魔道具店での買い物
朝、ギルド内のカフェで朝食を食べながら、本日行こうと思っている魔道具店について話していた。
魔道具店は少しばかり敷居が高いので、アデルさんに事前に相談して私たちだけでも気軽に入れる店を紹介してもらった。アデルさんは私たちの話を聞くと、ギルドでの取引先でもある魔道具店を紹介してくれた上に、事前に魔道具店に連絡までしてくれたのだ。その店はギルドから歩いても30分ぐらいなので、朝食が済んだら早速3人で出掛けようと思っている。
だが一つ問題がある。もし裁縫の魔道具がとても大きかったらどうやって持って帰ればいいのだろう。私たちには空間魔法があるから持っては行けるが、お店で使用する訳にはいかないし、私の作ったマジックバッグもあるけど、それだって人前で使う訳にはいかない。
「キャロル、大きかったら諦めるしかないだろう」リオが言う。
「分かってるわ、やっぱりその時は諦めるしかないよね」
「分解して家で組み立て直そうか?」
マッドがそう言ったので心が揺れたが、リオがそれを否定した。
「マッド、そんなことを店でやったら大変なことになるだろう。全く、キャロルには本当に甘いんだから」
マッドは私の頭を撫でて「俺に作れればいいんだけどな」と呟いた。
私はいつものように男の子のような格好をして出掛けた。
ミシェランに来てからいつも穏やかな気候なので、街歩きは苦にならない。
歩いているのは平民と思われる人ばかりだ。
高級店の前には馬車が停まっていることが多いので、貴族は基本的には馬車を使うのだろう。
魔道具店に到着すると、店主と思われる優しい雰囲気の初老の人が声を掛けてくれた。
「いらっしゃいませ。アデルさんが紹介してくれた子たちかな?」
「はい、そうです。初めまして。中を見させてもらってもいいですか?」
「ゆっくり見るといいよ。聞きたいことがあれば呼んでくれれば説明するからね」
店内には日常生活であったらいいのになと思う物で溢れていた。
私は自動縫い物機を探しながらも、面白そうな魔道具を見掛けると立ち止まって見ていた。
自動日記帳ってなんだろうか、ちょっと気になる。
「キャロル、あったよ、おいで」
マッドとリオに呼ばれて見にいくと、小さな小型の縫い物機が目に入った。
「思ったほど大きくないね」
「うん、小さいから持って帰れるよ」
私が言うと、リオが誇らしげに言った。
マッドが店主に尋ねに行くと、店主は説明に来てくれた。
「それはコンパクトタイプなので小さめの物しか作れませんよ。通常はその倍以上の大きさになります。そのコンパクトタイプであればお値引きさせていただきますよ」
「おいくらになりますか?」
「アデルさんの紹介ですから特別に最終在庫処分価格の2万リラでお売りしますよ」
「触ってみてもいいですか?」
「ええ、何か布をお持ちしますので是非使ってみてください」
そう言うと、店主は足早に別室から何かを持ってきてくれた。
「どうぞ、ハンカチですが差し上げますのでご自由にお試しください」
私は使い方を教わりながらハンカチの縁を縫ってみた。
うわ、すごい使いやすいし、思い通りに動いてくれる、まるで私のしたいことを理解するかのように綺麗に縫ってくれる。
「この魔道具は使用者の魔力を少しだけ使うんですよ。だから思い通りに縫うことが可能になりますが、魔力の少ない方には扱えない魔道具なんです。それもあり在庫になってしまいました。なので長時間の使用は避けてください」
魔力に関しては私たち3人はかなり多いと思うので問題ないだろう。
「魔力が少なくなるとどうなるんでしょう?」
マッドが聞いてくれた。
「こちらの魔道具にはランプを付けてありますので、ランプの色を目安にしてください。碧は正常、黄色は注意、赤は止まる仕組みにしてあります。ただ魔道具は機械でもありますので故障もしますから、ご自身の体調を見ながらお使いください」
私はすごく気に入ったので購入することに決めた。
「僕はあそこの目覚まし時計が気になるんだけど、見てもいいですか?」
リオは非常に寝起きが悪いから欲しいのだろうけど、目覚まし時計で起きれるとは思えない。
「こちらの目覚まし時計は寝起きの悪い方のために作ったんです。森で目覚めるように自然の中にいるような感覚で起きられるんですよ。試してみますか?」
「お願いします」リオは試すようだ。
「では、少しだけ目覚まし時計に触れてください。そのぐらいで大丈夫です。本来はご自身の魔力をこちらの時計に注ぎ込むんですが、今回は今だけの使用ですのでそれで大丈夫です。1分後に設定しましたのでお待ちください」
1分後に鳥の鳴き声が聞こえてきた、それに爽やかな風や木々の揺れる音まで聞こえてくる。まるで森にいるようだ。でもこれでは気持ち良すぎて寝てしまわないだろうか。
「すごいな、これはおいくらですか?」
えっ、リオはこれでは起きれないと思うよ、絶対寝てしまうよ……。
「こちらは人気もあり5万リラになります」
私の買い物の倍以上だわ。
「リオが気に入ったのなら買っても良いんじゃないかな」
マッドの許可が出たようだ。
結局、両方購入して私たちは店を出た。
「マッドは何も買わなくて良かったの?」
「俺は本が欲しいんだ、本屋に行っても良いか?」
大きな書店に行き、マッドは魔法陣の本を10冊買った。
私も神話の本と綺麗な挿し絵の本を2冊、リオは地理の本と栽培の本を2冊買うことにした。値段は全部で12万リラだった。
貯金がどんどん無くなっていくのは寂しいが、知識が増えるのは私たちにとって良いことなのだろう。大荷物になってしまったので、帰りは寄り道をすることなくギルドに帰った。




