12
わたしがこの世界に来てむ月目の日。
それは再びセラさんが交番にやってくる日だった。3日前と同じ、カウンターの前に腰掛けるセラさんは今日も黒いローブを身にまとっている。紅葉色の髪の毛は今日もキレイだ。そんなセラさんを前にして、わたしは意を決して口を開く。
「あのっ単刀直入に申し上げます!セラさんに、魔法製品のクリーニングの取り扱いを提案したいんです!」
「は、クリーニング?」
セラさんはわけがわからないという顔をする。まだ単刀直入に結論だけを述べたのだから無理もない、というか当然だ。これから説明するので聞いていただけますか、と問えばセラさんは、おうと言ってくれた。
「駐在さんも言ってくれたように、やっぱり魔法製品を洗うことには価値があると思うんです、だから魔法製品を洗うことを肯定したうえでどうしたらいいか考えました」
やはり最初の選択肢は魔法製品を洗うことを肯定するか否かだった。洗うことを否定さえすれば、今までと同じような需要が続く。けれど否定をできないくらいにわたしはもう洗うことを広めてしまった。それにやっぱり洗うことは衛生上も価値のあることだと思う。あの真っ黒な水を見てしまっては洗うことをやめられない。答えは圧倒的に肯定だった。
「今までは半年に一度の買い替えが必要でしたけど、これからは半年に一度のクリーニングが必要になってきます、それにひと月に一度洗うだけでも性能は大きく違ってくると思うんです、あっこれは今から実験しないとわからないですけど、そのひと月に一度のクリーニングもサービスとして増やせば、買い替えが少なくなって出た不利益に見合う利益がでると思うんです」
利益が出るかどうかはまだ予測に過ぎないけれど、需要はあるはずだ。どうか試す価値があると思ってほしい。黙って聞いていたセラさんが口を開く。
「クリーニングね、それは俺にもできることなのか?」
「はい、水洗いをして、しっかりと乾燥させます、それでその、これも一つの提案なんですけど」
セラさんは魔法技師だ。魔法製品を作ることができる。
「魔法製品を水洗いできる洗濯機と、しっかりと乾燥できる乾燥機の開発をしてみてはどうでしょうか?」
「機械で洗って、乾燥させると?」
「はい、駐在さんから聞きました、セラさんはとても優れた技術の持ち主だって、なのでそういう機械の開発ができるんじゃないかな、と」
セラさんを見ると、腕を組んであの鋭い目でわたしを睨んでいた。えっなにか怒らせるようなこと言った?
「できるんじゃないかな、だと…?」
「あ、あの」
ひえっわたしついそんななれなれしい口きいてた!セラさんが怒ってしまうのも無理ないよ。
「ごめ」
「俺はセラ・ワイキーだぞできるんじゃないかなじゃねえできるんだよ!」
「なさ」
えっ?
「魔法製品を洗う洗濯機?しっかりと乾燥させる乾燥機?んなの簡単に作ってやるよ!月イチのクリーニングだかなんだか知らねえがそれ用に接客機械を調整することなんざ朝飯前だし顧客情報の管理だって機械の調整で簡単にやってやらあ!」
もしかしてわたしはセラさんのなにかスイッチを押してしまったのかもしれない。隣に立っていた駐在さんがこそっと、お前やるなあなんて言ってくる。ちがうんですちがうんです、わざとスイッチ推したんじゃないんです、なにがスイッチだったのかわかりません。
「そうと決まればさっそく開発に取り掛からねえとな、あばよ!」
「えっセラさん」
待ってくださいセラさんなにがそうと決まったのかわからないです、えっ私の提案を受け入れてくれることを決めたんですかそうなんですか。引き留めようと思わず伸びたわたしの手は、空しく宙をつかんだ。セラさんはフードを被りなおすこともせずにあのテンションのまま交番を飛び出して行ってしまったからだ。あばよってなんですか、セラさんそういうこと言うキャラだったんですか。
駐在さんがぽんとわたしの肩に手を置いた。
「いやあ、まさかあいつの性格をうまく使うとはな、そんなやり方どこで覚えた?」
だから駐在さん違いますわざとじゃないんです!
翌日、落ち着きを取り戻したらしいセラさんが魔法製品を洗っているところを見せろと交番を訪ねてきた。その怖い顔はいかにも恥を忍んでみたいな、ばつが悪そうな、恥ずかしいのをこらえたような表情に満ち溢れていたのでわたしは何も聞かないことにした。




