ブレ
態度、考え方、方針などがあれこれと揺れ動くこと。
見た目のクールさを裏切らず、弥生の手は冷たかった。もっと言えば小さくて、しっとりスベスベだった。
(い、勢いで手、繋いだけど……も、もうちょっとこのままでいいかな? ってか、俺、手汗とかかいてないかな?)
「……ねぇ」
「は、はいっ!」
内心、ドキドキしていたところに声をかけられ、慎吾は肩を跳ねさせて上ずった声を上げた。
とは言え、手は繋いだままで。振り向いた慎吾の前で、手を引かれて俯いたままの弥生が口を開く。
「前に言ってたわよね、なんで笑わないのかなって……それは、こうなるからよ」
『こう』と言われて、先程の女子トイレでのやり取りを思い出す。
抜け駆けだの、調子に乗っているだの。翔生が絡んだせいだとしても、ちょっと笑っただけであそこまで言われるなんて。
「女子はああだし、男子もすぐ勘違いするし。面倒だからって距離置いたら、ディスってくるし……三次元って、絡まないと死ぬの? 寂しいと死ぬって、兎アピールなの? 可愛いとでも思ってるの?」
「う、ゴ、ゴメ……っ」
淡々と語られる内容は、辛口だがいちいちもっともで。
今回、まんまと勘違いした慎吾としてはグサグサ刺さるし、弥生に謝ることしか出来ない。
そんな慎吾の視線の先で、弥生が言葉を続ける。
「……樹里は、別だけどね。同じじゃないけど好きなものがあるから、私が何してもブレなくて、楽なの」
慎吾の前なので、笑いこそはしなかったが――声のトーンが、明らかに変わった。
『樹里』と言うのは、翔生がうっかり漏らした『相模さん』の下の名前で。面食いの慎吾からすれば平凡にしか見えないが、美男美女の二人にこれだけ思われているなんて大したものだと思う。
(だけど……いや、だったら、俺だってっ!)
平凡どころか負け犬で、空気を読まないKYだけれど――それでも、いや、そんな慎吾だからこそ出来ることがある。
「なら、笑いたい時は俺に笑いかければ!? ほら、俺KYだから信者なんていないしっ」
「…………」
「ぶ、ぶっちゃけドキドキはするけど、間違ってもディスったりはしないから!」
勢いのままに宣言をした慎吾に、弥生は顔を上げたが――返されたのは沈黙と、いつもの無表情だった。スベったことに耐えられず、言葉を続けた慎吾の手が不意に引かれる。
……先程とは逆に、前に出た弥生に手を引っ張られる形になったので顔は見えなかったが。
「それも、悪くないかもね」
そう言った弥生の声は、あの時に見た笑みのように柔らかくて優しかった。




