないこととは予想できてるんで、早めに言ってください」

「分かったよ」

 高島は自身の鞄の中からA3の黄色い茶封筒を出し、その中からお手製の指示書を取り出し啓人に手渡した。

 どうせろくなことが書かれていないことは確かと思いながら、啓人は手渡された指示書に目を通し始めた。

「これが今回の仕事らしいな」

「そうみたいですね、先輩」

 書かれていたのは「天王団地における怪異の解決」この内容を見て啓人と玲奈は嫌な顔をした。

 その理由は一週間前、この天王団地に肝試しに来た若者五人が忽然と姿を消してしまったという事件が起こった。心霊スポットとして有名になっている建物であるため、地元でもかなり有名になっている。

 この場所に仕事が回ってきたのも、このニュースが恐らく原因であろう。

「おいおい……これは、警察の問題じゃねえのか?」

「私も、この問題については正直、関わりたくないです。とてもじゃないですけど手に負えません。火傷程度で済むほど、あの団地はそんな生易しいものじゃないです。私ならともかく……先輩には無茶です!!」

「おいおい、君たち二人ともこの案件却下するのかい?」

「当然ですよ!!」

 いつもと違う玲奈の口調に啓人と高島は驚いたが、それ以上に大きな声を出してしまったので店員や店内にいた客の視線を集めることとなってしまった。

「まーまー落ち着いて」

 高島はそう言うと玲奈をなだめた。玲奈は心底納得がいかないという感じであったが、周りの目を気にしてひとまずは静かになった。

「とはいっても教授、これは俺らじゃなくて警察の問題だ。俺らが介入する理由はなんだ」

「簡単なことさ、これは間違いなく霊的な問題で起こっている」

「根拠は」

「長年の勘……さ」

 啓人と玲奈はため息をついた。この人の道楽で俺ら二人は殺されるのかもしれないと本気で思った。

「ともかく、危なくなったら私を呼べ、それに、別の助っ人も呼んである」

「助っ人?」

「彼女だ」

 高島が指をさす方向を見るとカウンターの奥の席から立ち上がり、こちらに向かってくる女性がいた。

 その女性は、後ろを結った赤い髪と三白眼、眼鏡が特徴的で、スレンダーな体型や服装の趣味から中性的な雰囲気が漂っており、一瞬見ただけでは男とも取れる姿をしている。

「神代市役所、市民課怪異対策班の円内朱里です」

 円内はそう言うと啓人と玲奈に名刺を渡した。これが大人の世界の挨拶というものなのだろうか、二人は名刺を手に持ちながら軽く会釈をした。

「この市にそんな課があるだなんて知らなかった」

「まあ、それはあまり口外出来るようなものではないし」

「なるほど」

「それで円内さん、あなたはどんなサポートを……」

 玲奈がそう言いかけた時、円内は胸元から素早く拳銃を取り出した。その拳銃は警察が持っているような黒塗りのリボルバーだったが、銃身が警察の物よりもずっと長くより強力なことは見て分かる。

「こいつでバーンだ」

「これは……本物?」

「君が今、鞄の中に入れている物と同じだよ、松原啓人君」

 そういうと円内は啓人の鞄を指さした。確かに啓人の鞄の中にはFP45拳銃に似た形状のトランスライザーが入っているが、いつも人に見えないよう鞄の中といっても袋に入れてあり、他人には見えないようにしていたつもりなのだが……。

「まあ、この世界に入ってから日が浅いから仕方ないけど、そんな隠し方じゃあプロならお見通しさ」

 円内はそういうとトレンチコートのポケットから黄色い色のパッケージが特徴的な箱から煙草を取り出す。しかし、マッチで火をつけようにも火が付きずらいのか中々火が付かない。啓人はすかさず円内の煙草の先に火をつけた。

「気が利くねぇ、感謝するよ」

 円内はそう言うと口から煙を吐き出した。その姿を見て高島は深くため息をついた。

「全く、この場に二人も喫煙者が居たら煙くて仕方ない」

「いいじゃないか、そういうことも考慮することも友人としての務めだろう?」

「とりあえず戯れは後にするとして、この案件、彼女が居れば大きな助けとなると思うがやるのかやらないのか、どっちだ?」

 高島はそう言うと啓人と玲奈の方を見た。しかも、勿論断る理由などないよなと言った具合で。

「嫌だって言ってもやらせるんだろうな……」

「まあ、早く解決してほしい案件だし、私は学会で忙しいからね」

 高島の答えに啓人は大きくため息をついた。

「分かった。やりますよ、やればいいんでしょ」

「それでこそ、我が教え子だ。玲奈君も松原君がやると言ったらいいんだろう?」

「不本意ですが、分かりました」

 玲奈がそう言うと高島は嬉しそうにしながら、後で金は入れておくからと言いコーヒーの代金だけおいて店をそそくさと出ていってしまった。

 雨が降っている街並みの向こうに見える天王団地は天候もあっていつも見るより恐ろしく見えた。

やっと小説更新が出来ました。去年の12月辺りから色々あって更新できずにいましたが、これからは定期的に更新できたらいいなと思っています。引き続き怪異物語を応援してくれたら幸いだなと思います。

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