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オジコン  作者: 渡里あずま


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3/8

ハードル

乗り越えなくてはならない、困難な物事。

「……俺と、つき合ってくれ」


 生まれて初めての『自分からの』告白。

 一方、翔生に告白された少女――樹里は、頬を染めながら振り向いた。

 その可愛くはにかむ様子が、次の瞬間、一変する。


「私、おじさんしか興味ないから。むしろ、ガキとか無理」



「……っ!」


 弥生のように容赦のない台詞と眼差しに、翔生は思わず飛び起き――夢だと気づくと、深い深いため息を吐いた。


「はぁ……」


 流石に翔生も、万人に好かれるとは思ってない。それ故、男友達がいないのは仕方ないし、自分に関心のない娘とは(大抵、他に好きな相手がいるので)無理せず距離を置いていた――今までは。


(だから、初めてなんだよな)


 嫌われているのに、気になって仕方ない。

 こっそり観察していると、笑顔もだがくるくる変わる表情自体が可愛い。器用ではないが、何事も一生懸命で微笑ましい。


(俺とは、正反対だよな)


 夢が、願望だと言うんなら――認めよう。自分は、樹里が好きなのだ。

 しかし、樹里は自分なんて全く相手にしてくれない。そんな相手に告白したら、翔生が傷つくだけではなく周りの嫉妬で迷惑がかかる。


(……だとしたら、告白なんて出来ないよな)


 誰かを『一番』にするのは、こんなにも相手中心になるのか。相手の一挙一動が、色んな意味で胸にクるのか。

 今まで自分を『一番』にした達を、翔生はとても尊敬した。



 気持ちを伝えることが出来ないのなら、距離を置くべきだろう――そんな翔生の決意は、けれどすぐに覆されることになる。


「きりーつ、れーい」


 翔生の号令に合わせて、三組一同が動く。

 今日の日直は、翔生と樹里だった。そして今朝、珍しく彼女から話しかけてきた。


「分担しましょう。黒板消しは私がやるから、授業の号令はお願い」


 ……オヤジ好きを知らなければ、照れ屋さんと思えるのだが。そっけない態度も、ツンデレだと思えるのだが。

 それでも、断るのも情けない気がして頷いた。

 そして、こっそり(翔生的にはバレバレだが)声に反応していたり、精一杯背伸びして黒板を消す樹里が可愛く見え、我ながら重症だと思っていた。



 元々、日直の仕事はそれ程多くはない。

 授業の後は教室の施錠を確認し、担任に日誌を提出して終わり――だと思っていたのだが。


「日直ー、皆のノート集めて持って来いー」


 今日の最後の授業は担任だった為、仕事を増やされてしまった。

 仕方がないのでノートを集め、書き終えた日誌と共に二人で職員室まで運んだ――のだが。


「翔生ーっ」

「お疲れ、終わったらケーキ食べに行こ?」


 樹里がアウトオブ眼中なのはいいとして、廊下で次々と女生徒達から声をかけられた。


「ありがとう、また今度な」


 内心、困りつつも笑顔で応えていると、隣を歩いていた樹里が不意にボソリと呟いた。


「いいよね、人生楽勝って感じで」


 ……瞬間、カチンときたのは完全な八つ当たりだ。樹里は、彼の気持ちを知らないのだから。


「……自分でハードル、上げてるくせに」

「えっ?」


 気がつくと、翔生はそう言っていた。そしてマズイと思いながらも、続ける言葉を止めることが出来なかった。


「オッサン好きらしいけど、女子高生なんて援交狙いにしか相手にされないだろ?」


 相手を傷つける為の言葉。基本、女の子は可愛がる存在ものだと思ってる翔生が。しかも好きな相手に何故、こんな酷いことを。

 自分で自分を止められなかったことに、我に返って困惑した翔生だったが――そこで樹里の顔を見て、ハッと息を呑んだ。

 ……目を伏せ、口をグッとへの字にしている。

 泣く、と焦った翔生だったが、ここで樹里は思いがけない行動に出た。


「えっ……ちょっ!?」


 ノートの山を持ったまま、いきなり樹里が走り出す。

 一瞬、唖然としたがノートを提出すれば後は自由だ。つまりは、このまま逃げられてしまうことになる。


「……待てよっ」


 呼びかけても止まらない、いや、むしろますます加速した。

 見る間に遠ざかる背中に舌打ちし――翔生もまた、ノートの山を手に走り出した。

 そんな二人を、居合わせた生徒達は皆、呆然と見送ることしか出来なかった。

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