第18話 借金がゼロになっても終わらない市役所との戦い
裁判所で免責を言い渡され、何百万という重圧からついに解放された。
俺はあの古い賃貸の部屋で、妻と子供たちと静かな夜を噛み締めていた。
だが、本当の地獄は完全に終わってはいなかったのだ。
思い返せば、長年住んだあのマンションを「任意売却」で手放した時、すでに市役所の冷酷な手は回っていた。
俺が国民健康保険料や住民税や固定資産税を滞納していたせいで、マンションが売れた代金の中から、市役所のやつらが税金の未払い分として直接お金を持っていったのだ。
その額、およそ100万円。
任意売却の仕組み上、市役所がそこから回収できる上限ギリギリの金額だ。
「家を売った金からあれだけ持っていかれたんだから、これで税金の滞納もチャラになっただろう」
俺はどこかで、そんなふうに甘く考えていた。
だが、現実はそんなに優しくなかった。
数日後、仕事から帰って家の郵便受けを開けると、見慣れた茶色い封筒が入っていた。
差出人は「市役所」の納税課だ。
嫌な予感がして封を開けると、そこには目を疑うような金額が印字された督促状が入っていた。
俺の税金の滞納額は、マンションの売却代金から100万円を差し引かれても、まだ残っていたのだ。
自己破産をすれば、消費者金融や銀行の借金はすべて帳消しになる。
だが、絶対に消えないものがある。
それが「税金」だ。
法律上、税金だけは免責の対象外となり、どれだけどん底に落ちようが、家を失おうが、死ぬまで追いかけてくる。
督促状の赤い文字を見た瞬間、全身の血の気が引いた。
市役所の取り立ては、普通の借金取りよりもはるかに恐ろしい。
彼らは裁判を起こすことなく、俺の給料や銀行口座を強制的に差し押さえる強大な権力を持っている。
もし口座が凍結されれば、やっとの思いで手に入れた今のギリギリの生活が一瞬で吹き飛んでしまう。
翌日の朝一番、俺は震える足で市役所へと向かった。
納税課の窓口に座る担当者は、冷ややかな目で俺の資料を見た。
「自己破産をされて免責決定されたとのことですが、税金の支払い義務は残っています。あと延滞金の含めて三十万円程残ってますが、一括でお支払いいただけますか?」
俺はカウンターに両手をつき、深く頭を下げた。
プライドも何もなかった。
「申し訳ありません。一括で払うお金はありません。でも、生活を立て直して、少しずつでも必ず払います。だから、口座の差し押さえだけは待ってください」
自分の情けなさに涙が出そうになった。
管財人の前で家計簿を突きつけられた時と同じ、いや、それ以上の屈辱だった。
だが、ここで逃げれば、家族が完全に路頭に迷う。
必死に現在の収入とギリギリの生活状況を説明し、毎月三万円ずつの分割払いにしてもらうよう、泥をすする思いで交渉を続けた。
担当者は渋い顔をしながらも、俺の必死の訴えを見て、なんとか分割払いの約束を取り付けてくれた。
今、お金で首が回らなくなっている奴らに、これだけは絶対に伝えておきたい。
市役所からの封筒を絶対に無視するな。
借金取りの電話に出ないのはまだいい。
だが、税金だけは無視すれば容赦なく口座を止められ、完全にトドメを刺される。
怖いかもしれない。
窓口で怒られるのが嫌かもしれない。
だが、市役所に自分から足を運び、現状を正直に話して頭を下げれば、彼らも鬼ではない。
少額でも払う意志を見せれば、いきなり首を切るようなことはしないのだ。
しかし、年々厳しくはなってきている。
自己破産はゴールではない。
そこから始まる税金との長い戦いがある。
だが、命さえあれば、頭を下げて交渉し、少しずつでも払っていくことができる。
だから、市役所の通知から絶対に逃げるな。
立ち向かえ。
税金から逃げずに戦うことが、本当の意味での再出発なんだ。
次回最終話




