あるメッセージ・イン・ア・ボトル
拝啓
そちらの季節はわかりませんが、いかがお過ごしでしょうか。海はどうですか?海には出られていますか?
突然の手紙に驚かれていることでしょう。わたしはいろいろとありましたが元気です。ちゃんと幸せに暮らしています。むしろ幸せすぎて少し怖いくらいです。ぜいたくな悩みですね。そういえば有名な歌の詞にもありました、あなたの優しさが怖かった、と。この曲は宴会の最後にいつも歌っていましたね、今思い出して懐かしくなりました。
おっと、話が本題からそれました。
いろいろとありましたが元気です、と書きましたが、いろいろとは何かと思ったことでしょう。いろいろは、いろいろです。たくさんありすぎて何から話したらいいかわからないので、最近の出来事を書きますね。
この手紙を書いているいま、こちらは桃のつぼみがほころぶころです。来週にはもう満開かな?といったころ。わたしはいまある港町に住んでいるのですが、そこにはこの時期開かれるお祭りがあります。それは、新しい命を迎えるお祭りです。
この町では、春が近づくとあちらにつながる穴が開いて、そこから新しい命がこちらにやってくるのだとされています。お祭りではそんな新しい命をいろいろな食べ物を用意して迎えるのです。そして、そのあちらにつながる穴は海のどこかにあって、なのでお祭りの最後にはたくさんの漁船が海へ出て、あちらへの手紙を海に流します。
あちら、とは何かですか?あちらは、あちらです。それは彼岸かもしれないし、過去かもしれないし、未来かもしれません。または、まったく別の世界かもしれないのです。こちらとは違うどこか、それがあちらなのですよ。
そして、だから、わたしはいまそのお祭りのためにこの手紙を書いています。届くことを願って。
最後になりましたが、報告がひとつ。恋人ができました。顔は怖いけどとてもステキな人です。わたしは彼を、ええと、その、愛しています。声に出すのはもちろんですが、文字に書くのも恥ずかしいですね。けれど正直な気持ちです。わたしは彼を、ええい、恥ずかしいので2度は書きません。
さて、どうでしょう。まだわたしのことが心配ですか?大丈夫、わたしももう大人です。心配しないでくださいお父さん。
わたし、異世界で掃除代行を生業としています。
敬具
(了)
ありがとうございました。




